安定してきた時が1番危険
オークキングとの戦いから2週間。俺達は、ようやく安定した生活を送れるようになってきた。
その大きな要因として、前回俺が使った魔力圧縮身体強化がかなりモノになってきた事が上げられる。
この魔力圧縮身体強化、俺は魔縮と呼んでいるが、この魔縮は高度な魔力操作が求められる代わりに、破壊力がかなり増す。反動もかなりあるが、しっかりと流す事が出来れば実戦でもかなり使える技術だ。
オークキングの時は付け焼き刃だったが、この2週間とにかく練習しましまくったおかげで、身体強化と同じように使える。これにより、より安定した魔物狩りができるようになった。花音にも教えたが、花音は上手くできないようだった。
ちなみに、倒したオークキングは持ち帰って食べた。めっちゃ美味しかったです、はい。
安定した生活ができるようになったのだが、全ての問題が解決した訳では無い。
「.........暑いな」
「暑いね」
「おかしい。暦だと今はまだ春の気候のはずだぞ」
「神聖皇国ならまだ春だねー」
この島に来て1ヶ月。俺達は、急激に変わった気候に翻弄されていた。
この世界にも四季はある。場所によって暑さなどはもちろん違うが、今の時期なら春の気候のはずだ。だが、昨日あたりからこの島の気温は急激に上がり、俺達の体力を蝕んでいる。
「これはあれか、地球温暖化の影響ってやつか。みんな大好きグレ〇さんが飛んでくる、気候の変わり方だな」
「仁、ここは地球じゃないよ。ここは別世界だよ。グ〇タさんどころか、地球その物がないんだよ。あるのはクソ暑いこのしみったれた気候だけだよ」
「勘弁願いたいね。俺、夏は嫌いなんだ。脱いでも脱いでも暑いったらありゃしない」
「女子の薄着が増えるよ?」
「生憎、着込んだ服からチラッと見える肌の方が興奮する質なんでな」
「知ってる」
俺も花音も、日本の夏よりもさらに湿気を含んだ暑さにはダウンしており、洞窟から1歩も出る気力が起きない。この日、初めて俺たちは丸一日洞窟で過ごした。
翌日、少しは暑さになれた俺達は川で水浴びをしていた。
全裸は危険すぎるので、服を着たままだったが冷えた川の水は、干からびた俺達を復活させるには十分だった。
「ほんと便利だよねー。魔術って」
「描ければ、いつでも、何処でも、誰でも使えるのが魔術だからな。必要になるからと言って、本を渡してきたロムスには感謝だな」
今俺が地面に書いているのは、
魔法陣を描き終わり、その上に乗って魔法陣を起動させる。
あっという間に、濡れていた箇所は乾いてしまった。
「おぉ、やっぱこういう所は、ファンタジーの方が便利だな。地球だとこうはいかない」
「おー凄いね。本当に乾いちゃった。魔法陣を描かないといけないのは少し不便だけど、便利だね」
服と身体を乾かした後は、狩の時間だ。もうすぐシュレクスの実が無くなるので、それの回収と今晩の食料となる肉が欲しい。最近はずっとレッドアイホーンラビットの肉しか食べてないので、少し飽きてきたがしょうがない。
「北に行くぞ。鹿肉食いたい」
「中々合わないもんね鹿くん。鹿くん探してると、うさぎちゃんによく会うけど」
「最近は、あのうさぎが上級魔物だって事をよく忘れてる。上級魔物って滅多に出会わないらしいからな?なのに、俺達の食料事情はうさぎちゃん達が握っているとでも過言ではない。それだけ出会ってるってことだな」
「はっ?!もしかして、うさぎちゃんは私達を餌付けしていた.......??」
「命を失う餌付けとか嫌すぎるな」
今俺達が生きているのは、うさぎちゃん達の尊い犠牲のおかげだ。ありがとう、うさぎちゃん達。そしてこれからもよろしく。
そんな事を言いながら、北へと歩いていく。1ヶ月も毎日森を歩いていれば、嫌でも道は覚えるし歩きなれる。最初来た頃よりも、倍近く早く移動していた。
ある程度歩くと、気配がする。どうやら今回はレアを引けたようだ。
「喜べ花音。どうやら当たりだ」
「やった!!
「当たり前だ。うさぎちゃんもいいが、たまには違うの食いたいしな」
現時点でこちらの場所はバレていない。距離としては100m程だろうか。
「魔縮を会得してから奴を狩るのは初めてだな。ちょっと試してみるから、花音はサポートよろしく」
「わかった。逃がしたらお仕置だからね?」
「あぁ、それは怖いな。十三日の金曜日よりも怖ぇよ」
花音のお仕置は勘弁したいので、最初から全力で狩り行こうと思う。俺は魔縮を発動しながら、全力で駆け出す。
圧縮した魔力の反発のおかげで、とんでもない速さで森を駆け抜ける。身体強化を使っていた時よりもさらに速い。速すぎてちょっと怖いけど。
たった2秒で森を駆け抜け、
「シィ!!」
5mもある巨大な鹿の後ろ足に向かって放たれた拳は、容易に膝から下の骨を粉々に粉砕した。
あの強靭な蹴りを放つ
だが、そのオークキングに風穴を空けた俺の拳には耐えきれなかったようで、
俺はそのまま
魔縮によって強化された蹴りは、先程足を砕いた拳よりも威力がある。蹴りは拳の3倍ってね。
パン!!と風船が弾けた様な音とともに、
「よし、頭は吹き飛んだけど、食う分には困らないからいいか」
「お疲れ様、仁。ちゃんと食べる分は残ってるね」
「これでオークキングみたいに腹を吹き飛ばしたら、お前にお仕置されるからな」
「そんなに私のお仕置は嫌なの?」
「いや?別にお仕置は良いんだけど、今やるべきではないだろ。例え
「うみゅ。バレてたか」
「もっと安全になってからな」
そう言って花音の頭を撫でた後、俺は頭が無くなった
川辺に行き、解体を済ませた後シュレクスの実を幾つか回収して洞窟へ戻ってきた。
夕食を済ませ、魔物達も寝静まった夜。俺が見張り番をしている時に、それは起こった。
「.........ん?反応があるな。1.2.3.4.......おいおいおい何体いるんだ?」
海側の南の方から、いくつもの魔物の気配を感じ取った。100を過ぎた後あたりから数えるのはやめたが、少なくとも200近くいる。
俺は何があっても動けるように、花音を起こすことにした。
「おい、花音........起きろ緊急事態だ」
「んん.......お前は黙ってろ.......約束は守るから......」
「なんの夢見てんだお前は。いいからさっさと起きろ。場合によっては逃げなきゃならんぞ」
寝ぼけてる花音の頬を叩いて起こす。花音には悪いが、少し強めに叩かせてもらった。
「仁、ちょっと痛いよ。DVはダメだよ」
「悪いな。後で文句は聞いてやるから、今は探知に集中してくれ。くれぐれもバレないようにな」
「わかった」
俺の真面目さを感じ取ったのか、おふざけ無しで探知を始める。そして直ぐに、俺が花音を起こした理由を悟った。
「なるほど、これはマズイね。もしこっちに来るようなことがあれば、逃げるしかないよ」
「あぁ、戦闘は頭数が違いすぎて話にならない。なんの魔物か分からないが、この森に来るって事は上級とやり合えるだけの強さを持ってるってことだからな。下手したら全員上級魔物かもしれん」
「シャレになってないよそれ。と言うか、こっちに来てない?」
花音の言う通り、反応は俺達のいる洞窟に近づいてきている。これは最悪の展開かもしれない。
「取り敢えず、ここから移動しよう。北に行くぞ。そこで様子見だ」
「了解」
必要なものは全てマジックポーチに入っているので、準備にさほど時間はかからない。火を消して、ついでに俺たちがいた事を悟らせない為に、消臭玉と言われる使い切りの魔道具を使っておく。
何故かポーチの中に入ってたんだよなこれ。今となってはありがたいが。
準備を終えたら、直ぐに北へと移動する。この1ヶ月間俺達はこういう事態に備えて、色々と手は打ってある。
今いる洞窟から北へ20km程離れたところに、ここよりは小さいが雨風を凌げる洞窟を発見している。今回はそこへ向かうつもりだ。
「行くぞ。反応がもうすぐそこまで来てるから、バレないようにな」
「わかってるよ。ここでヘマやらかすようなマネはしないよ」
洞窟を出て、なるべく音を立てずに走りながら距離をとる。花音を担いで魔縮を使ってもいいが、いかんせん足音が大きくなる。静かに動きたい今は、身体強化だけに留めておいた。
森の中を走ること5分、大分元いた洞窟から離れられた。
「やっぱりあの洞窟にいるな。匂いを消しておいて正解だったな」
「そうだね。あれだけの群れとなると、ゴブリン系の魔物かな?」
「いや、ゴブリンならもう少し森を歩くのが遅いはずだ。それに西側にゴブリンたちの群れがあるんだから、そっちにいるはずだろ」
「じゃぁ、なんの魔物なのかな?オークとか?」
「オークは群れても10〜20程度だ。200もの群れは作らない。ほら、オークキングは1匹だけだっただろ?」
「確かに」
「あるとすれば、ウルフ系の魔物だ。あいつらはかなりの数で群れるらしいから、可能性はあるな」
夜行性で、群れるウルフ系の魔物といえば一種類しかない。
「おそらく
漆黒の毛並みに、鋭い牙、体長は3m程もある、夜行性の魔物だ。その鋭い牙と、強靭な顎で噛んだ獲物は逃さず必ず仕留めることから『黒の死神』と呼ばれている。
また、群れを作ることも有名で、だいたい30〜100程度の群れを作るのだが、今回は多すぎるな。1匹で上級魔物とされている訳ではなく、5〜6匹で上級魔物と認定されている。1匹は中級程度だそうだ。
「どうしよっか、せっかくの拠点はこれでおじゃんだよ?」
「そのために他の洞窟も探したんだろ?次は北の洞窟だ」
「これであっちにも
「いや、笑えねぇよ」
その後北の洞窟に辿り着き、その夜を越すのだった。いやぁ、こっちにも
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