第一印象は見た目と挨拶で決まる
「ほう、貴様らが最近この島に着いたと言われる人間共か」
俺達が話しかける前に、先にこちらから話しかけてきた魔物が2体。どうやら彼らは、人間の言葉を話せるようだ。
「初めまして、真祖ストリゴイ。俺は仁」
「初めましてー。私は花音。よろしくね!!」
「あら。中々可愛い子たちじゃないの。アナタ」
俺たちの紹介に、反応したのはもう1人の吸血鬼、真祖スンダル・ボロンだ。
「初めまして、真祖スンダル・ボロン」
「初めましてー」
「はい、初めまして。私の事はスンダルでいいわよ。ほら、アナタも挨拶する!!」
「初めましてだ」
スンダルはストリゴイに挨拶をするように肘で突っつくと、ストリゴイは大人しく挨拶を返す。
なんと言うか、傲慢そうな態度をとっている割には尻に敷かれてそうな人だ。
真祖ストリゴイ。かつては吸血鬼の王国で国王をしていた伝説の吸血鬼だ。人間との戦争に敗れ、敗走。その後、厄災級魔物に指定された少しほかの魔物とは違う経歴を持っている魔物である。
その見た目は、まさに高貴な吸血鬼と言った感じで、ストレートロングな灰色の髪に、ルビーのような赤く輝く目。目は少し細いが、恐ろしく整った容姿。肌は白く、モデルのように高い身長とパーフェクトなスタイル。
服装は黒を基調としたコートを来ているが、俺達のように厨二病のような物では無く、清潔感溢れる貴族が着そうなコートだ。所々に赤いラインが入っており、玉座に座れば確かに王の威厳があるように思える。
そして、その隣で微笑むのは真祖スンダル・ボロン。真祖ストリゴイの嫁であり、かつては吸血鬼の王国の王妃であった人だ。もちろん厄災級の魔物である。
白く長い髪に、真祖ストリゴイと同じ赤い目。彼女も恐ろしく顔が整っており、ぱっちりと開いた目に、シュッとした顔。スタイルはモデル体型で、黒いドレスを身に纏っている。肌は絹のように白い。
「しかし、なぜ人間風情がこのような所にいるのだ?」
「あぁ、それはな———」
〜少年説明中〜
「ほおー。この世界以外の世界から来た勇者とな。中々興味のそそられる話だな」
「そんな平和な国で暮らしてきたのに、いきなり連れてこられて戦えだなんて大変ねぇー」
説明を終えると、それぞれ思い思いの反応をする。ストリゴイはい世界に興味を持ち、スンダルは俺達の境遇に同情していた。
その後、15分ぐらい話たが、中々話のわかる吸血鬼だった。
「おっと、もう少し異世界の話を色々と聞きたいところではあるが、今日は貴様達の挨拶回りを優先せねばな。また後で話を聞かせてくれ」
「分かった。また後で話してやるよ」
「カノンちゃん、後でゆっくりお話しましょうね」
「また後でね。スンちゃん」
結構話しやすかったし、あの二人とは仲良くやって行けるだろう。人間に近い見た目なのも、俺達が話しやすかった要因のひとつかもしれない。
「次は、何処に挨拶すればいいんだ?」
「ワタシなんて、どうでショウか?」
後ろから声をかけられて、反射的に裏拳を放つ。こいつ探知を常にしているのに、それを掻い潜ってきやがった。
俺の放った裏拳は、後から声をかけた主に対して届くことはなかった。手首をいとも容易く掴まれる。
「オット。急に殴りかかってくるトハ、随分な挨拶ですネ?」
「..........自己像幻視ドッペルゲンガー」
「ハイ。初めましテ。ジンさん、カノンさん」
俺達の後ろにいたのは、厄災級魔物、自己像幻視ドッペルゲンガーだ。
見た目は完全に木偶で、のっぺらぼうの様な顔はとても不気味である。
自己像幻視ドッペルゲンガーは、その見た目を自由に変えることができ、かつては一国の王に成りすましていた事もあるという記録が残っている。更に、ただ変化するのでは無く、その変化した対象の記憶や技術すらも真似るので、見分けが完全につかないのだ。
こんな見た目だが、戦闘能力も高い。その一国の王となっていたドッペルゲンガーは討伐されたのだが、そのときは
あれ?もしかして今これヤバい?反射的に殴りかかったけど、もしかして俺今喧嘩売っちゃった?
そう思ってハラハラしていると、ドッペルゲンガーは俺の手首を放して手を叩く。
「素晴しイ反応でシタ。探知はまだまだのようですガ、反射的に殴れるのハ修羅場を何度も潜った証拠でス。誇っていいですヨ」
「え?あ、ありがとう?」
「カノンさんも素晴らしイ。ワタシの声を聞いた瞬間に、異能を使ってワタシの足止めをしタ。中々いい判断デス」
「それはどーも」
俺は気づかなかったが、確かにドッペルゲンガーの足には鎖が絡みついている。しかし、その鎖は所々千切られていた。
「シカシ、2人ともまだまだ発展途上。どうでス?今後ワタシと一緒に訓練しませんカ?」
この魔物、スゲェマイペースなんだけど。急に後ろに現れたと思ったら、今度は訓練のお誘いかよ。
ただ、この提案は渡りに船だ。俺達は弱い。このままだと、戦争する以前に魔王に殺される可能性がある。この島を出る算段がついていない以上、今できることは強くなることだ。
「いいだろう。少なくとも、
「うむぅ、それは賛成だけどちょっと不安........」
花音の気持ちも分からなくはないが、厄災級魔物とやり合って勝てるぐらい強くなれば、そうそう死ぬことは無いだろう。
「先程の会話を聞いていたノデ、何かお力になれればと思居ましたガ、これならお力になれそうですネ。そうでショ?」
「ふむ、そうであるな」
「そうねぇ」
「「?!」」
またしても、探知をすり抜けてきたのは、先程まで話していたストリゴイと、スンダルだ。いつの間に真後ろに居たのか分からなかった。
もしこれが殺し合いだとしたら、俺も花音も相手のかおを拝むことなく殺されていただろう。
背中から溢れ出る冷や汗が止まらない。
「おや?我らの接近に気づかなかつたのか?結構普通に、歩いてきただけなのだがな」
「そうねぇ。私も少しは気配を消したけど、普通に歩いてきただけよ?ちょっとガバガバ過ぎないかしら?」
「これは最初の訓練内容ガ、決まったナ」
俺達にどんな訓練をするのか勝手に盛り上がり始めたので、俺と花音は3人を放っておいてほかの魔物に挨拶をしに行く。
次は犬と狼の所だ。理由は、ドラゴンに比べればまだ怖くないと言う理由である。
「ガルゥ」
「ゴルゥ」
「「「グルル」」」
集まっていた三体の魔物の近くに行くと、よろしくと言わんばかりに顔を寄せて鳴いてくる。どうやら彼ら?は人間の言葉を話せないようだ。
そして、俺も彼らの言葉を話せないし、分からない。
「えーと。俺は仁。よろしく」
「花音だよ。よろしくー」
それぞれの魔物達に握手をする。握手と言うよりはお手って感じだけど........
「うわぁー!!もふもふぅ!!気持ちいいよー!!フェンちゃん!!」
「ガルゥ!!」
三体の魔物と挨拶をしていると、花音が神狼フェンリルに抱きついていた。もふもふ大好きな花音は、この毛並みに勝てなかったようだ。
抱きつかれて撫でられている神狼フェンリルも、気持ちよさそうに目を細めている。貴方厄災級魔物ですよね?完全に飼い犬のそれなんですが........
神狼フェンリル。白銀の毛並みを持った厄災級の魔物だ。今は花音が気持ちよさそうにもふもふしているが、その毛は戦闘時の時、鋼鉄のように固くなり、刃は欠け、矢は弾かれ、魔法は受け流される、と言われている。
体長は5m程もある巨体。伏せの状態でないと、視線が合わないほどだ。デカい。
獣人の間では、神の獣として崇められており、神狼と呼ばれている。
「ゴルゥ。ゴルゥー」
もふもふを堪能している花音を若干呆れながら見ていると、俺の周りを尻尾が胴体を巻くように絡みつく。
おぉ、すっごいもふもふだ。ヤバいもふもふだ。もふもふだ(語彙力)
神狼フェンリルのもふもふに対抗するように、俺に尻尾を巻き付けてきたのは、月狼マーナガルムだ。
月を追い、太陽をも喰らうと言われるこの狼は、黒に限りなく近い紫色の毛並みをしている。神狼フェンリルとは反対のような存在だ。
見た目もかなり神狼フェンリルと近く、違うのは毛並みと、右目の下にある紅い稲妻があることぐらいである。
かつて、太陽の光を失わせる大災害『失墜ノ太陽』を引き起こした張本人だ。尚、どうやったかは不明。
そんな恐ろしい魔物が、今俺に尻尾を巻き付けている。普通なら怖くて恐れるところなのだが、なんと言うか厄災級のバーゲンセールで感覚が鈍ってる俺は、その高級毛布なんぞ足元にも及ばない程素晴らしい肌触りの尻尾を堪能するのだった。
「「「グル.........」」」
そして、そんな俺たちを見て呆れている魔物が一体。地獄の番犬ケルベロスである。
体長は3m程とほかの2体と比べて少し小さいが、頭が3つある魔物だ。もちろん厄災級の魔物であり、その力は絶大。ケロベロスが吠えれば村は消し飛び、歩けば街が亡び、火を吹けば国が焦土と化すと言われている。
おとぎ話の敵役としてよく出てくる魔物であり、英雄はグリフォンと共に地獄の番犬ケルベロスを倒す描写がある。
言うことを聞かない子供には、「いい子にしていないと、地獄の番犬ケルベロスがやってきて冥府へ連れて行っちゃうわよ」と言われることが多い。
恐らく、1番広く知られている厄災級魔物だろう。
そんな厄災級魔物代表のケルベロスの、すっごい呆れた顔を見れるのは貴重なのではないだろうか。
彼は苦労人な気がする。自由奔放そうなフェンリル、それに対抗しようとするマーナガルム、それらを纏めるケルベロス。うん。絶対苦労するわ。
俺は心の中でケルベロスに同情しながら、マーナガルムのもふもふをしばらく堪能するのだった。もふもふだぁ..........(脳死)
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