第六十五話

 そして誠兵衛せいべえと、ことみが清三せいぞうやぶれてから四日目の朝。誠兵衛の傷は、すっかりなおっていた。清三を救うために再び下野しもつけの国に行こうとしていた誠兵衛に、ことみは頭を下げた。今度は決して、足手あしでまといにはならないと。


 四日前とはくらべ物にならないほどの自信と覚悟かくごを感じた表情の誠兵衛は、告げた。

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


 そして稽古けいこを付けてもらったれい美玖みくあらためてしようと寄った沖石おきいし道場で二人は、美玖から提案ていあんされた。今度は、市之進いちのしんを連れていたらどうかと。


 市之進は確実に戦力になるなという表情の誠兵衛は、その提案をありがたく受けた。

「よろしくお願いします。市之進さん」

「うん。こちらこそ頼むよ、誠兵衛君」


 下野の国に向かおうとした三人に、美玖は告げた。三人とも、無理をするなよ。なあに、また負けたっていい。そしたら稽古をして、勝つまで清三にいどむだけだ。清三をすくいたいという強い気持ちがあるなら、いつかは救える。そして、ことみ。ここでの稽古を忘れるなよ。やはり、お前はすじが良い。お前は確実に強くなった。自信を持て、と。


 それを聞いてことみは、満面まんめんみで答えた。

「はい。ありがとうございます、美玖さん。それじゃあ、行ってきます!」


   ●


 そして日が完全に落ちわりに月が天空てんくうを支配する頃、三人は鬼怒川きぬがわ沿いにある小屋に着いた。やはりそこには、月光を受けてあやしく輝く妖刀ようとうひかり』を持った清三がいた。


 清三は、またしても『光』にあやつられていた。

「クックックッ……。キョウノエモノハ、サンニンカ……。ウン? マエニ、ミタヤツガイルナ。マタキョウモ、タオシテヤル。クラエ!」


 清三は『光』を、左から右にるった。


 光矢こうや


 すると『光』から飛び出た三本の光の矢が、ことみにおそいかかった。しかし、ことみが左右に持った『いん』と『よう』で三回、光の矢にきを放つと光の矢は消滅しょうめつした。


 清三は今度は『光』を三回、振るった。


 九射きゅうしゃ


 再び、ことみに襲いかかった九本の光の矢はしかし、『陰』と『陽』の突きで消滅した。


 清三は、逆上ぎゃくじょうした。

「ナラバ、アタラシクキタヤツ! オマエヲタオス! クラエ!」


 九射!


 九本の光の矢が、市之進を襲った。しかし居合術いあいじゅつかまえを取った市之進は、さやから妖刀『おと』を音速おんそくいた。


 音波おとは


 すると『音』から生じた衝撃波しょうげきはは、九本の光の矢を全て消滅させた。


「クッ、ナラバ!」

 清三はくるまぎれに、誠兵衛に向かって九射を放った。しかし誠兵衛は光速こうそくの居合術、光速の軌跡きせきを放ち、九本の光の矢を全て消滅させた。


 清三は、戸惑とまどった。

「クッ、ドウナッテイルンダ?……。コウゲキガ、マッタクキカナイ……」


 そして『光』を、頭上にかかげて月光をびせてさけんだ。

「ゲッコウヨ、ソノチカラノスベテヲ、ワタシノモノニシテヤル!」


 清三は『光』を、自分の胸に突き刺した。胸には『光』の刀身とうしんが出ていて、腰の後ろから先端せんたんが出た。すると清三の全身が、月のように光り出した。

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