第19話 聖都ブール
ノブミの街が落ち着いたのを確認して、オレ達はブールに向けて旅立った。
「いよいよブールね。」
「やっとここまで来たよ。」
ユリアは心の中で悩んでいた。
この国を平和にするにはどうしたらいいんだろう。自分一人の力だけではどうにもできない。一緒に旅をしてツバサが信用できる人間であることは分かった。それに、最高神リリーゼ様のお告げの人であることも間違いなさそうだ。全てを打ち明けよう。
ユリアの心は決まった。
「ねぇ、ツバサ。大事な話があるんだけど、いいかな?」
「急にあらたまって、どうしたの?」
「私の話を聞いて欲しんだけど。」
オレ達は、街道から外れて森の中に入って行った。森の中を少し歩くと川原に出た。
「ここでいいかな?」
「うん。」
「それで話って何?」
「実は私、聖女なの。黙っていてごめんなさい。」
「ああ、知ってたよ。」
「ええ~!」
「だって、あれだけの治癒魔法を使える時点で気づくでしょ。」
「そんなんだ。気付かれていたんだ~。」
「それでどうしたの?」
「ツバサも知っている通り、この国は国王派と教皇派に分かれて争っているの。本来聖女は神に仕える身。教会側の教皇に味方するべきかもしれない。でも、・・・」
「教皇が悪人なんだ?」
「急に変わったの。アベルが大司教になってから、モルト教皇の様子が急に変わったのよ。」
「アベル大司教って何者なの?」
2人で話をしていると、森の中から小刀が飛んできた。明らかにユリアとオレを狙っている。オレは、飛んできた小刀を手で叩き落し、小刀が飛んできた方に走った。
「ユリアここでじっとしていて。」
小刀を投げた犯人はどこを探してもいない。
『ギン。何か気配があるか?』
『ないな。転移で逃げたな。』
『転移ってオレみたいに誰でも使えるのか?』
『いいや。もしかしたら、・・・・考えすぎか。』
オレはユリアの元に戻った。
「話の続きだけど、アベル大司教のことはよくわかっていないのよ。みんなは彼が昔からいるようにしているけど、私には彼の記憶はどこにもないわ。」
『ツバサさん。恐らく、記憶操作です。闇魔法で、相手の記憶を書き換える魔法があると聞いています。』
『闇魔法にそんな使い方があるんだ。でも、普通の人間にできるかな?』
『魔族なら容易いかと。』
『魔族?』
『はい。この世界には、魔族と呼ばれる種族がいます。彼らは、この世界の覇権をつかもうとしているのです。』
「ユリアさん。国王には問題ないの?」
「この国の王アリオン=ナデシノは私の父です。父は、本来側室を持たなかったのですが、2年ほど前に城の前に行き倒れになっていた女性を保護して、情が移ったのでしょう。その女性を側室にしました。それから父が父でなくなってしまいました。」
「その女性の名前は?」
「ローズです。」
ユリアの目には大粒の涙があった。
「ユリア。一人っ子なの?」
「いいえ。兄がいます。クララ母様もショーン兄様もお城で幽閉されています。」
すると、この国を平和にするには、大司教のアベルと側室のローズを討伐して、教皇と国王の目を覚まさせるしかないようだな。
オレは、コインの女性を探したかっただけなのに、なんでいつも面倒ごとに巻き込まれるんだろう?
オレ達は、現在聖都ブールの近くの森の中にいる。ユリアが、顔を知られているため迂闊にはブールに入れない。
「ユリア。ブールの中に味方は誰もいないの?」
「母方の親類もいるけど、恐らく監視されてると思う。乳母のタキなら味方になってくれるわ。」
「いったんそこに行こうか?」
オレ達は森を出て、タキの家に向かった。途中何度か確認したが、後を付けてくる気配はなくなっていた。
『ギン、ロン。国王と教皇の動きを知りたいんだけど、何か方法はないかな?』
『しょうがないな。ツバサ。ステーキで手を打とう。』
『別にいいけど。どうするの。我らは神獣だ。わしもロンにも眷属がおる。眷属たちに調べさせよう。』
『ギン、ありがとう。ロンもありがとう。よろしくね。』
ギンはネズミに、ロンは小鳥に調べさせるようだ。
タキの家に着くとそこには、老夫婦がいた。
「これはお嬢様。ご無事でしたか。クララ様もショーン様も捕まってしまいましたので、心配していたんですよ。」
「ありがとう。タキ。こっちはツバサ。私の協力者よ。」
オレはフードを取って挨拶をした。
「ツバサです。よろしくお願いします。」
「まぁ、珍しいわ。黒い髪に黒い瞳。それに男前。あら、ごめんなさいね。私は、お嬢様の乳母をしておりました。タキです。こっちは主人のヨハンです。お嬢様をよろしくね。」
「ところで、タキさん。お城の詳しい間取り図とかありませんか?」
「うちにはないわねぇ。でも、棟梁のところなら、いつも補修しているからあるかもしれないわ。」
「その棟梁という方は信用できる方ですか?」
「ええ、もちろん。私の幼馴染ですから大丈夫ですよ。」
オレはタキさんと一緒に棟梁の家まで行った。そこで、城の間取り図があることを確認したが、資料が膨大だ。書き写すわけにもいかず困っていた。
『ツバサよ。リメンバーの魔法を使えばよい。』
『リメンバー?』
『そうだ。脳に写真のようにできるぞ!』
『ギン。ありがとう。やってみるよ。』
オレは間取り図を見ながら、『リメンバー』を発動した。すると、面白い様に記憶されていく。
こんな便利な魔法があるなら、中学や高校時代に知りたかったよ。一夜漬けで苦労することもなかったのに。
オレは、すべてを記憶したので、棟梁にお礼を言ってタキさんの家に戻った。戻った後、記憶をもとに、城の間取りの概略を書いた。そして、ユリアに見せて相談を始めた。
「ユリアのお母さんとお兄さんが幽閉されている部屋は、どこかわかるか?」
「多分ここだわ。」
ユリアが指をさしたのは、城の地下にある部屋だ。
「なら、側室のローザがいる部屋はわかる?」
「私がいたときは、ここを利用していたわね。」
ユリアが指さした部屋は王の隣の部屋だ。なるほど、王を操るにしても常に近くにいたほうが便利なのだろう。城については大体概略がつかめた。ただ心配なのは、誰が敵なのかはっきりしていない点だ。城の中では本当に側室のローザだけなのか?それともローザの仲間が紛れ込んでいるのか?ギンとロンの眷属からの報告を待つしかないようだ。
その日、オレは不思議な夢を見た。眩しい光が現れて、オレに告げた。
『目の前の敵は小物よ。小物達は世界中にいるわ。本体は、東の大陸よ。』
翌日、オレはギンとロンに念話で聞いた。
『ギン。ロン。昨日夢で不思議な光が現れてさ。東の大陸って言われたんだけど、何か知っているか?』
ギンとロンがお互いに目を見て頷いている。
『確かに東の大陸って言ったんだな? ツバサ。』
『ああ、そうだよ。』
『東の大陸は魔族の大陸だ。魔族どもがあまりに暴力的だから、神が東の大陸に閉じ込めたんだよ。ただ、はるか昔の話だけどな。』
『なら、もし大司教と側室が魔族だとしたら、東の大陸から出てきたってことか?』
『そうだな。封印が破られたってことだな。厄介だぞ。』
『魔族はみんな暴力的なのか?』
『いいや。そうとも限らんだろう。人間と同じで、ダメな奴もまともな奴らもいるだろうさ。』
『少し安心したよ。』
翌日、ギンとロンの眷属が帰ってきた。ギンとロンが眷属たちから報告を受けている。一通り報告を受けた2人は、オレのもとに帰ってきた。
『ツバサ。悪い報告だ。』
『国王に何かあったのか?』
『いや、そうじゃない。相手は魔族で3人だ。一人はすでに分かっている側室のローザだ。残り2人は、ローザの執事とメイドだ。』
『ロンの方はどうだ。』
『はい。ツバサさん。こちらは、大司教アベルだけです。ただ、結構力のある魔族のようです。お気を付けください。』
『オレとユリアを付けていたのはどいつだ?』
『それは、ローザのメイドのようです。』
『そうか。合計4人か?いづれも侮れない相手だな。』
オレはユリアの部屋に行って、状況を説明した。そして、2人で今後の対策を考えることにした。
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