第12話 ギルドへの報告

 それから里の人間たちは解放され、里の中央広場に集められた。その日はそこで体を休めて、早朝に出発する予定だ。オレは竜人の女性に手伝ってもらって、肉を大量に焼いた。当然味付けは『緑の帽子亭』の味だ。エンシェントドラゴンさんは人型に変身している。



『なんで、エンシェントドラゴンさんは人型に変身できるのに、ギンはできないんだ?』


『別にできないんじゃないぞ! この方が楽だからだ!』



 先ほどまでいがみ合っていた竜人と人間が一緒になって肉を食べている。わだかまりは感じられない。オレがニコニコとそんな様子を見ていると、ひとりの男性が話しかけてきた。



「なぁ~。君! この味付けはどこで覚えたんだ?」


「ああ、これですか? ホクトの街の『緑の帽子亭』っていう宿屋の女将さんから教えてもらったんですよ。」


「そうか~。メリーから教わったのか? メリーとジミーは元気か?」



 男の声が震え、地面に泣き崩れた。俺はこの男性が誰かすぐにわかった。そうだ。ジミーのお父さんだ。



「ジミー君も元気ですよ。お母さんのお手伝いを一生懸命頑張るいい子ですよ。」


「ありがとう。ありがとう。」



 ジミーのお父さんは、オレの手を握り締め、しばらくの間泣き続けた。その後落ち着きを取り戻したようだ。



「俺の名前はオルトだ。メリーとジミーが世話になったようだな。君の名前は?」


「オレはツバサです。世話になったのはオレの方ですよ。オルトさん。」



 オレが、オルトさんと話をしている間、ギンはエンシェントドラゴンと何やらひそひそ話をしていた。




 ギンは水龍ともこそこそ話していたけど、いったい何を話ししてるんだろう?気になるな~。




「ツバサ。ギンと同じようにわしにも名前を付けてくれぬか?」


「ええ~。オレがですか?」


「そうだ。お前に名を付けてもらいたいのだ。」




 確か、竜って中国語でロンだよな?




「じゃぁ、『ロン』でどうかな?」


「ロンか? 良き名だ。感謝する。」



 翌日、オレは全員を連れて山を下った。本来は、みんなを連れてギルマスのところに報告に行かなければいけないのだろうが、面倒に巻き込まれたくなかったので、オレはそのまま街を出ることにした。 



「マリーさんとジミー君に、よろしくお伝えください。」


「ツバサさん、本当にありがとう。」



 オレは、そのままホクトの街を旅だった。


 一方、ホクトの街では行方不明になっていた冒険者達が帰って来て大騒ぎだ。



「やぁ! ゴルドン! 久しぶりだな。」


「さすが、ジェイムズさんですね。俺もAランクのジェイムズさんならきっと帰ってくると信じてましたから。」


「ジェイムズさん。一杯おごりますよ。話を聞かせてくださいよ。」



 ジェイムズは、竜人たちに捕まった話をした。



「でも、よくその屈強な竜人たちから逃げられましたね。さすがジェームズさんですよ。」


「馬鹿か? お前は! 俺にそんな真似ができるわけがないだろう。俺は竜人族に勝てるほど強かぁねぇよ!」


「じゃどうやって・・・」


「フードをかぶった男が、竜人族最強の男と勝負したのさ。相手にならなかったがな。」


「そいつは殺されたんですか?」


「馬鹿だな~、お前は。逆だよ。フードの男が強すぎたんだよ。あいつは神の使いかもしれねぇな? もしかしたら神だったりしてな?」


「そんなに強かったんですか?」


「ああ、強いも何もないぜ。竜人族最強の男が子ども扱いだ! それに、信じられないかもしれないが、あいつはエンシェントドラゴンに頼まれて、名前まで付けてやってたぞ!」


「え~! 魔物が名前を付けられるのは家来になった証じゃなかったですか?」


「ああ、そうだ!」



 ここでゴルドンは『フードの男』というフレーズが気になり始めた。



「ジェームズさん、そのフードの男っていうのは、まさかと思うけど、黒目で黒髪じゃなかったですよね?」


「ジェームズ! お前、知り合いか? よくわかったな。」



 ジェームズの顔色がだんだん蒼くなっていく。



「ジェームズさん。俺そいつ知ってるかもしれない。俺そいつのこと、殴ったり蹴ったりしちまった。どうしようー。殺されちまうよ。俺。」


「お前は本当に馬鹿だなぁ。そいつがお前を殺す気なら、お前はとっくに死んでいるだろうが。」


「俺、今度会ったら土下座して謝りますよ。」



 一方、冒険者ギルドのギルマスの部屋にはスザンヌがいる。そこに、帰ってきた冒険者を何人か連れてエミリーがやってきた。



「お前達がアスプル山脈で見たことを教えな。」


「フードをかぶった男がよ。竜人達に捕まってきたんだけど。なぜか、竜人族最強の男と勝負することになってな、そいつに勝っちまったんだよ。」



 それを隣で聞いていた男が興奮して話しに割り込む。



「お前、説明が下手すぎだ! 俺が説明するわ! ギルマスよ~! あいつは人間なんかじゃねえぞ!! きっと!・・・あいつが魔法を唱えたらよ~! 空が真っ暗になって嵐が来たんだぜ! 信じられるか? 最後にあいつがとどめを刺そうとしたら、神話でしか知らないエンシェントドラゴンまで現れやがってよ~。おりゃ~、腰が抜けちまって立てなかったぞ!!!」 


「それでどうしたんだ?!」


「あいつは、エンシェントドラゴンと話し合ってよ。俺たちの解放を決めたってことよ。あと、なんだか竜人族と人族が仲良くなるように、交流がなんとかかんとか言っていたな。」


「お前たちの話は分かった。疲れているところありがとうな。」


「ああ、そうだ。確か『緑の帽子亭』にいるとか言っていたな。」


「ありがとう。」


「やはり、あいつはただ者じゃなかったか?」



 ギルマスのスザンヌは、急いで『緑の帽子亭』に向かった。


『緑の帽子亭』では、死んでしまったと諦めていた亭主が帰ってきていた。



「あなた!!!」


「父ちゃ―――――ん!!!」


「マリー! ジミー!」


「お前達には苦労を掛けたな。もう父ちゃんはどこにもいかねえからな。」



 しばらく、3人で抱きしめ合い、泣き疲れたころジミーが聞いた。



「父ちゃん。ツバサ兄ちゃんは?」


「ああ、ツバサさんは他の街に旅だったよ。」


「えっ! どうして! お兄ちゃん帰ってくるって言ったのに! 部屋の掃除も毎日したんだよ~、僕。」


「なんか、不思議な人だなぁ、ツバサさんは。」



 そこに、ギルマスのスザンヌが飛び込んできた。



「おい、ツバサとやらはいるか?」


「もう、他の街に旅立っちまったよ。」


「遅かったか~。」


「どうしたんですか? ツバサ君に何か用があったんですか?」


「いや、そういうわけじゃぁないが、一言お礼を言いたかっただけさ。」

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