とりあえず死ぬわ〜追放されないように努力していたら、クラスメイトに暗殺計画立てられたんだが?〜

杯 雪乃

集う者達

the first contact

「おい、起きろ仁」


友人に肩を揺らされ、俺は目を覚ます。目を覚ました俺は、即座に脳がフリーズした。


何故かって?理由は簡単では明白。ここが俺の知らない場所だからだ。


まず目に飛び込んできたのは、馬鹿でかい像。日に照らされて輝く白を基調とした女神像。自由の女神程大きい訳では無いが、家一軒程の大きさがあるこの像は、見ていて引き込まれるものがある。両手を胸の前で組み、顔はローブを被っている為口元しか見えないが、優しく微笑んだ表情。髪は肩から胸まで流れ落ち、顔は見えなくても相当美人なのではないかと思う。想像は自由だ。そしてこの女神像のインパクトは、フリーズしている脳を動かすには十分だった。


辺りを見渡せば、36人のクラスメイト達がいる。俺は授業中爆睡していたので寝たままだったが、他のクラスメイト達は起きてちゃんと授業を聞いていたはずだ。あの落ち着き具合から見て、何があったのか分かっているかもしれない。


他を見渡せば、白地に金の刺繍を施されたドラ○エの僧侶が着そうな服装をしたおっさん達と、黒と白のシスター服を身に纏った女性たちが周りを囲んでいる。


俺たちのいる部屋は、質素な作りでありながら匠の拘りを感じさせる。窓から入る光が全て女神像に当たるように計算されており、女神像が部屋全体を照らしている。個人的にはかなり好きな作りだ。


さて、周りの観察も済んだし、我らが友人、龍二君に話を聞くとしよう。


「なぁ、龍二。ここ何処?」

「お前冷静過ぎないか?もう少し焦ろよ」


呆れ顔をするこの男は、赤坂龍二あかさかりゅうじ。癖の無い黒髪をかき揚げた俺の数少ない友人だ。小さい頃からよく遊ぶ仲で、スポーツ万能、頭脳明晰、オマケに顔もいいと言うパーフェクトマン。性格も良く面倒見がいい為、女子からのアプローチが絶えない所謂人生勝ち組だ。


ガキの頃に友人になってなかったら、間違いなく関わることは無かっただろう。


え?俺?俺は普通の高校生ですよ。足は早いが、それ以外は平均より少し上程度。見た目は......見栄を張って中の上と言わせてもらおう。龍二には劣るが、俺だってそこそこ見た目はいいはず。髪は少し長めだけど、不清潔感とか無いし。でも傍から見れば、俺は龍二の引き立て役だ。


「内心ちょー焦ってる。説明してくれ。授業中寝てたら異世界召喚されてた件について」

「ラノベのタイトル風に言うな。いやまぁ事実だけど」


ツッコミを入れた後、龍二は語り出した。


物理の授業が終わって教師が教室を出た直後、教室内が光ったらしい。そして気づくとこの部屋におり、クラスメイト達は呆然。俺はもちろん寝ていた。そして、聖女と名乗る女性が現れ、こういった。


「3年後に復活する七大魔王を討伐して欲しい」


と。なんでも、俺達は勇者としてこの世界に召喚されたと言う。一部の生徒は(主に男子)は盛り上がったが、中には家に返せと言う者もいる。そりゃそうだろう。俺だって面倒事はゴメンだ。静かに生きたい。だが、現実は非情である。この召喚は一方通行で、元いた地球には返せないらしい。その代わり、この世界に生きていくにあたって、何一つ不自由の無いように手配してくれるらしい。


「そういう問題じゃないだろ......」

「奇遇だな。俺もそう思う」

「その聖女と愉快な仲間達がやってる事って、拉致監禁に近いからな?」

「近いんじゃなくて、拉致監禁だろ」

「確かに。話を続けてくれ」


帰れなくて文句を言うクラスメイトを宥めたのは、カリスマの塊、高橋光司たかはしこうじ。龍二を更にイケメンにした、俺個人としてはあまり好きではない男だ。なんと言うか、生理的に受け付けない。龍二と違ってカリスマ性もあり、龍二以上に女子からの人気がある。


彼がクラスメイトを落ち着けると、今度はこの世界についての説明が始まった。


この世界はイージス。ありがちな異世界転生系のお話に出てくる、剣と魔法.......に異能と言う特殊能力をプラスした世界だ。


女神イージスの名前から取られたこの世界には、かつて大魔王アザトースがその全てを支配しており、人間は家畜同然だったと言う。


そんな中現れたのが、勇者ナハト。彼は、仲間を率いて大魔王アザトースに挑み封印に成功する。その時、普通に封印するのではなく、大魔王アザトースの魂を7つに分けて封印した。


2500年も前の話である。そして今から3年後、これらの封印が解けると女神イージスからの神託が下り、勇者を召喚。そして現在に至るという訳だ。


「なんと言うか、クラスメイト全員異世界召喚のテンプレみたいな感じだな」

「魔王が一体じゃなくて、7体いるってところ以外はな。このパターンだと誰か1人2人は無能がいて、クラスメイト達から追放される流れだぞ」

「是非とも俺以外の誰かになって欲しい。出来れば、俺に復讐しようとか考えずに」

「それは同感だわ」


この会話から分かる通り、俺も龍二もそこそこオタクである。何か一つにどハマりしたことは無いが、オタクとしての最低限の教養?を積んでいる。


「と言うか、そんな一大イベントを俺は寝過ごしたのか。なんで誰も起こさないんだよ」


ちょっと見たかったのに。


「逆に聞くが、拉致られて魔王倒してくださいとか言う漫画の中の出来事が目の前で起こってる中、『あ、こいつ寝てるから起こさなきゃ』って冷静になれる?それにお前中心の方で寝てたから、周りで見てる神官達も死角になってただろうし」

「無理だわ。興奮して夜しか眠れん」


俺と龍二の立場が逆だったら、俺は間違いなく龍二を起こさない。だって、目の前のイベントから目が離せる訳が無い。


「だろ?俺は悪くない」

「そうだな。ところでこの異世界召喚、最悪のパターンだったりする?」


最悪のパターンとは、俺達が奴隷にされる事だ。


「多分大丈夫だと思うぞ。何か一つ不自由なく生活できるように手配するって言ってたのも、嘘じゃ無さそうだし」

「本当か?奴隷にして洗脳した後、本当はクソみたいな環境なのに何か一つ不自由がないと思うようにされない?」

「その思考ができるお前が凄いよ」

「褒めるな照れる」

「褒めてねぇよ!!」


そんなやり取りをしていると、俺は背中に重みを感じた。同時に目を隠され視界を封じられ、耳元に吐息が当たる。背中は重みと同時に、2つの柔らかい感触も捉えており、俺の目を塞いでいるのは女だと分かる。そして、俺にこういう事をするのは一人しかいない。


「だーれだ?」

「こんな事やるのは1人だけだ。花音、重いからさっさとどけ」

「あ?女の子に重いとか言うなよ。縊り殺すぞ」


耳元でドスの効いた声が聞こえたと思ったら、目を隠していた手は首に移動し、徐々に力が込められていく。このままいけば、俺は天国に行ってしまうだろう。


「龍二助けて。殺される」

「今のはお前が悪いぞ仁」


見捨てられた!!


本当に俺の首を締めてくるこいつは、浅香花音あさがかのん。俺の幼馴染だ。ポニーテールが特徴で、スタイルは抜群。顔も超絶の美少女で、活発女子と言うのが良く似合う。の性格は明るく元気で、面倒見がいい冗談も通じる女の子。もちろん男子からの人気は絶大だが、それは裏の顔を知らないからだ。俺と龍二は花音の裏の顔を知っているが、中々にやばい。現に首締められてるし。と言うか、息が苦しいんだけど?


「花音、そろそろ本当に苦しい」

「まだ普通に話せるって事は、もっと締めれるね!!もうちょっと強めに行ってみよう」

「やめてやめて!!マジで死ぬから。花音は超軽い。天使の様に軽いから!!」


本当に首を絞める力が強くなったので、俺は急いで花音のご機嫌を取る。首を締めていた手は離され、俺は首を擦りながら後ろを振り向く。人の首を締めていたというのに、ニッコニコの笑顔で俺を見ている。サイコパスかな?


「ふふん。ちゃんと反省したのは偉いぞ仁くん。よく寝てたね」

「お前俺が寝てたの気づいてたな?起こせよ」

「やだ。仁の寝顔が可愛いのが悪い。謝って」

「意味わかんねぇよ」


寝顔が可愛いかったら、なぜ謝らないといけないんだよ。理不尽すぎる。そして、当の本人は謝る事を本気で期待している。いつも思うが、この子の思考回路を見てみたい。そしてこういう時は、大人しく言うことを聞いておいた方が早い。この16年間で学んだことの一つだ。


「はいはい。ごめんごめん」

「よし、許す!!」


ドンと胸を張る花音。張った胸は男子たちの視線を集め、女子は男子達に冷ややかな目を向ける。うちのクラスでよくある光景だ。


「それで龍二。今は何を待っているんだ?」


俺が目を覚ましてから、それなりに時間がたっているはずだが、クラスメイト達は何かを待っているようで仲のいいグループを作って雑談している。


「なんでも魔法適正?とかを測るって言ってたな。ほらあそこ。なにか準備してるだろ?」


龍二が指を指した方に視線を向けると、数人が慌ただしく何かを準備している。占い師が使う様な球体の水晶を、台座にセットしているのかな?あの水晶を叩き割ったらストレス発散になりそうだ。やらないけど。


「魔法適正か。名前だけ聞くと、魔法が使えるかどうか、その使える魔法の属性は何かを測るのか?」

「多分そうじゃないか?という事は、魔法が使えない奴が出てくる?」

「うわぁ.......俺、魔法とか使ってみたいんだけど。これ適正無かったらショックだな」

「私も魔法使ってみたいなぁ。時空系魔法とかあれば転移できるのかな?」


俺たちとの付き合いが長い花音は、もちろんファンタジーにもそれなりに詳しい。オタク談義ができるのも、花音がモテる1つの要因だろう。


「転移覚えたとして、何に使うんだよ」

「もちろん逃亡手段としてだよ。逃げれる手段は多い方がいいと思うんだよ」

「その言い方だと、この国から逃げる手段に聞こえるぞ?」

「そう言っているだよ?」

「あぁ.......そう.....」


そうやって、雑談しながら時間を潰すこと約5分。ようやく準備が整ったらしい。


「それでは魔法適正を調べます」

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