同居人は可愛い蜘蛛

翌朝、見張り番をしていた俺は花音を起こす。


「おい花音。起きろー朝だぞー」

「んみゅう.........あと2時間........」

「そこはあと5分って言うところだろ.......いいから起きなさい。朝ですよー」


若干寝ぼけている花音を起こすと、俺は早速朝食の準備に取り掛かる。昼は、森の中を移動している都合上軽いものしか食べれない為、朝からガッツリ肉を食べるのだ。


ここ1ヶ月ずっと焼いて塩を振った肉と果物しか食べてない。あぁ、焼き鳥のタレが欲しい。


いつものように肉を焼いていると、俺の足元にいた達がシャーシャー言ってくる。


「ん?お前達も食べるのか?いや、でもお前達のお母さんに許可もらってないしなぁ.......」

「シャーシャー!!シャー!!」

「え?もうすぐ帰ってくるだろ?明け方に出ていったんだから。お母さん帰ってくるまで待ちなさい」

「シャーシャー!!シャシャ!!シャー!!」

「だーかーらー!!俺はお前達の保護者じゃないの!!あの蜘蛛さんがお前たちに何食わせてるのか分からないんだし、体に害があっても困るだろうが!!」

「んーあー仁?」

「なんだ花音。今見ての通り忙しいんだけど」

「いや、その蜘蛛達何?昨日いなかったよね?」


あぁ、なんだその事か。この洞窟に入る時、もちろん安全確認はしている。何かいると探知できなかったわけだからここにいるのだ。


「この蜘蛛たちは、昨日もいたそうだぞ。影の中に入れる蜘蛛らしくてな。確か影蜘蛛シャドウスパイダーって名前の魔物だな」


見張り番をしていたら、急に反応があってびっくりしたぜ。


今俺の周りにいるのは、子供の影蜘蛛シャドウスパイダーで、体長はだいたい10〜15cm程。今狩りに出かけているお母さん蜘蛛は、体長1m程のビッグサイズの蜘蛛だ。


全身が黒く、目の色は赤い。影から襲いかかり、音を立てずに獲物を狩る事から『沈黙の狩人』と呼ばれていたりもする。もちろん上級魔物だ。


ただし、攻撃時には影からでなければならないので、俺のように常時気配探知をしている敵には気づかれやすい。


尚、影に入っている時は、気配探知をいとも容易くすり抜けるそうだ。そのせいで、夜は探知できなかったんだな。あと夜行性ではない。夜の方が絶対強いのに........


「うんうん。それは分かったけど、その蜘蛛をどうして仁が面倒見てるの?」

「忘れたのか?俺の体質」

「蜘蛛と蛇と心霊現象に異様に好かれる奴でしょ?ほんと不思議だよね」


花音の言う通り、俺はちょっと不思議な体質をしている。俺はと言うよりは、俺の家系かな?


俺は蜘蛛と蛇と心霊現象に好かれ、お袋は犬と猫、親父はネズミとハムスター、妹は蝶と蜂に好かれるのだ。


しかもその好かれ方が異常で、俺の場合は野生の蜘蛛と蛇が毎日のように部屋に勝手に侵入してきては、俺にまとわりつくのだ。


心霊現象も同じように俺の部屋だけ起こる。医者や専門家に話を聞きに行ったこともあったが、理由は全く分からないらしい。


他の家族も同じような感じなので、我が家はとてもカオスだった。ご近所さんから噂されるレベルである。


そして、この世界でもこの体質は変わっていないらしい。影蜘蛛シャドウスパイダーとは、出会って直ぐに仲良くなった。


「........蜘蛛型の魔物にも好かれるのか。さすが仁だね」

「この体質のおかげで、今回は死なずに済んだな。もし、好かれる体質じゃなかったら今頃餌になってたかもしれん」


この体質で得したことは少ないが、今回はマジでラッキーだったかもしれない。


影に隠れれる系の魔物には、気配が探知が通用しないことがわかったのも大きな収穫だ。これからはもっと警戒する必要がある。


「それで、早速お守りを頼まれたの?」

「あぁ、コイツら結構ワガママでな。言う事聞かすのが大変なんだよ。花音も手伝ってくれないか?」

「いや、蜘蛛の言葉分からないんですがそれは........」


確かに、普通の人は蜘蛛の言葉なんて分からないか。俺みたいに、四六時中蜘蛛と一緒の過ごしてたような奴じゃなければ。


「「シャーシャー!!」」

「ん?おぉ、帰ってきたな」


子蜘蛛達が洞窟の外を向いて騒ぐので、そちらを向くと、大きい蜘蛛がレッドアイホーンラビットを2匹担いで帰ってきた。


「おかえり」

「シャー、シャシャシャシャー?」

「いや、何も食べさせてないよ。俺達にとって大丈夫でも、蜘蛛には毒とかありそうだからな」

「シャー!!シャシャシャー」

「へぇ、焼くのは多分大丈夫か。それじゃついでに焼いてやるよ。内蔵も食べるのか?」

「シャー!!」

「わかった。ちょっと待ってろ」


お母さん蜘蛛と話した後、俺は今し方狩ってきたレッドアイホーンラビットを捌き、串を刺していく。毎日のようにやっているからか、最近はかなり早くできるようになったのだ。


一方花音はと言うと、お母さん蜘蛛に挨拶していた。


「あ、どうも。花音です。ウチの仁がお世話になっております」

「シャ、シャシャシャー」

「ご近所の挨拶かおまえらは」


しかも、お互いに微妙に分かりあってそうだ。花音もお母さん蜘蛛も、頭をペコペコ下げあっている。蜘蛛と人間という構図を除けば、完全に引っ越してきたご近所に挨拶している風景だ。


花音とお母さん蜘蛛は言葉が通じないながらも、何とかコミュニケーションをとっており、肉がやける間ずっと話していた。


殆どは手振り身振りだったが、意外と通じるらしい。地球の蜘蛛に比べて知能が高いからかな?


俺は肉を焼きながら子守りだ。火は蜘蛛にとって危険なので、近づかないように言い聞かせながら肉を焼く。


「.......よし、焼けたぞ。串は外して食べるか?」

「シャー!!シャシャ、シャー!!」

「「「「シャー!!」」」」


肉が焼けると、俺はお母さん蜘蛛の要望通り串から肉を外して地面に置く。皿がないから土などが着いてしまうだろうが、まぁ彼女?達からしたら大した問題ではないのだろう。実に美味しそうに食べていた。


「ねぇ仁、これからこの子達と一緒に暮らすの?」

「多分そうなるだろうな。お母さん蜘蛛にもそう言ってあるし。問題あるか?」

「いや特にはないよ。と言うかお母さん蜘蛛って呼びにくくない?名前はあるの?」

「無いらしいな」

「ねぇ仁、この子達情報を集めるには、もってこいだとは思わない?影に隠れて探知が出来ない。大人になれば1m以上あるから盗みもできるし、強いから殺しもできる。そして、バレてもただの蜘蛛だとしか思われない。私達のにはふさわしいんじゃない?」


なるほど、花音はこのお母さん蜘蛛とその子供たちをスカウトしたらどうだと言っているのだ。確かに、影に隠れれる能力は魅力的だ。お母さん蜘蛛曰く、影には自分以外のものも入れれることができるらしい。生きているものは無理らしいが。


俺達が必要としているには、情報収集系は絶対にいる。この蜘蛛たちなら、バレる心配も少ないし、バレたとしてもただ蜘蛛の魔物が入り込んで来たとして処理される。こちらの情報漏洩はかなり抑えられる。


デメリットとしては、俺以外には言葉が通じにくい事ぐらいだが、案外頭のいいこの蜘蛛たちなら文字ぐらいは覚えてくれるかもしれない。そう考えると、かなり優良物件なのではないだろうか。


「確かに、戦力としても、情報収集系にしても、かなり使えるな。だが、俺達が提示できるメリットがないぞ?」


雇うとしても、協力してもらうとしても、何かしらの報酬は絶対に必要だ。信頼だけで成り立つ組織などこの世にない。


花音はそこも考えていたようで、蜘蛛達に向かって指を指す。


「あるじゃん。ほら」


花音が指を刺したのは、俺が焼いた肉だ。これが報酬になるのか?


「この子達多分、この肉ウメー!!って言ってるでしょ?」

「言ってるな」

「この子達は自分で火を起こせないし、調理もできない。なら、私達がそれを提供してあげれば?」

「え?そんなんでいいの?」

「蜘蛛に金渡しても意味無いでしょ?」


それは確かにその通りである。豚に真珠ならぬ、蜘蛛に金貨になってしまう。


「とりあえず話してみたら?案外すんなりと受け入れてくれるかもよ。ほら、仁は蜘蛛と蛇と心霊現象にモテるから........」

「なんだろうモテるって言われたのに、全く嬉しくない」


出来れば人間の女の子にモテたいなぁと思いながら、お母さん蜘蛛に話しかける。もしかしたら、最初のメンバーになるかもしれないのだ。気合を入れて行かねば。


「ちょっといいか?」


焼いた肉を食べきって、余韻に浸るお母さん蜘蛛に話しかける。そんなに美味かったかその肉は.......


「シャ?」

「んーあー.......単刀直入に言うか。俺と一緒に来ないか?」

「シャシャ???」


困惑するお母さん蜘蛛に俺は説明をする。この島からの脱出や、その後の計画、それに伴うお母さん蜘蛛達の役割等など。20分もの説明をお母さん蜘蛛は、しっかりときいてくれた。


「────というわけなんだ。断ってくれても構わない。報酬は言った通りだ。もう一度聞こう一緒に来ないか?」


すると、お母さん蜘蛛は間髪入れずにこう答えた。


「シャ!!」

「本当か?!ありがとう!!」

「シャー、シャシャシシャシャーシシャ。シャシャシャーシャシャ?」

「あぁ、もちろんこの悪ガキたちも一緒だ。それでだな、お母さん蜘蛛に名前を付けたいんだがいいか?」

「シャー!!」


お母さん蜘蛛からOKが出たので、名前を考える。候補は22個ある。その中で1番当てはまりそうなのは........


「ベオークかな。ベオークって名前はどうだ?」

「シャー!!」


両足を振り上げて、喜びを表現するとベオーク。どうやら気に入って貰えたみたいだ。


「これからも、よろしくなベオーク」

「シャ!!」


俺とベオークはお互いに握手を交わす。


こうして、この島に来て初めての仲間は蜘蛛のベオークになったのだった。

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