第16話 カブ―ロの街

 オレ達が、カブーロの街に入ると街の人達が何やら噂をしていた。



「お前、聞いたか? アルティカ王国との国境にいた兵士達がみんな逃げてきたんだってよ。」


「何があったんだ?」


「噂によるとなぁ。突然空が曇って嵐が来てよ~。それでもってすごい稲妻が発生したらしいぜ!」


「そりゃ、神の仕業だな。この国のお偉方は自分達のことしか考えてないから、神様が怒っちまったに違いないぞ!」


「お前、声が大きい! 聞こえたら牢屋だぞ!」

 


 オレだけでなく、ユリアもその話を聞いていた。ユリアがジーとオレを見詰めてくる。



「いや、オレは関係ないから。オレは無関係だから。」


「私は別に何も言ってないけど。」


「なんか疑った目でオレを見えたからさ。オレにはそんな力はないし。」



 とりあえず、2人は宿屋を探した。中央広場から放射状に道路が走っている。最初に目についたのが、冒険者ギルドだ。オレは、ナデシノ聖教国の通貨を持っていないので、魔物を買い取ってもらおうと、冒険者ギルドに行くことにした。


 ウエスタンドアの中に入ってみると、やはり作りは同じだった。オレは受付に行って、魔物の買取をお願いした。ギルドの裏に通されたオレは、前回の失敗を思い出し、空間収納から少なめに魔物を取り出した。オーク、ゴブリンキング、コボルト、コボルトロード、ホーンラビットを30体ほど出した。空間収納から取り出すと説明が面倒なので、鞄の中から取り出すふりをする。



「君、今、どこから出したの?」


「ああ、オレのバッグは空間魔法がかかっているから。」


「それって、白金貨2~3枚はするのよ!」


「ええ、祖父の形見なんです。」



 オレは惚けた。とにかく惚けた。



「ちょっと待っててくれる? 直ぐに査定するから。」



 しばらくして、受付の女性が戻ってきた。大金貨3枚になった。どうやら、ユリアが言っていた通り、アルティカ王国と貨幣の種類が違うだけのようだ。どの国の貨幣も10進法なので助かる。


 オレは、ギルドの受付でおすすめの宿屋を何軒か聞いて、一番人気のない宿屋に行くことにした。



「ツバサ。何で人気のない宿屋にするの?」


「だって、オレもユリアも目立ちたくないだろう? 客が少ない方がいいじゃん。」


「あっ、そうか!」


「それより、この街なんか変なんだけど。」


「何が変なの?」


「子どもが誰もいないじゃん。」


「言われてみればそうね。不自然ね。」


『ギン。調べてみようか?』


『また、余計なことに頭を突っ込むつもりだな~。』


『放って置けないんだよ。』



 オレは、とりあえずユリアと宿屋に向かった。



「あの~、2人なんですが、部屋空いていますか?」


「1部屋かい? 2部屋かい?」


「2部屋でお願いします。」


「はいよ。朝・夕の食事付きで1人銀貨6枚ね。何泊だい?」


「3泊でお願いします。それと、この犬にもオレ達と同じ食事を出して欲しいのですが。」


「お客さん、変わってるね~。犬に同じもの食わせるなんて、聞いたことないよ。なら大銀貨4枚と銀貨2枚だよ。」



 オレ達はお金を渡して、それそれの部屋に行った。



『ギン。ちょっといいか?』


『なんだ、ツバサ。』


『これからユリアが一緒だろ? 部屋とか風呂とか魔法で何とかできなかなぁ?』


『できないことはないが・・・・』


『何か困る事でもあるのか?』


『異空間を作ることになるな。つまり人間の範疇を越えてしまうことになるぞ!』


『じゃぁ、オレにはできないじゃん。』


『それはどうかな? 意外とできてしまうかもしれないぞ!』


『それって、オレが人間じゃないみたいな言い方だな。じゃぁ、オレはなんなんだよ。』


『・・・・』

 


 オレは少し休んだあと、ユリアを誘って街に出かけた。



「ユリアさ。言いづらいんだけど、ユリアってずっと同じ服じゃん。服を買いに行こうぜ。」



 ユリアは顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。



「臭い?」


「いいや。オレが『クリーン』の魔法をかけているからそんなことはないよ。」


「オレの空間収納に入れて持ち運ぶから、下着も多めに買った方がいいぞ。お金渡すからこれで買っておいで。ここで待ってるよ。」



 オレは、金貨を2枚渡した。


 オレが広場の噴水のベンチでギンと戯れていると、頭の中に念話が来た。



『やっと見つけましたよ。ツバサさん。』



 オレの肩に白いハトのような鳥がとまった。



『誰?』


『ロンですよ。お忘れですか?』


『ロン? エンシェントドラゴンのロンか?』


『そうですよ。』


『こんなところまでどうしたの?』


『どうしたのって、一緒に旅に行くんですよ。』


『え―――! アスプル山脈や竜の里はいいの?』


『黒竜と赤竜、それに竜人の長に任せてきましたから、大丈夫ですよ。』


『ロン! わしのほうが先輩なんだからな!』


『わかってるよ。ギン。』



 こうして、心強い旅の仲間がまた一人増えた。オレの左肩がギン、右肩がロンということで、彼らの定位置も決まった。因みに、ギンはオスでロンはメスだ。


 女の買い物は遅いと聞いていたけど、遅いなぁ~。もう2時間だよ。


 オレは心配になって、ユリアの入って行った店に行ってみた。どこを探してもユリアの姿はない。




 しまった!



 

 オレは『気配感知』でユリアを探した。だが、ユリアの気配はどこにもない。



『ギン。手分けしてユリアを探そう。ロン、今からお前にユリアの魔力を送るから、上空から同じ魔力を探してくれるか?』



 オレ達は一斉に街の中を探し始めた。すると上空から魔力感知で探していたロンから念話が入った。



『見つけました。中央広場から北に3kmの地点にある青い倉庫です。』


『ギン。先に行ってくれるか? もし、ユリアが危ないようだったら頼んだぞ!』


『任せろ!』



 ギンは体長2mほどの犬の姿になって走って行った。


 オレも急いで現場に駆け付けた。現場の前に来ると、ロンとギンがいた。



『ツバサ。どうやらここは人攫いのアジトみたいだ。ユリア以外に子ども達もいるぞ! どうする?』


『助けるに決まっているだろう。』



 オレは、頭からフードを被り、見張り役の男達を拳で眠らせ縄で縛った後、中に入った。攫われた人たちはみんな両手両足を縛られて、目隠しと猿轡をされている。



「お前、誰だ? 何しに来た?」


「・・・・・」


「おい、何とか答えろ!!」


「・・・・・」


「おい、お前ら、こいつを殺せ!!!」



 一斉にオレに襲い掛かってきた。短時間で片づけたかったオレは右手を前に出し魔法を発動する。



「グラビティ―」



 こちらに向かってきた男達は全員、地面に叩きつけられた。オレは、手を上下させた。すると、地面に叩きつけられた男たちの身体が宙に浮き、再び地面に叩きつけられる。それを3回ほど繰り返したところで、全員が意識を失った。オレは男たちの両手両足を縛り、逃げられないようにした後、攫われた人たちのところまで行き、全員を解放した。



「ありがとうございます。」


「ありがとう。」



 解放された人々がみんな去っていく。その中の数人の女性に、衛兵にこのことを伝えるようにお願いした。



「やっぱり来てくれたんだ。ツバサ。」


「ああ、ケガはないか?」


「大丈夫よ。それより、やっぱりあなたは強いのね。隠しても無駄よ。」


「別に強くなんかないさ。ここにいたら目立つから、さっきの店まで戻ろう。」


「うん。」



 オレは、ユリアと先ほどの店に戻った。そこでユリアが両手いっぱいに買い込んだ荷物をオレは、建物の裏までもっていき空間収納にしまった。



「本当にツバサは便利ね。でも、袋の中のものを見たら怒るからね。」



 ユリアはオレににっこりと笑いかけた。少しの間だけ、オレとユリアは見つめあってしまった。ふと、ユリアが話題を変える。



「ところで、ツバサ。この鳥はどうしたの?」


「ああ、何かオレになついてるから、ギンと同じで一緒に連れて行こうと思う。いいよね。」


「ええ、もちろんよ。もう名前は付けたの?」


「ロンだよ。」


「ロン。よろしくね。私はユリアよ。」



 そう言って、ユリアはオレの肩からギンを取り上げ、ギンを抱きしめた。


 宿屋に戻ってオレは自分の部屋にいた。



「ギン。お主も気づいているだろう。あの娘のこと。」


「ああ、初めて会った時からわかっていたよ。」


「何のことだ。ユリアがどうしたって?」


「ツバサさん。あの娘から神聖な匂いがします。」


「神聖な匂い?」


「ツバサにはわからんだろうが、わしもロンも神獣だ。わしらにはわかる。あの娘、聖女かもしれん。」

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