魔法.魔術.異能とは?

翌日、俺達は昨日と同じ部屋に集まっていた。今日の予定は、午前中に昨日説明されなかった魔法.異能について。午後からは戦闘訓練だ。


「楽しみだな。異世界といえば魔法って感じだし」


魔法が使えるはずの龍二の顔は、昨日よりも期待に満ちていた。龍二とて男だ。やはり魔法とか、特殊能力とかには心惹かれるものがあるのだろう。男は何時になっても厨二病なのだ。


「いいなぁ、俺は魔法も異能も使えないらしいから、知識だけ頭に入れとけって感じだし.........」

「でもその代わり魔力が多いんだろ?」

「砂漠のど真ん中で水も食料も無いけど、金だけはあるみたいな感じだけどな」


持っていても使えなければ意味は無いのだ。俺の膨大な魔力は、使い道がちゃんとあるのだろうか?不安だ。


「でも仁は無属性なんでしょ?異能が使えるよきっと」


今日は夜更かししなかったのか、しっかりと目を開けている花音が慰めてくれる。


「根拠はあるのか?」

「だって仁が魔法と異能が使えないって分かっても、聖女さんも神官もシスター達も普通の顔してたもん」

「普通の顔?」

「だって本当に使えないゴミだったら、少しは期待はずれな顔するでしょ?わざわざ女神から貰った魔法使って私達を召喚したのに、何も持たない絞りカスの様なゴミが来るなよって。それが誰一人として顔に出てないのはおかしいよ」


花音の言うことにも一理あるかもしれないが、本当に俺が何も使えなかったら絞りカスの様なゴミになるので、もう少し表現を控えていただきたい。


そんな事を話していると、部屋の扉が開かれて1人の老人が入ってくる。以下にも魔法使いですと言った服装をした老人は、その長い白髭を撫でながら俺達に自己紹介する。


「聖堂魔導師団団長、ウェルムス・リン・オスカーじゃ。今日の魔法及び魔術、異能についての説明をするからの。よろしゅうに」


ウェルムスと名乗った老人は、俺を見つけると寄ってくる。そして、俺の顔を覗き込むと、うんうんと頷きながら俺の肩をポンポンと叩く。何がしたいんだこの爺さんは。


「あの、なにか?」

「お主じゃな?異能に目覚めておらん魔力量が異常に多いガキは」


ガキって.......まぁ確かにこの爺さんから見たら16歳なんてガキと同じか。この世界では成人は15歳らしいが、日本でいえばまだまだ子供だ。


「そうですけど........」

「それにしても、とんでもないほどの魔力量じゃな。お主の異能が覚醒した時が楽しみじゃわい」


まるで、俺が異能を使える言い方だ。俺は直ぐに質問する。


「俺は異能が使えませんが、何故使えると?」

「ふむ、では最初に異能について説明するかの」


こうしてウェルムスの授業が始まった。


異能とは、無属性の魔力を持つものが使える魔法とは違う原理で動く力だ。この異能は個人の才能の具現化と言われている。異能が使える者は『能力者』と呼ばれ、能力者は自身の異能を生かせる職業に着くことが多い。


異能が使える様になるまでは個人差があり、早い者だと産まれてすぐ使えるらしいが、遅いものだと5年かかるそうだ。5年以内には必ず異能は発現すると言われており、例外は今まで確認されたことはない。


俺が異能を使えないのは、この世界に来てまだ三日目だから。ある意味、この世界に産まれ落ちたのだ。そう考えれば俺は生後三日の赤ん坊。異能が使えなくてもおかしくない。なるほど、それを予想出来ていたから、俺が異能を使えなくても聖女達は何も思わなかったのか。


異能には様々な系統がある。大きく分けて、操作系、具現化系、魔法系、領域系、特殊系の系統だ。某狩×狩の能力系統かな?とは思わなくもない。


まずは操作系。これは異能によって生き物、無機物を操れる系統だ。異能に優れており、鍛錬を詰んだ達人になると、何人もの人間を操ることすらできるらしい。かつて、異能を使って1万の軍を率いた操作系の天才がいた程だ。


次に具現化系。これは異能によって魔力を物体化させる能力だ。有名な能力者だと、剣を何本も具現化させ、剣の雨を降らせる灰輝級ミスリル冒険者がいるそうだ。花音が使う魂の鎖ソウルチェインもこの系統だと思われる。


次に魔法系。これはほぼ魔法と変わらない異能だ。未だに違いがよくわかっていない、謎の多い系統である。


次に領域系。これは、異能によって一定範囲内に効果をおよぼす能力だ。有名な能力者だと、結界を張る事ができる冒険者がいるそうだ。その結界内に入ると色々と制限がかかったり、バフ効果がつくそうだ。


最後に特殊系。これは、これら4つの系統に属さない異能の事を言う。光司の勇者ヘルトや黒百合さんの四番大天使ウリエルが、この系統に該当する。


そして、異能の特徴の1つとして、保有している魔力量が多い程、強力な異能を持つという事だ。


強力な異能程、消費魔力は大きいので、その異能が使える様に自身の保有する魔力は多くなると言う考えがあるらしい。これは実際に異能が発現しなければ分からないが、期待は持てるだろう。


つまり、俺は追放される可能性を低くする事に成功したのだ!!だが、現時点では俺は使えない子なので、気を抜いてはならない。


「異能についての基礎知識はこんな感じかのぉ。そんなわけで、期待しておるぞ。少年」

「期待しないで気長に待っててください」


勝手に期待されて、いざ異能が発現したら使えない異能だった時が怖い。期待しないで欲しい。いや、マジで。


「ふはは!!期待しておくぞ。さて、次は魔法について語るとしよう」


魔法は、無属性以外の魔力属性を持った者が使える力だ。属性を持った魔力を自身から切り離すことで使え、その切り離した魔力量によって威力が変わる。更に、切り離した際に魔力の形を変えることで、球体や槍の様に状況に合わせた魔法が使えるのだ。


ウェルムスがデモンストレーションで手のひらに、魔法を発動させる。ウェルムスは火属性の魔力を持っているらしく、手のひらの上で小さな火の竜巻が出来上がる。


おぉ、これが魔法!!凄いな!!ちゃんと火の熱さを感じられる!!


初めて見た魔法に、クラスメイト達も身を乗り出して観察する。10秒もすると、火の竜巻は消え去り、ウェルムスの手だけが残った。


「ふはは!!これだけの事でそこまで興奮されると、少し恥ずかしいのぉ。皆も午後には魔法が使える様になるはずじゃ。そこまで焦るではない」


クラスメイト達の興奮ぶりに若干引き気味のウェルムスが、場を収め、説明を再開する。


魔力に宿る属性は1人1つと決まっており、それ以外の属性の魔法を使うことは出来ないそうだ。龍二の場合は、光属性の魔法だけ使えるという事だろう。


魔法には属性によって有利不利はあるものの、この属性が絶対的に優れているというものは無い。火は水に弱く、水は風に弱く、風は土に弱く、土は火に弱い。光は闇に弱く、闇は光に弱い。こんな感じで、属性によっての優劣があるそうだ。


そして、魔法と言えば詠唱。詠唱は自身の魔力の変化をイメージする時と魔力を練り上げる時に必要らしく、問題なくイメージして、魔力を練り上げれれば、必ずしも必要という訳では無い。


確かに、ウェルムスがデモンストレーションで手のひらの上に火の竜巻を起こした時に、詠唱はしていなかったな。


ちなみに、魔法を使う人の事を魔導師と言う。3人に1人は魔導師という事か。


「魔法の基礎知識はこんなもんかのぉ。最後に魔術についてじゃ」


魔術は、魔法陣を介して発動する魔法の事だ。魔法とは違い、魔法陣とその魔法陣を起動できるほどの魔力量があれば、誰でも発動させることが出来る。


俺達をこの世界に召喚したのも、この魔術を使ったものだ。相当な魔力が必要だったらしく、聖堂魔導師が何百人と魔力を注ぎ込んでたらしいが。


魔術は、誰でも使える魔法として、様々なところに役立っている。魔道具は魔法陣を刻み込み、魔石から魔力を吸い出して使うことができるそうだし、紙に書かれた魔法陣を起動して火種を起こす所もできる。


魔法陣は、覚えて正確に書く事が出来れば、何時でも何処でも使える。今、何も使えない俺はこれを覚えておいた方がいいかもしれないな。


「さて、これで説明は終わりじゃ。最後に簡単に纏めるぞ。魔法は自身の魔力を切り取って使う。魔術は魔法陣に魔力を注いで使う。異能は魔力を異能に変換して使う。この違いさえ覚えとけば、戦闘で相手が何を使っているのかがわかる。対策も立てれる。覚えておくのじゃぞ」

「その言い方だと、魔物も魔法や異能を使うのでしょうか?」


光司が手をあげてウェルムスに質問する。


「使うぞ。魔法や異能が、神から与えられた人間や知能あるもの達の特権だと思わない事だ。魔物を甘く見ると、直ぐに死ぬからの.........あ、ひとつ忘れておった。魔力量は増やすことが出来る。魔物を討伐するか、魔力を使い切ることじゃ。今魔力量が少ない者も、頑張れば聖女ぐらいの魔力量にはなるじゃろうから頑張るのじゃぞ」


ふはは!!と笑いながら、ウェルムスは部屋を出ていった。それと同時に、部屋が騒がしくなる。


「次は戦闘訓練だな」


昨日と同じように、龍二は固まった身体を解す。俺も同じように、身体を解しながら、龍二の言葉に相槌を打った。


「そうだな。多分火属性魔法の訓練は、ウェルムスの爺さんだろうな」

「まぁ........そうだろうな。あの爺さんスパルタって感じするけど大丈夫なのかね?」

「苦労するのは俺じゃないからな。割とどうでもいい」

「薄情な。光属性の教官は、優しいお姉さんを希望したい」

「ゴリゴリのオッサンが来ることを祈ってるよ。お前が美味しい思いをするのは許せん」


ただでさえ、イケメンで女子の視線を集めているのだ。訓練ぐらい痛い目を見て欲しい。


「能力者はどうなるんだろうな。それぞれ能力が違うから、教えれる人がいなさそうだが......」

「あれだよ。きっと実践で能力を身につけろって言って組手ばっかりやらされるんだよ」

「まさか」


その後、花音が言っていた事が本当だと知るのは、割と直ぐだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る