フラグは割とすぐに踏む

「それでは魔法適正を調べます」


声をした方を向くと、そこには明らかに他の神官やシスター達とは違う雰囲気と服装を纏った美少女が佇んでいた。セミロングの若干パーマの掛かった金髪で、見るもの達に慈悲を与えるような優しい蒼い目。花音以上に整った、その容姿に負けない程の煌びやかな服。目の色と同じ蒼色を基調とし、金の刺繍を施されたその服は、この場にいる誰よりも輝いている。スタイルは緩やかな服を着ているので、体のラインが出てなくて分からないが、顔の小ささからして少なくとも太っては無いだろう。


1人だけここまで違うと、流石に龍二に聞かずとも誰か分かる。


「あれが聖女か」

「お?よくわかったな。まぁ、察しのいいお前なら分かって当然か。あの人が聖女リアンヌさんだってさ」

「きれーな人だよねー」


周りを見れば、見惚れている男子も多い。男子どころか、女子も見惚れている奴がいるな?花音は見惚れているのではなくて、ただ見ているだけのようだ。しかも、心底興味無さそうな顔をしている。


さて、聖女がいかに美人で男どころか女すらも魅了する話は置いておいて、魔法適正の話だ。


長方形の台の上に置かれた球体の水晶に聖女が触れると、水晶は光り輝く。光源はさほど大きくなく、LEDライト1個分程度だ。


聖女は満足そうに頷いた後、説明を始めた。


この水晶は魔道具と言われる、魔力を込めて動かす道具の一種。魔力とは、全ての生命体に宿る魂のエネルギーらしいが、地球には無かった概念なので、ファンタジーに弱いクラスメイト達は頭の中が(?)状態だ。


この魔道具で分かることは、魔力量と魔力属性の2つ。


魔力量はその名の通り、自信に宿る魔力の量を測れる。これは水晶の光の強さで判断するらしく、聖女の光り方でもかなりの魔力量があるそうだ。


魔力属性もその名の通り、魔力に宿る属性の事だ。魔力に宿る属性は火、水、風、土、闇、光、無の7つに分類される。無属性を除き、6つの属性は魔法が使えるらしく、大体3人に1人は無属性以外の属性を持つと言われている。判断基準は光の色。赤なら火属性、青なら水属性と言った感じだ。


早速、魔法適正調査が始まる。この魔道具は魔力の扱いを知らなくても、手を水晶に置くだけで勝手に発動するらしく、次々と魔法適正をこなしていく。


大半は魔法が使える6属性を持っている人が多いが、現時点で2人、無属性の魔力を持っている人がいる。


1人は光司。もう1人は黒百合朱那くろゆりしゅなだ。


黒百合朱那はこのクラス、いや、俺達が居た学校1の美少女である。父親がロシア人、母親が日本人のハーフで、髪は真珠よりも白く輝くショートヘア。雪のように白い肌と、銀色の目。正直、ここにいるシスター達に紛れていても、違和感がないだろう。


容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀。この3つを完璧に兼ね備え、その上性格も誰にも優しく、誰からも好かれている。


花音が、誰彼構わず話しかけて男達を勘違いさせるヒロインだとしたら、黒百合さんは高嶺の花のヒロインだ。ちなみにあだ名は『天使』。龍二、花音、光司、黒百合さんが居るうちのクラスは、容姿端麗が集まった所謂あたりクラスである。


この2人は無属性の魔力だが、魔力量はかなり多かったらしく、聖女の持っていた倍近くの魔力量を持っているそうだ。


「次の方、お願いします」


龍二の前に居たクラスメイトの魔法適正調査が終わり、龍二に番が回ってくる。


「それじゃ、行ってくるわ」

「おう」

「がんばってー」


何を頑張るんだよ。とツッコミを花音に入れながら、龍二は魔法適正の魔道具に手を置く。


水晶は黄色に光り輝き、その光量は聖女と同じくらいだ。黄色は確か、光属性だったな。光属性持ちは少ないのか、龍二で3人目だ。


「素晴らしい!!光属性持ちであり、更にこの魔力量。流石勇者様です!!」


聖女が思わず声を上げる。どうやら龍二はすごいらしい。ただ、当の本人は何がどう凄いのかよく分かっていないので、首を傾げるだけだった。


興奮する聖女をよそに、魔法適正調査は淡々と進んでいく。


「次の方、お願いします」

「じゃ、行ってくるねー」


俺が行こうとしたら、花音に先を越されてしまった。相変わらずである。


花音が水晶に手をかざすと、水晶は白く光輝く。白色は無属性だな。ただし、その光量がとてつもない。光司や黒百合さんの時よりも光が強い。


「凄いですね.........これ程大きな魔力を持った人は見たことがありません」


今度は聖女では無く、近くに居た神官がポツリと呟く。おい、あの二人無駄に期待値上げるなよ。やりずらいだろうが。


そんな俺の心の声が届くはずも無く、俺に順番が回って来た。あぁ、無難に終わってくれ。


水晶に手をかざすと、今までにないほどの光が水晶から発される。色は白色だ。


あまりの眩しさに、思わず目を瞑ってしまう程の光で、誰がどう見ても俺の持っている魔力量が1番多いだろう。


「凄いね!!さすが仁!!」


場が静まり返る中、花音が抱きついてくる。やめろ花音!!周りの男子の目が、人を殺せそうな目になっているから!!女子は微笑ましく見るな!!そんな優しい目で見ないで!!


「さすが仁だな。俺はやってくれると信じてたぜ?」


龍二も俺に肩を組んでくる。顔はそっぽを向いて、体は震えているが。お前今笑ってるだろ。なぁ?なんで笑ってるのか理由聞いてもいい?いやいいわ、とりあえずこっち向けやコラ。1発殴らせろ。それと、腐った一部の女子がキャーキャーうるさい。勘弁して欲しい。


そんなちょっとした混沌カオスを鎮めたのは、聖女だ。ありがとう聖女さん。


「無属性の方はこちらへ来てください」


聖女に呼ばれて、無属性の魔力だった俺、花音、光司、黒百合さんが集まる。


「無属性は魔法が使えない代わりに、異能と呼ばれる特殊能力が使えます。直感的に、自分がどの様な異能を持っているかわかる方は居ますか?」


聖女の質問に手を挙げたのは三人。つまり、俺以外全員だ。え?まじ?俺は、何も感じないんだけど.......


「どのような異能でしょうか?」

「私は、魂の鎖ソウルチェインって異能みたいだね。えっとこんな感じかな?」


花音の足元から、黒い鎖が出てくる。現れた10本の鎖は金属光沢のような輝きは一切なく、この鎖に捕まったら最後、魂の一遍まで抗うことが出来ないような感覚にさせられる。と言うか、俺の足元に絡みついてるんだけどこの鎖。


「おい、俺に鎖を巻き付けるな。普通に怖い」

「えへへ。ごめんね?何となく使い方は分かるんだけど、完全に制御できてるわけじゃないから」


そう言って花音は、俺に絡みついていた鎖を消した。周りを見ると、みんな唖然としている。そりゃ、急にこんな禍々しい鎖が出てきたらそうなるわな。さっきまでずっと凛としていた聖女ですら、目を見開いて驚いている。俺もかなり驚いた。


「え、えーと。他のお2人は、どの様な異能でしたか?」


何とか、正気を取り戻した聖女が他の2人の異能を確認する。


「わ、私は四番大天使ウリエルと言う異能です。えっと......こうかな?」


黒百合さんが胸の前で手を組むと、バサ!!と背中から大きな純白の羽が生える。服装も変わり、古代ギリシャ人が着ていたような白色の服装で、髪と肌の色も相まって完全にお人形さんだ。


あまりの美しさに、またしてもクラスメイト達が唖然とする中、聖女を含め神官やシスター達が膝をつき頭を下げる。


「て、天使様とは露知らず、数々の御無礼を致しましたことをお許しください」


あまりの態度の変わりように、クラスメイト達は目を丸くする。あっちに驚き、こっちに驚き。大変だな。


もちろん、急に頭を下げられた黒百合さんも何が何だか分からず、オロオロしているだけ。俺は、そんな状況でも一切動じてない花音の脇腹を肘で突き、花音に指示を出す。


「黒百合さんの能力仕舞わせて。話が進まない」

「いいけど、仁は驚かないんだね」

「お前の鎖よりはマシだな。それに、宗教団体は天使を神の使いとして称えたがるものだ」


黒百合さんが天使になったのは驚いたが、神官達が跪いたのにはさほど驚きはない。少し冷静になれば、予想できるからな。


「黒百合ちゃん。とりあえず異能を解こっか」

「あ、は、はい」


黒百合さんが異能を解き、天使の姿から元の姿に戻る。神官たちの緊張が少し緩んだが、未だに頭は下げたままだ。


「浅香さん。これどうしたらいいんですか?」

「とりあえず頭上げさせて」

「分かりました。皆さん顔を上げてください」


黒百合さんが頭を上げるように言うが、誰一人として頭を上げていない。昔読んだライトノベルで、王様の「面を上げよ」は一回目に本当に顔を上げてはならないと言う事が書いてあった。今回は天使だが、まさか本当にそんな礼儀作法があったのか......


誰も顔を上げないのに困惑する黒百合さん。花音は俺と同じライトノベルは読んでおり、花音の顔は“本当にこんな礼儀作法あるんだ”と言う感心の顔だった。多分鏡を見れば、俺も同じような顔をしているだろう。


「もう1回言って」

「は、はい。皆さん顔を上げてください」


今度は全員が顔を上げる。ここまでピッタリ揃って顔を上げるのを見ると、中々壮観だな。


「普通にしてくれって言う。多分黒百合ちゃんの言葉なら、なんでも聞いてくれるよ」

「皆さん普通にして下さい。私に頭を下げなくていいですし、私のクラスメイト達と同じ対応をして下さい」

「しかし、天使様それでは..........」

「はっきり言って迷惑です。私の異能が四番大天使ウリエルと言うだけであって、私が天使なのではありません。私は黒百合朱那です」


花音のなんでも聞いてくれるよは華麗にスルーし、キッパリと言い切った。神官達は渋々ながらも、黒百合さんの言う事に従うようだ。


そして、最後の1人。光司の番なのだが、まぁあんな事があった後だと少しやりずらいのは分かる。顔が明らかに疲れていた。


「やりずらいんだけど.........まぁいいや。僕の異能は勇者ヘルトだね。2人とも異能使ってるから僕も使ってみようかな」


光司が異能を使うと、部屋全体が眩しく照らされる。思わず目を瞑ってしまった。目を開けると、いかにも、勇者と言った風貌の鎧を着た光司がいる。白と金の鎧は、ファンタジーに出てくる聖騎士の様な神々しさを放ち、見るものを魅了する。誰がどう見ても、文句の付けようがないほどの勇者だ。


「す、素晴らしいです!!かつての大魔王アザトースを倒した勇者様が持っていた異能と同じ異能!!勇者の声は仲間達を、勇者の咆哮は仲間達を鼓舞し、勇者の一振は天をも切り裂く、と言われた伝説の異能!!コレが運命なのですね!!」


一番最初に騒ぎ出したのは、聖女だ。その喧騒は徐々に広がっていき、最終的には勇者コールを始めてしまった。


アイドルを応援するオタクのように、光司に向かって「勇者様!!勇者様!!」と叫び続ける聖女と愉快な仲間達。


流石の光司もコレには苦笑いするしかなく、この喧騒が収まるまでしばらくかかるのだった。


そして俺は思った。魔法は使えない。異能も使えない。しかもクラスの中で1人だけ。アレ?これもしかして追放フラグ踏んじゃった?

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