習うより慣れろ。いやキツイです
食堂で昼ご飯を食べた後、俺達は訓練場にいた。既にクラスメイト達は集まっており、聖女もこの場にいる。どうやら俺達が最後だったようだ。
「勇者様方、全員揃いましたね。では、これより戦闘訓練を始めます」
訓練場の奥から、ぞろぞろと人がやってくる。鎧を着ていたり、ローブを羽織っていたり、服装はまちまちだ。よく見ると、午前中に世話になったウェルムスもいる。
「この方々が、勇者様方の戦闘訓練の相手を致します。属性毎に分かれるので、各教官に従ってください」
火属性はこっち、水属性はこっち、と教官が指示を出し、属性毎に分かれる。もちろん、俺と花音は無属性の場所に分かれた。
「よし、お前達が能力者だな?私は聖堂異能遊撃団団長、アイリスだ。お前達の面倒を見てやる。私の事はアイリス団長でも、アイリス教官でも、アイリスでも、好きなように呼んでくれ。敬語は不要だ」
俺達の担当教官は、The姉御と言ったような風貌の女性だった。赤いショートの髪に、アメジストのような透き通った紫色の目。肌は健康そうな褐色であり、動きやすさを重視したへそ出しの服を着ている。可愛いよりも、カッコイイが先に来る人だ。
ちなみに、龍二の方の教官はゴリゴリのオッサンマッチョメンだった。ざまぁw
「んーと。とりあえず自己紹介よろしく」
アイリス........団長にしようかな。アイリス団長はお前からなと言って、光司を指さす。この順番だと、俺が1番最後だな。
「高橋光司です。異能は
姿勢正しく頭を下げる光司。やはりイケメンは何をやってもイケメンのようだ。頭下げる動作1つでも、様になる。
「ん、よろしく。はい次」
「黒百合朱那です。異能は
黒百合さんも同じように、頭を下げる。アイリス団長は、程と同じような返答をすると、花音に順番を回す。
「浅香花音。異能は
........まぁ、花音に礼儀を求めるのは間違っているので、俺は何も言わん。アイリス団長もさすがに、“アイリスちゃん”と呼ばれるとは思ってなかったらしく、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしているが直ぐに気を取り直して笑い始めた。
「あははははは!!アイリス“ちゃん”か!!そんな呼ばれ方をしたのは久々だな!!よろしくだカノン」
そう言って、俺に視線を向ける。自己紹介しろということだろう。この人に敬語はいらないかな。
「東雲仁だ。異能はまだ発現していない。よろしく。アイリス団長」
「ほう!!やはり君が異能が使えない少年だね?魔力量が化け物だとは聞いていたけど、本当に凄い魔力量だな!!」
俺に近づき、肩をバンバン叩かれる。普通に痛い。ある程度俺の肩を叩いたらスッキリしたのか、爽やかな笑顔で訓練開始を告げる。
「よし、それじゃ早速訓練と行こうじゃないか。身体強化は使えるか?」
「「「「身体強化?」」」」
俺達4人の声が被る。名前の通り、自身の身体を強化することが出来るのだろうが、その事については何も聞いていない。
俺達が頭を(?)にしているのを察したのか、アイリス団長は頭を掻きながら「あのジジィ説明し忘れたな?」と呟いてから、説明してくれた。
身体強化とは、自身の体の周りに魔力を纏う事で、本来の身体能力を飛躍的に押し上げる魔力を使った技術だ。
魔法では無いのは、魔力を持っているものなら誰でもう使えるため。つまり、魔法も異能も使えない俺でも使えるのだ。これは有難い。戦闘面でクラスメイトには劣ると思ったが、この身体強化を極めればクラスメイトよりも強くなれるかもしれない。
事実、かつて身体強化を極限まで極めた達人は、たった拳一振で山を消し飛ばす程の衝撃波を放てたそうだ。化け物すぎるだろ.......
身体強化の説明が終わり、実際に使ってみることに。
「身体強化を使える様にするに必要なのは、魔力を感じ取る事だ。できるか?」
最初から無理なんですが?と思ったら、
「およ?こんな感じ?」
花音が軽く飛ぶと、とんでもないほどの高さを飛び上がる。花音は既に身体強化を使っていた。何この天才は。
「おぉ!!凄いな!!何も教えずに、身体強化を使える奴は早々いないんだがな」
アイリス団長も感心している。
「アイリス団長。魔力はどうやって感じ取るんだ?」
「ん?今から魔力をお前の身体に流してやるから、感じ取れ」
そう言って、俺の胸に拳をトンと当てると、アイリス団長は静かに俺の身体に魔力を流し込んできた。
カラカラにかわいた喉に、水を流し込んだ感覚が全身を襲う。このゆっくり動くのが魔力か。これを身体に纏うように......纏うように.......
徐々に、魔力が俺の身体を覆っていくのがわかる。今は魔力の操作に慣れていないから、ゆっくり慎重にやるしかない。焦らずに、ゆっくりと魔力を身体に纏い、遂に全身を纏うことに成功する。
「できた。ちょっと飛んでみるか」
魔力を纏った感覚は、纏う前とさほど変わらない。ただ、魔力が体内に流れている事を認知できるようになっただけだ。
どのぐらい自分の身体が強化されたのか、試してみるため、軽くジャンプをする。
「うをぉぉぉぉぉ?!」
花音が飛んで大体3mだったので、油断していた。軽く飛ぶと、景色は一瞬で切り替わり大聖堂の象徴である時計塔が見える。えっと、この訓練場の壁が約6mだから、大体10m飛んでるんじゃね?これ。10mと言えば、一般的な電柱の高さだ。すげぇな身体強化。
そして、俺はあることに気づく。これ、着地どうするんだ?普通の人間が、10mから飛び降りたらタダではすまないだろう。下手をすれば死ぬ可能性だってあるはずだ。
頼みの綱のアイリス団長は、俺を見て感心しているだけで、助けようという気がない。花音も手を降っているだけだ。
これは足の1本ぐらいイくかもしれない。俺は覚悟を決めて着地をする。なるべく衝撃を逃がすように、着地する瞬間に膝を曲げる。それでも衝撃は逃がしきれなかったようで、ドン!!と大きな音を立てたが、俺の足は何事も無かった。
「よかった.......」
「凄いよ仁!!私の3倍は飛んでたね!!」
「生きた心地はしなかったけどな」
冗談抜きに死ぬかと思った。
「と、まぁ、こんな感じで身体能力が強化される。極めれば山だって消し飛ばせるし、魔法は効かず、刃物でも切り裂けない強靭さも手に入る。異能が使えないんだ。頑張ってみろ」
俺が空を飛んでいる間に、他の2人も身体強化を覚えたようで、既に魔力を纏っているのがわかる。どうやら身体強化をすると、魔力が見えるようになるようだ。おかげでアイリス団長の魔力量も測れると思ったのだが、どうも魔力が少ない。なにかしているのか?
「アイリス団長の魔力量が少なすぎないか?」
「んあ?魔力量を見られないように抑えてるからな。後で教えてやるから、今は身体強化に身体を慣らせ。後10分後に組手な」
どうやら花音の話が本当になりそうだ。
10分経ち、大分身体強化に慣れたところでアイリス団長と組手を交わす。タイマンかと思ったら、4人同時にかかってこいとのことだ。
「ひよっこのお前らに負けるほど弱かねぇよ。さっさとかかってこい。ハンデとして私は異能を使わないでおいてやる」
クイクイと手のひらを上に向けて、来いとジェスチャーをするアイリス団長。それに1番早く反応したのは花音だ。
「
花音が発動した鎖は、いとも容易くアイリス団長の足元に巻き付き、その場に固定する。それと同時に花音は身体強化を使い、アイリス団長に接近。身体強化のおかげで、とんでもない速さだ。
花音はそのまま右の拳を振り抜き、アイリス団長の左頬を捉える。バキ!!と鈍い音がするが、花音は止まらない。そのまま流れるように右頬を撃ち抜き、更に鳩尾に蹴りを入れる。身体を鎖で押さえつけているのにも関わらず、若干身体が浮いたのを見ると、とんでもない威力の蹴りだと分かる。
アイリス団長の身体がくの字に曲がり、頭が下に下がる。花音は蹴り抜いた足をそのまま上に上げ、膝蹴りを繰り出し顎を捉えた。くの字に曲がった身体は真っ直ぐに伸び、その隙だらけの身体に花音は容赦なく拳を叩き込む。
一方的な戦闘に思えたが、花音の顔は優れない。
「これが熟練した身体強化.........」
「やるじゃないかカノン。平和な国から来たと聞いていたから舐めていたが、随分骨がある」
ボッコボコに殴られていたはずのアイリス団長だが、ほぼ無傷でその場に立っていた。
「身体強化は魔力を纏うが、纏う量を場所によって変えれる。重点的に守りたい、または攻撃を受ける場所を多くの魔力で覆えば、この通り無傷でいられるわけだ。そして、これは攻撃でも同じことが言えてな..........」
アイリス団長はいつの間にか鎖の拘束を逃れ、花音の目の前に現れる。そのまま花音のおでこにデコピンをすると
「うぎゅ!!」
花音は吹き飛ばされ、俺に受け止められた。
「攻撃時にその場所を多く魔力で纏うと、威力が上がる。工夫して使えよ」
花音は涙目になりながら、額を抑える。不覚にもちょっと可愛いと思ってしまったが、物凄く悔しそうにしているので顔には出さない。
「大丈夫か?」
「今の仁の声で大丈夫になった。あのクソアマ絶対泣かせてやる」
口が悪い悪い。若干素が出ている花音を慰め、俺も戦う準備をする。魔力で身体を覆い、身体を強化。更に今さっき聞いた、魔力を纏う量の変化を試す。今回は足にしよう。身体に纏っているの魔力を、足に移動させ足を更に強化する。
「よし、行くぞ!!」
ヒュン、ドゴォン!!
俺は壁にめり込んでいた。身体強化していたおかげで、怪我はないがめちゃくちゃ痛い。
「おいおい、大丈夫か?お前の身体強化はちょっと強力すぎるな。とりあえず完璧に魔力をコントロールできるようになるまで、ジンとの組手は辞めておこう。死因が事故死(自殺)はダサすぎるだろ?」
「あぁ、せめてお姫様を悪漢から庇い死亡とかの方がいいな」
その後は、魔力操作と言われる、魔力を自分の思い通りに動か技術をとにかく練習してその日は終わった。身体強化を極める道は遠いようだ。
他の3人はアイリス団長とずっと組手。魔力操作をしながら4人の戦いを見ていたが、アイリス団長がえげつないほど強いということはよくわかった。
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