愛想は大事
「それでは、新しい同胞に乾杯!!」
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」
傭兵達がビールの入った木のジョッキを高々と掲げる。それに合わせて、俺達もミカスを絞ったジュースが入ったジョッキを掲げる。あの島産の物よりは劣るが、それでも中々美味しいジュースだ。
今は試験を受かった俺達への合格祝いだ。ギルド内にある酒場で、アッガス達やモヒカン達を含めた、このギルドにいる全員が集まっている。
「いやぁ、それにしても凄いな!!あのギルドマスターを吹っ飛ばすなんて!!」
「たまたまだよ。たまたま」
「そんな謙遜するなって!!傭兵は舐められたら終いだぜ?」
「俺は身分証が欲しくて傭兵になっただけで、仕事は殆どしないぞ」
少なくともこの1年間は。
「馬鹿言え!!傭兵ギルドに入った時点で、お前達は傭兵なんだよ。傭兵ってのは、傭兵ってだけで絡まれるんだからな。特にガラの悪い冒険者にな」
アッガスが何かを思い出したのか、疲れた顔をしている。大方、そのガラの悪い冒険者とのやり取りを思い出したのだろう。
「それだけ聞くと、冒険者の方がならず者って感じだな」
「あながち間違いじゃない。冒険者は本当に誰でもなれるからな。弱い癖に粋がる奴が多いんだ。特に、武器を持って強くなった気でいるやつだな。もちろん傭兵にもそういう奴はいるけど........」
あぁ、魔法の力を手に入れて、強くなった気でいるどっかの誰かさん達みたいな感じか。急に手に入れた力という物は、使いこなせなければ強くは無いのだ。それを勘違いして自分の実力だと思い込むものは多い。
俺もあの島にいなかったら、慢心マンになってたかもな。
俺とアッガスそんな会話をしている横では、イスが傭兵達に可愛がられていた。可愛い子供というのは、大抵の大人を魅了するのだ。
「ほら嬢ちゃんこいつも食いな」
「いいの?」
「子供ってのは、遊んで、食って、寝るのが仕事さ。遠慮なんて要らねぇよ」
子供好きのモヒカンが、串焼きやパンなどを沢山イスに与えている。基本肉と果物だけを食べていたイスは初めて食べる料理を中心に、少しずつ味見していた。偉いぞ。ちゃんと野菜も食べてるな。
「あー可愛いわぁ。ねぇねぇあなたの子でしょ?産むのは大変だったの?」
「ごめんねー。私の子だけど産んではないの」
「ん?」
「この子は、仁のお兄さんの子供なんだよ。ちょっと色々あってね。今は私達が親代わりなの」
「............ごめんなさい。無神経だったわ」
「気にしないで」
イスの隣では、花音が数少ない女傭兵達と話している。男が20人近く居て、女2人か。割合としては10:1だ。うーん、多いのか少ないのか分からんな。
2人の女傭兵は剣士と魔導師のようで、1人は軽装の防具に腰から長剣を下ろしている。もう1人は、以下にも魔導師と言った格好をしており、ローブに魔女の様な帽子を被っており、杖と短剣を腰に下げていた。
2人共体は鍛えられており、そこら辺のチンピラが絡んできたら逆に返り討ちにできるだけの技量はあるだろう。
美人かと言われれば、ノーコメントである。ブサイクでは無いとだけ言っておこう。
「そうだ、アッガス。俺は他にも仲間がいるんだが、買ってきて欲しいものを頼まれてんだ。場所、分かるか?」
「何が欲しいんだ?」
「えーと。斧と鋸、ノミと小刀、後は槌と釘と釘抜きかな」
「家でも作るのかそいつは」
俺の買うリストを言うと、的確に突っ込むアッガス。その通り、家を作るんだよ。しかし、そんなことは言えないので、俺は適当に誤魔化す。
「そんなところだ。なんでも、この街よりデカい豪邸を作るそうだぞ」
「あはははははは!!そいつは面白い。もし出来たら俺も呼んでくれ」
冗談と受け取って貰えたようで、アッガスはこれらを纏めて買える店を教えてくれた。既に日が傾きはじめて夕方に近い時間になっているので、少し急がないといけないな。
「花音、イス。行くぞ。今日中にやる事は終わらせておきたい」
「はいはーい」
「はーいパパ」
俺達が席を立つと、アッガスが右手を出して握手を求めてきた。俺もそれに応えるように手を握る。
「もし困った事があったら、俺の名前を出してくれ。この街ではある程度名の知れた傭兵なんでな」
「困ったら遠慮なく使わせてもらうよ」
そう言って、俺達はギルドを出ていく。アッガスから教えてもらった店までは歩いて10分程だ。店主の愛想は悪く、初見お断りの店らしいが、アッガスからの紹介と言えば売ってくれるそうだ。
「とりあえず、身分証はできたからこれで街には好きに入れるな」
俺は発行された傭兵のギルドカードを見る。ギルドカードには、自分の名前と所属傭兵団の名前が書かれている。これだけなら偽装は簡単そうだ。このカードの中に、魔法陣が埋め込まれているが、この程度なら俺でも作れる。偽装対策らしきものは幾つかみえるが、どれも再現可能なものばかりだ。
今度、ドッペルと吸血鬼夫婦の偽装カードは作っておくか。あの3人ならパッと見人間だし、人の街に入るのは簡単だろう。
「そうだねー。次はゆっくり観光したいよ。特に料理関係。久々にパン食べたら泣きそうだったもん。こっそり3つ持ち出したから後で食べよ?」
「あの黒くてふわふわした食べ物美味しかった!!お肉の汁と合わせると格別!!」
俺もパンは少し摘んだが、2年ぶりのパンは懐かしすぎて花音と同じく泣きそうだった。地球のパンのように綺麗な小麦粉から作られたパンではなく、荒い物が残っている黒パンだったが、それでも美味しかった。
肉は、アンスールが作ってくれる特製ステーキの方が美味しかったが。
パンを初めて食べたイスも、パンの美味しさに気づいたようだ。肉の汁を合わせるという離れ業までやっていやがる。
次きた時に買い込むのもありだな。今日は必要な物を買ったら、どのぐらい手元に金が残るか分からないし、そこまで懐に余裕がある訳じゃない。
あぁ、金が欲しい。アッガス達に言った手前、戦争には参加しないし、金を稼ぐ手段が無い。ノルマが怠くて冒険者にはならなかったが、もしかしてたら選択をミスったかもしれない。
そんなことを思いながら歩く事10分、アッガスから教えてもらった店に着いた。
店の見た目は結構普通で、以下にも鍛冶屋と言った佇まいをした店だ。
俺は扉を開けると、そこには不機嫌そうな顔をしたおっさんが机に頬肘をついていた。
「..........いらっしゃい」
うわぁ態度悪ぃ。そんな嫌そうな顔でいらっしゃいって言われても困るだけだよ。接客という物を知らないのかコイツは。
アッガス曰く、腕は良く品質はその他の店より良いそうだ。だからと言って、愛想が悪い事が許される訳では無いが。
「アッガスからの紹介で来た。斧と鋸、ノミと小刀、槌と釘と釘抜きを売ってくれ。予算は大銀貨4枚までだ」
「........少し待ってろ」
そう言って、おっさんは店の奥に消えていく。5分後、俺の言った物を全て抱えたおっさんが戻ってきた。
「大銀貨3枚と銀貨5枚だ。端数は切ってやったから、これ以上の値引きは応じないぞ」
「それでいい」
俺は言われた金額を払うと、マジックポーチに机に並べられた商品をしまう。
「.........アッガスは元気か?」
店を出ていこうとする直前に、おっさんが話しかけてくる。
「さぁ?俺は今日あったばっかりだからな。普段を知らん。まぁ、元気なんじゃねぇの?少なくとも、何か病を患って居るようには見えなかったぞ」
「そうか」
おっさんはそう言って黙り込んでしまったので、俺達は店を出る。日は半分だけ顔を出しており、空を赤く染めている。急いで帰らないとな。
門を潜り、外に出る。中に入る時は色々と質問されたが、出ていく時は傭兵のギルドカードを見せるだけでよかった。やはり身分証があると楽だな。
街を出て少し歩き、人の目が無くなったことを確認してから身体強化を使って猛ダッシュして拠点に帰る。
日が沈んだ森の中は、迷いやすいのであまり歩きたくないのだ。
あの島で鍛えられた俺達は、あっという間に拠点に戻る。時間にして5分後弱。中々のタイムだな。
「あら、おかえりなさい。てっきり街で1晩過ごしてくるのかと思っていたわ」
俺達が帰ってきた事に気づいたアンスールが、出迎えてくれる。
「アンスール達が外で夜を越すのに、俺達がヌクヌクと宿で泊まるのは申し訳が無さすぎるよ。さっさと家を作って皆で住めるようにしないと」
「そういう訳でしタラ、ワタシが早速働きまショウ。道具は買ってこられたのですネ?」
後ろから音もなく声をかけられる。昔なら驚いていたが、今ではドッペルの気配も完璧に把握できるので、驚くことは無い。
「頼むよ........本当に手伝わなくていいのか?」
「大丈夫デス。1晩とは言いませんガ、ふた晩もあれば作れるノデ。団長は好きな事をしていてくだサイ」
「好きな事と言われても、今はやることが特にないんだよなぁ。強いて言えば金稼ぎの手段を考えることか?」
「ほう?では我から少し提案があるのだか良いか?」
またしても後ろから声をかけられる。スコリゴイとスンダルの2人だ。お前達は、後ろから声をかけないといけない呪いでもかかっているのか。
「何?」
「我がかつて、吸血鬼の国の王だと言うことは知っておるな?」
「あぁ、知ってる。確か.......吸血鬼の国、ヴァンア王国だったか?もう滅んでいるらしいけど」
「そうだ。かつて我が興し、築いた王国........実はな。まだあの国はあるのだ」
「へぇ.......」
滅んだと文献には書いてあったが、まだ実在しているのか。
俺が、文献との違いがあるのかと思っていると、スコリゴイはとんでもない事を言い出した。
「それでな。その国、滅ぼさないか?」
「は?」
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