第20話 ツバサVSローザ・執事・メイド
人質を救い出すにしても、魔族を討伐するにしても、今までとはわけが違う。まず、王城だけあって兵士の数が多い。それに、魔族達の実力が不明だ。少なくともSランクの冒険者よりもはるかに強い。今回は、オレも命がけで臨むしかない。
『ツバサ。気配を消して侵入しようとしても魔族にはバレるぞ。どうするんだ?』
『昼と夜だとどちらの警備が厳しいのかなぁ?』
『それは、昼と思いがちだが、実際には夜だな。』
『やっぱりそうだよな~。』
『直接ローザのところまで行く手段はないのかな?』
『ツバサさん。ユリアさんにお願いしてはどうでしょうか?』
『どういうこと。』
『ユリアさんは、王族です。父である国王に正面から面会を申し入れてはどうでしょうか? 恐らく、魔族たち3人も同席すると思います。』
『でも、ユリアが危険じゃないか?』
『いざという時は、私が連れて転移で逃げますよ。』
『ユリアにお願いしてみるよ。』
オレは、方針が決まったので、その方針をユリアに説明した。
「ユリアには悪いけど、囮になって欲しいんだ。」
「自分のことだもん。大丈夫よ。それより、ツバサが魔族3人を相手にして大丈夫なの? その方が心配なんだけど。」
「なるようになるさ。」
オレは、ユリアの執事ということにして城に向かった。ギンは、子犬の状態で地下の人質を救出に向かう。ロンは城の外から中の様子を伺うことにした。
「私は第1王女のユリアです。父上にお目通りしたい。」
城門の兵士に声をかける。兵士達は、慌てて城の中に入っていく。しばらくして、城の中から執事の姿をした男が現れた。
こいつが、ローズの執事の魔族だな。
オレ達は、執事に案内され謁見の間まで来た。国王が玉座に座っているが、顔に表情がない。その隣には、側室のローズ、階段したには執事とメイドがいる。
「良くここに来たわね。あなたの勇気をほめてあげるわ。ユリア。」
「あなた達は魔族ね。すぐにお父様を開放しなさい!」
「何を急に言い出すの。私はあなたの母親よ。口の利き方に気を付けなさい!」
メイドがナイフを投げた。ナイフは、ユリアの髪をかすめて後ろの壁に刺さった。
「ユリア、ここまで来れたらもういい。お前は後ろに下がっていろ! 後は、オレが何とかする。」
「まぁ、可愛い坊やね。女の前だからって、強がらなくてもいいのよ。」
メイドがオレに向かってナイフを投げる。オレはそれを2本の指で受けとめ、逆に投げ返す。メイドの頬をかすり抜け、頬から血が流れた。
「少しはやるようね。でも、私たち3人に勝てるかしら?」
メイドの姿が急に消え、オレの後ろに回り込んだ。オレは、咄嗟に飛びあがって避けるが、そこに執事が魔法の矢を飛ばしてきた。オレは避けきれずに、腕に刺さった。血が流れているが、なぜか痛みを感じない。
オレは、執事に向けて魔法を放つ。
「ファイアーアロー」
炎の矢が複数現れて、執事に向かって飛んでいくが、執事は自分の前に黒い壁を作り炎の矢を全て防いだ。
まずいな。思った以上に強い。一人ずつ倒していくしかないようだな。
オレは、メイドに焦点をあわせ攻撃を仕掛けた。瞬間移動でメイドの横に行き、空間収納から剣を出して切りかかった。メイドも避けきれずに腕にけがをした。
「おのれ~! 人間風情が!」
メイドの身体から黒い霧が現れる。黒い霧は鎖の形となり、オレに襲い掛かる。オレは、間一髪それを避けるが、すぐに執事が魔法の矢を放ってくる。
「同じ手は食わないよ。」
オレは矢を叩き落して、執事の背中に光の矢を転移させた。
「グワッ」
光の矢が執事を背中から貫いた。執事は、口から血を吐いているがまだ立っている。その様子を見た瞬間、一瞬オレに隙ができた。メイドが黒い鎖をオレに飛ばしてきた。オレは、避けきれずに手で払おうとしたが、鎖がオレの手に巻き付いた。
「これで、逃げられないわね。」
突然、外から小鳥が飛び込んできて、口から炎をだしメイドに襲い掛かった。メイドが炎に包まれた。メイドが必死に消そうとしているが、その炎は消えない。やがて、メイドは息絶えた。残すところは、後2人だ。
オレが執事に目を向けると、執事の怪我が治っている。
「よくも俺の身体に傷をつけてくれたな! 貴様、許さぬぞ!!」
執事の男は、黒い霧となって姿を消した。オレは、どこから攻撃されてもいい様に油断はしていない。
『ツバサさん。気配感知!』
オレは気配感知で相手を探す。オレの右後ろから攻撃をしようとしている。オレは、見えない相手に魔法を付与した拳で殴りつける。
「ライティングパンチ」
「グォ」
「どうしてわかった?」
「企業秘密だよ。いうわけないじゃん。」
男は姿を現して、魔法を放ってくる。
「シャドウクラッシュ」
オレの周りの黒い霧が、突然爆発を始める。オレは『バリア』でそれを防いだ。オレは瞬間移動で執事の前に移動し、魔法を付与して渾身のパンチを繰り出す。
「スクリューパンチ」
光輝くオレの拳が執事の背中まで突き抜けた。残すは側室ローズだけだ。
ギンから念話が入った。
『ツバサ。ユリアの母親と兄は助け出したぞ!!』
『了解だ!』
「さあ、残るはお前一人だ!」
「馬鹿な奴だ。勝ったつもりでいるのか? 私は、こいつらとは格が違うのさ。」
ローズの身体から、真っ黒なオーラが溢れ出してくる。その姿も変わり、頭から角を出し、背中には巨大な蝙蝠の翼がついている。
ローズがオレに拳を繰り出すと、その風圧だけでオレは壁まで飛ばされた。
「ドスン」
さらにローズは空中から無数の黒い鎖を出して、攻撃してきた。オレは避けきれずに、両手・両足に鎖が巻き付いてくる。さらに、腹に鎖が突き刺さった。腹から血が流れる。
『ロン。ユリアと国王を連れて逃げろ! こいつは、本当に規格外だ! 全力でやらなければ勝てそうにない!』
『わかりました。』
ロンはドラゴンの姿となり、ユリアを加え、足に国王を掴んで城から離れた。
オレは闘気を集中させた。すると、身体から光が溢れ出してきた。オレを縛っていた黒い鎖が光で消えていく。腕と腹から血が流れているが、治癒魔法をかける余力はない。
「貴様何者だ? ただの人間ではあるまい。」
その後、オレは様々な魔法を繰り出し、ローズを傷つけるが、直ぐに修復してしまう。
「確かにあなたは強い。だが、不死身の私には効かないわね。それにもうぼろぼろじゃない。」
「すぐに楽にしてあげるわよ。」
ローズは瞬間移動でオレの前に現れると、オレに殴りかかる。決して避けられない速さではないが、血を失いすぎている今のオレには避けられない。
「ボコッ、バキッ、ズドン」
だが、ここでローズを仕留めなければさらに被害が拡大してしまう。失いかけている意識の中で、声が聞こえる。
『時空魔法を使うのよ。』
時空魔法ってなんだ? 不死身の奴を倒す時空魔法・・・。そうか!
オレは、最後の力を振り絞って魔法を発動した。
「ブラックホール」
ローザの頭の上に大きな黒い渦が現れる。その渦がローザを少しづつも見込んでいく。
「貴様!! 何をした? 私が負け・・・・」
ローザは消滅した。それを見てオレは意識を失った。
オレが気が付くとタキの家のベッドで寝かされていた。ベッドの隣では、ユリアが泣いている。オレの上にはギンが座っている。ロンは窓のところにとまってこっちを見ている。
「ここどこ?」
「良かった―――! ツバサ!! ツバサ!!」
ユリアが泣きながらオレに抱き着いてきた。
「おい。ユリア。お前、聖女なんだから、男のオレに抱きつくなよ!」
「だって、ツバサ。血だらけで倒れていて、死んじゃったと思ったんだよ~!
心配したんだから~!」
「オレ、どのくらい意識失ってた?」
「3日よ。3日も目覚めなかったのよ。」
「そうか~。国王とお母さんとお兄さんは、大丈夫か?」
「うん。大丈夫よ。お父さんも正常に戻っているわ。それより、ロンちゃんとギンちゃんのことを説明してくれるんでしょうね?」
「えっ! なんのこと?」
「惚けないでよ! ロンちゃんはドラゴンになって、私とお父さんを助けてくれたし、ギンちゃんはフェンリルになって、ツバサをここまで運んできたのよ。」
「しょうがない。後で説明するよ。」
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