異世界設定は大抵同じ

勇者様コールが終わった後、俺達はこの国で一番偉い教皇様とやらに謁見。ここでは特に何事も無く、平和的に終わった。


ちなみに教皇は、ただのおじいちゃんだった。俺達を見る目が、完全に孫を見ている目。近所の子供好きのおじいちゃんと言う印象しか浮かばない。


その後は各々に与えられた部屋へと案内され、用意された夕食を食べてその日は終わった。まだ聞きたいことや、知りたいことが沢山あるが、今日は疲れた。俺はベットに横たわると、直ぐに眠りについた。


翌日。用意された服を着て朝食を食べた俺達は、この世界のことを知るために、ある一室に集められていた。その部屋には、長机と椅子が置いてあり、大学の教室を彷彿とさせる。


「見ろよ仁。黒板まであるぞ」

「凄いな。異世界まで来て黒板を見るとは思わなかった」

「zzzzzzz」


俺と龍二と花音は席に着き、雑談を交わす。花音は夜更かしでもしたのか、席に着いたと同時に寝てしまった。相変わらずのマイペースぶりだ。


ザワザワとクラスメイト達が話している中、部屋の扉が開けられ1人の女性が入ってくる。聖女リアンヌさんだ。


「勇者の皆様。全員、揃っていますね?改めまして、私はイストレア神聖皇国の聖女リアンヌです。勇者様方と一緒に、七大魔王を討伐しに行きます」


ぺこりと頭を下げる聖女を見て、拍手が巻き起こる。もちろん俺も龍二も、拍手した。......花音は爆睡しているが。


聖女の自己紹介が終わると、早速この世界について、俺達のやるべき事についての説明が始まる。


この世界はイージス。女神イージスによって管理されているこの世界は、かつて大魔王アザトースによって云々。


俺が龍二から聞いたこの話は、創世神話と呼ばれるこの国ができる前の話だ。俺達は大魔王を封印したところまでしか聞いていなかったが、今回は更に続きを聞かされる事になる。


大魔王を封印した勇者ナハトは、1つの国を作り上げた。それがこの国、イストリア神聖皇国だ。この国は、女神イージスを絶対神として崇め、イージス教と呼ばれる宗教を国教とした。


イージス教の教えは、簡単に言うと博愛主義。何一つ差別する事無く、全てを愛するのがこの宗教だ。


その理論で行くと、大魔王も愛するのでは?とは思わなくもないが、それはそれ、これはこれなのだろう。


そんな博愛主義国家の為、人間以外の種族も多くこの国に住んでいる。


ファンタジーの定番とも言えるエルフやドワーフ。モフモフの獣人。竜の血を引いたドラゴニュートやリザードマンの亜人達。よく敵役として出てくる魔人族etc.....細く数えればキリがないほどの種族がこの国には住んでいる。


たしかに地球でも、黒人、白人、黄色人。大きく分けても3つの人種がある。さらに細かく分ければ、北ヨーロッパ系白人、西ヨーロッパ系白人、中央ヨーロッパ系.......と多くの分岐がある。人間だけではなく、それ以外の種族もいるこの世界では、数え切れないほどの種族がいるのも納得だ。


多くの種族がいるということは、それだけ国があるということ。地球ですら、200近く国があるのだ。人間以外の種族がいるこの世界では、もっと多くの国があるのは当然と言えた。その数約600国と言われている。地図を見せて貰いたが、地球にある様な正確無比な地図ではなく、だいたいこんな感じと言った地図だった。これだと大まかな位置しかわからない。


600程ある国だが、大きい国は全部で11個。今俺達がいる神聖皇国の他に、大帝国、聖王国、正教会国、亜人連合国、合衆国、正共和国、正連邦国、大エルフ国、ドワーフ連合国、獣王国だ。


それ以外の国は、属国となっているか、大国の保護を受けながら小さく独立している。それらの国は、大国同士の緩衝地域なのだろう。


神聖皇国に近い大国は、大帝国と聖王国の二国。東から南にかけて大帝国、西側は聖王国だ。北側は海に面している。


隣国との関係は良好、大帝国も聖王国も仲良くしており、戦争が起こるような事は無いそうだ。


逆に仲が悪いのは正教会国。この国は、神聖皇国と同じイージス教を信仰しているのだが、内容が全く違う。


人間以外の種族も差別なく平等に愛するのが神聖皇国の信仰するイージス教だとすれば、人間を絶対的な強者とし、他の種族を迫害する人間至上主義の考えが正教会国の信仰するイージス教だ。


真っ向から考え方が異なる国同士が仲良くできるわけもない。この2500年の間に、何度も戦争してきたようだ。しかし、今回は宗教戦争どころではない。下手をすると、地上から人間がいなくなってしまうので、七大魔王を討伐する間は、お互いに軍を進行させない不可侵条約を結んでいる。


正教会国は南にあり、この国からはかなり離れているらしいので、もし裏切って軍を動かしても迎撃できるそうだ。俺達は魔王討伐に集中しろって事かな?


この国の歴史と、外交関係を知った後はこの世界の常識だ。


まずは時間。1日24時間で、一週間は6日間。それを5週して1ヶ月。12ヶ月で1年。と、非常に分かりやすかった。


光.火.水.風.土.闇で、一週間。無を除いた魔法の属性が名前の由来になっている。月の数え方は地球と変わらないようで、1月いちがつ2月にがつと数えるそうだ。


次は言葉。俺達がこうやって聖女と問題なく会話出来ているのは、女神から授かった異世界召喚の魔法陣にそういう機能があったからだ。これのお陰で言葉は分かるし、文字も読めてかける。ご都合展開だな。


ただ、俺達が話せてかけるのは『共通語』と呼ばれる言葉のみ。エルフが古代から使う、エルフ語などは勉強しなければ分からないそうだ。基本、共通語が使えればどの国でも言葉は通じるらしいので、問題ない。


次に通貨。地球のように紙幣で取引している訳ではなく、全て硬貨で取引している。硬貨は下から、鉄貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨の8枚。それぞれ10枚でひとつ上の硬貨1枚になる。


銅貨1枚でパンを1つ買えるそうなので、だいたい銅貨1枚日本円で100円ぐらいだろうか。って事は、白金貨1枚で1億?!やべぇな。たった硬貨1枚で1億って考えると、持ち運びは楽かもしれないが緊張しまくりそうだ。


大体四人家族で、1ヶ月大銀貨4枚生活できるそうだ。日本円で40万。それだけあれば確かに生活できるだろう。


一応俺達にも金は支給されるらしく、月に大銀貨2枚貰えるそうだ。月20万+衣食住完全完備。それだけ聞くと良さそうに聞こえるが、3年後に死ぬか生きるかの戦いをすると考えると安い気もする。


次はようやくファンタジー要素。魔物についてだ。この世界には魔物と呼ばれる、地球には存在しない生物が存在する。魔物は、体内に魔石と呼ばれる魔力を溜める石の様なものを宿しており、この魔石は様々な用途に使われる。1番多いのは魔道具の動力源らしいが、魔道具がどの様な仕組みで動いているか分からない俺にはさっぱりだ。


魔物は増えすぎると食料確保のため、街を襲う事がある。そうならない様に、魔物を間引く職業が存在する。そう。異世界の定番職業、冒険者だ。


冒険者はどの国にも存在する職業であり、完全に国から独立した冒険者ギルドと言う組織が管理している。なぜ、冒険者ギルドが冒険者を管理しているのかと言うと、国が冒険者を戦力として戦争に使う恐れがあるからだ。冒険者ギルドに所属する冒険者は、戦争があった場合国からの要請に応える形で参加はできるが、国が強制して徴兵できるわけではない。


“冒険者が剣を向けるのは魔物のみ”と言う理念の元、冒険者は戦争に参加しなくてもいいんだとか。


魔物には強さがバラバラなので、ランクが存在する。下から低級、中級、上級、最上級、厄災級の五段階だ。冒険者も同じようにランクがあり、下から鉄級アイアン銅級ブロンズ銀級シルバー金級ゴールド白金級プラチナ灰輝級ミスリルの6段階。


大体の目安としては、銅級ブロンズ冒険者6人で、低級を安定して倒せるらしい。灰輝級ミスリル冒険者にもなると、最上級の魔物を1人でかれるらしい。まぁ、最上級の強さを知らないからなんとも言えないが。


ちなみに七大魔王は厄災級よりも上だと言われている。灰輝級ミスリル冒険者が全員集まっても討伐は難しいんだとか。どんだけ強いんだよ魔王は。そして、それを俺達が倒すのか?灰輝級ミスリル冒険者の強さを知らないが、それは無謀なのでは?と思わなくもない。


最後に魔法、異能についてなのだが、これは専門的な話が多いので明日から行われる戦闘訓練の時に説明を回された。ちょっと楽しみにしていただけに、残念だ。


「ふぁ......ようやく終わったな」


全ての説明が終わる頃には、日が半分以上地平線に隠れていた。神聖皇国の首都であるイーゼスの街全体を静かに照らすその夕日は、今日一日ずっと座って話を聞いていた俺達を労っているかのようだ。龍二は固まった身体を解しながら、欠伸を1つする。


「流石に、丸一日席に座りっぱなしは疲れる。身体が痛てぇ」


俺も、龍二と同じように固まった身体を解しながら、ヨダレを垂らして幸せそうに寝ている花音の肩を揺すって起こす。


「おい、花音起きろ」

「うにゅ?お昼ご飯?」

「お昼ご飯はもう食べたでしょ、おばぁちゃん」


昼ご飯は説明の間にキチンと食べている。パンとスープと干し肉の味気ない昼ご飯だったが、さっさと腹を満たすには十分だったし、普通に美味しかった。もちろん花音も食べている。


「あーそうだそうだ。今度は夕飯だね?」

「お前の頭の中には飯しかないのか?」


確かにこの後は夕飯だけれども。まだぼやぼやしている花音を無理やり立たせて、食堂へ向かう。俺達が泊まっている大聖堂は、かなり広い。あまりゆっくり行き過ぎると、他の人の迷惑になる可能性があるのだ。


「しかし、仁がフラグを踏むとは思わなかったぜ」

「俺が1番思ってるよ。魔法も異能も使えない。何とかして俺はここにいる人達に、使える人材だと思われないと.......まぁ最悪も見越して、俺も上手くやるさ」

「だいじょーぶ。もし仁が追放されたら私も付いてくよ」

「頼もしいな。面倒事しか起きなさそうだが」


ほんと、これからどうしよう。

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