産まれてくる子供は大抵可愛い

マーナガルムのもふもふをしばらく堪能した俺は、まだモフりたいと駄々をこねる花音を何とかフェンリルから引き剥がし、ドラゴン達へ挨拶をしに行く。


正直めっちゃ怖い。ココ最近はドラゴン絡みでなんやかんやあったから尚更だ。


グレイトフルワイバーンに殺されかけ、青竜ブルードラゴンに卵を渡され、赤竜レッドドラゴンに追いかけ回される。そんないい思い出がほとんどないドラゴン達の親玉的存在なのだ。緊張するなという方が無理である。


ドラゴン達は6体とも同じ場所で集まっており、俺達が近づくと一斉にこちらを見てくる。おぉ、中々威圧感がありますね............


ビビっていてもしょうがないので、覚悟を決めて挨拶をする。


「は、初めまして。仁だ」

「初めましてー。花音だよー」


緊張のあまり、声が少し震える。


こういう時一切緊張せず、いつも通りでいられるノー天気な花音が羨ましい。俺もこんな強靭なメンタルが欲しいものだ。


「ふはは。そう恐れるな。人の子よ。ワシらがお主を食うことは無いのでな」


俺の挨拶に対して一番最初に口を開いたのは、輪廻の輪ウロボロスだ。どうやら人間の言葉が話せるらしい。


輪廻の輪ウロボロス。紅く輝く鱗が特徴的な厄災級魔物のドラゴンだ。『竜』ではなく、蛇の様に長い『龍』の方のドラゴンであり、無限を操ると言われている。体長は20m程だろうか?もうデカすぎて大体で測れない。


文献ではよくわからなかったが、その無限を操り、幾つもの国を滅ぼしてきたらしい。その惨状はどれも無惨なものであり、ウロボロスが通った跡は草木の1つも残らないと言われている。


「まぁまぁ、彼らからしたら私達は何時でも気分で命を奪える存在なのですよ?恐れるなという方が無理なのでは?」


輪廻の輪ウロボロスに続いて話すのは、終焉を知る者ニーズヘッグだ。紳士のような話し方で、安心感を与えてくれるような声をしている。


だが、その声に騙されてはいけない。こいつも厄災級魔物だ。しかも、ウロボロスよりもヤバい。


見た目は黄土色と翠色のV字縞模様をしており、ウロボロスと同じく『龍』だ。体長は.......分かんねぇ。めっちゃデカいとしか言えない。


終焉を知る者と言われている通り、この世界の最期を知っていると言われている。そして、唯一この世界が滅んでも生きていける生物だとも言われているいる。


このドラゴンはかつてひとつの大陸を沈めいているらしく、文献には今は亡き幻の大陸『アトラス大陸』があると書いてあった。それには失われた古代技術ロストテクノロジーがあったとされるが、真意は定かではない。


もしかしたら、本当にそんな大陸があったのか聞けるかもしれない。仲良くなったら教えてくれるかなぁ.........


「然り、ウロボロスよ。もう少し笑ってみてはどうだ?」

「ふはは。ワシはこれが笑顔なのだが?え?そんな凶悪?」

「え?そこでアタシに話を振るの?アタシじゃなくてそこの人間に聞いてよ」

「それもそうか、どうだ人の子よ」


いや、俺らにも振るな。反応に困る。ドラゴンの笑顔なんて分かるわけねぇだろうが。ドラゴンはドラゴンだよ。


と、言う訳にもいかない。俺はまだビビっているのだ。しかし、花音はそうではない。普通に思った事を言う。


「分かんないよ。ドラゴンの笑顔なんて。初めて見たんだもん」

「.......うむぅ。それもそうであるな。おいリンドブルム。どうしようもないぞ何とかしろ」

「アタシに無茶言うんじゃないよクソジジイ。そのヨボれた尻尾を焼くぞ」

「いつも言うが、口の利き方には気をつけろ。小娘風情が。その綺麗な翼を食いちぎられたくなければな」

「あ?やんのかジジイ。回るだけが取り柄のウスノロがよ」

「ほう?石を落として粋がる子供が、何かほざいておるな」


ギャーギャーと騒ぎ始めるウロボロスとリンドブルム。え?もしかしてこのまま喧嘩するの?そうなると俺達巻き込まれるよねこれ。大丈夫?


ウロボロスと言い合いをしているのは、流星リンドブルム。かつて流星を降らせ、数多くの国を滅ぼしたドラゴンだ。その流星の数は1000を超え、その一つ一つが国を破壊して行ったと言う。


白く輝くその翼は、太陽の光を反射してさらに輝き、1部の国ではその姿から白銀竜と言われている。場所によっては、神竜と言われ崇められているところもあるそうだ。体長は10m程、このドラゴン集団の中では小さい方だが、それでも大きい。


「やめんか貴様ら。この島を消し飛ばす気か?」


ヒートアップしている2体のドラゴンにしっぽでゲンコツを食らわせる。先程ウロボロスに笑顔はどうだ?と話していたドラゴンだ。


「すまんな人間。こ奴らは、少々頭に血が登りやすくてな。後できつく行っておく」

「あ、あぁ、気にしてないからどうぞご勝手に。原初の竜ファフニール」

「ほう!!我を知っておるのか」

「有名だからな」


原初の竜ファフニール。最古の竜の一体であり、その力は絶大。こうしてウロボロスやリンドブルムと並んでいても、格の違いがよく分かる。一体だけ桁違いに強い。


見た目は、漆黒に包まれた鱗に、紅い翼膜。朱色の目は何者も逆らう事が出来ないような鋭さを持っている。体長は15m程。


特に何か国を滅ぼしたという文献はないが、どの文献にも圧倒的な圧を感じその時点で人々は抵抗を辞めたと書いてある。


今はその圧を抑えてくれているのか、俺達が怯えることは無い。


「我も有名のか、そうかそうか。それは少し嬉しいな。我も人間共を威圧して回った甲斐があったというものだ」

「んん????」


今すごいこと言わなかった?人間を威圧して回った?.........まさか


「あー、原初の竜ファフニール?」

「ファフニールで良いぞ」

「ファフニール。もしかして有名になりたかったから、人間の街に現れて威圧してたのか?」

「そうだぞ!!殺してしまっては、我を語り継ぐ者がいないと思ってな!!威圧だけにとどめたのよ!!」


そう言ってははは!!と笑う。


ガキかてめぇは!思考回路が有名人になりたかったからと言って、殺人する奴と一緒じゃねぇか!!


あぁ、ちょっと原初の竜ってカッコイイなと思ってた俺が馬鹿だった。


「ん?何を頭抱えておるのだ人間」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」


勝手に幻想を抱いて、それをぶち壊されただけだから。


「ジャルル.......」

「キュルル」

「お?そうだな。お主らはまだ話してなかったな。人間よ。あと2体紹介するぞ。頭抱えてないで、こっちを向くのだ」

「あ、はい」


そんなわけで、紹介されたのは強大な粉砕者ジャバウォックと死毒ヨルムンガンドだ。この二体は人間の言葉を話せないらしい。


先ずは、強大な粉砕者ジャバウォック。茶色の鱗を持っているのだが、羽が無く、ゴジラのような体格をしている。尻尾もかなり太く長く、この尻尾でバランスとっているのがよくわかる。体長は20mぐらいかな?こいつもデカすぎてわからん。


強大な粉砕者ジャバウォックは、ハンマーのようなもので全てを粉砕者する事で有名なドラゴンだ。『粉砕の槌』と言われるその攻撃は、たった一撃で街を跡形もなく粉々にする。正に粉砕の名に相応しい魔物だ。


次に死毒ヨルムンガンド。このドラゴンもほかのドラゴンとは見た目が違う。このドラゴンの場合は、見た目が百足だ。正直ちょっと気持ち悪い。黒く光る外殻に、青い触角。脚の先端は鋭く尖っており、踏まれたらそのまま胴体にトンネルを作ることになるだろう。


このドラゴンは空を飛べない代わりに、土の中を潜ることができる。現に少しだけ地上に顔を出しており、胴体は土に入ったままだ。そのため大きさが分からないが、文献だと街ひとつ囲めると書いてあったな。


死毒の名の通り、毒を操る。その毒はとんでもない程強力で、たった一滴で街中の人間が死ぬと言われている。


その毒を食らった土地は永遠に毒に侵食され、作物が育つことは無い。ほかのドラゴンに比べて陰湿だが、一番えげつないと思う。


この2体のドラゴンは結構大人しくて、ジャバウォックは尻尾で、ヨルムンガンドは触角で握手してくれた。言葉が話せないドラゴンの方が、仲良く出来そう。


よし、挨拶回りは終わったし、アンスールのところに戻るか........あれ?なんか忘れてね?


「あ、そうだファフニール」

「なんだ人間よ」

「実は青竜ブルードラゴンから卵を貰ったんだけど、孵化ってどうやればいいんだ?やっぱり人間じゃ無理か?」


危ねぇ危ねぇ。元々孵化の仕方を聞きたくてここに来たのに、それを完全に忘れてた。こんなにアクの濃い面子がいたら忘れちゃうよね。俺は悪くない。


「竜の卵は魔力を喰らう。貴様とその番の魔力をくれてやれば、孵化すると思うぞ?」

「番?」

「貴様の隣におる人間の事だ。番なのだろう?」

「はーい!番です!!」


ファフニールに番と呼ばれて、機嫌良さそうに手を上げる花音。


まぁ、否定はしないが、番って言い方はやめて欲しい。なんか生々しく感じる。


こうして、厄災級魔物達との顔合わせは終わり、アンスール達と洞窟に帰る。ちなみに、明日からドッペルゲンガーと吸血鬼夫婦が俺達の戦闘訓練をしてくれるようだ。


「さて、魔力を注げばいいんだよな?」

「そう言ってたね」

『楽しみ』

「どんな子が生まれるのかしら」


今、俺達は卵の前にいる。孵化のやり方を聞いたので、それを実戦するつもりだ。ファフニール曰く、ドラゴンでも1週間は魔力を与え続けなければいけない程魔力が必要なそうだが、俺と花音の魔力を合わせればどうということは無い。


「よし、行くぞ花音」

「うん」


俺と花音は卵に触れると、魔力を卵の中に流す。おぉ、確かに魔力が卵に吸収されていってるのがわかる。そして、これはかなり魔力が必要だな。


3時間後、俺達の魔力がすっからかんになった。ファフニールの野郎。どこが余裕で魔力が足りるんだよ。めっちゃ魔力食うじゃねぇか。


「あら、ヒビが入ってきてるわよ?」

『本当だ。生まれる』


ピキピキと殻が破れ、中から小さなドラゴンが姿を現す。


「キュアァァァ!!」


元気に鳴いたそのドラゴンの幼体。色は青黒く、母親である青竜ブルードラゴンの色とは全く違う。幼体だとそうなのだろうか。


サイズは手のひらサイズで、これからあそこまで大きくなるのかと思うと、驚きだ。


「キュル?キュア!!」

「へ?うわ!!くすぐったいよー」


ドラゴンの幼体は可愛らしく首を傾げた後、花音の肩まで上りほの頬を舐める。その後、俺の肩に上り俺の頬も舐める。ザラザラとした感触が頬を襲い、くすぐったい。


「名前はどうするの?」

「もう決めてある。イスだ。問答無用でメンバーに入れるから、よろしくな」

「キュアァァァ!!」


俺の言葉を理解しているのか、名前をつけると元気に鳴く。やっべすげぇ可愛い。この日は夜遅くまでイスを4人で可愛がった。翌朝、なかなか起きれなかったのは言うまでもない。

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