第六十四話

 そして美玖みくは、告げた。

「はい。休憩きゅうけいは、これでおしまい。あと五百回づつの稽古けいこを、がんばるんだぞ」

「はい!」


 そして夕方になり、ことみの稽古がちょうど終わった時に再び美玖はあらわれた。

「どうだ、ことみ。稽古は終わったか?」


 ことみは、肩で息をしながら答えた。

「は、はい……。さっき、終わりました……」


 すると美玖は竹刀しないを持ち、ことみの前に立って鉄砲てっぽうの玉よりも速い突きを一回、放った。ことみは、それを右の竹刀しないで見事にさばいた。


 そして、自分自身に驚いた。

「え? これは一体……」


 美玖は、説明した。左右の竹刀で千回づつきを放てば、腕から余計よけいな力が抜ける。そうすれば、ことみの実力なら鉄砲の玉よりも速い突きでもさばけると。ことみは鉄砲の玉よりも速い突きを一回さばくことが出来るようになり、美玖に礼を告げた。


 美玖は、微笑ほほえんで告げた。

「うむ。それじゃあ今日は、これでおしまい。また明日、きなさい」




 ことみと美玖の稽古の三日目。

 美玖は、ことみに向かって鉄砲の玉よりも速い突きを三回、放った。するとことみは腕の余計な力を抜き、左右の竹刀で素早く二回、さばくことが出来た。しかし残りの一回は、さばけずに胸に喰らった。

 

「も、もう一度、お願いします……」

「うむ」

 だが、やはり二回はさばけたが、残りの一回はさばくことが出来なかった。


 ことみは、もちろんもう一度放ってくれと頼んだ。だが美玖は突きをさばけないなら、ことみも突きを放って相殺そうさいしたらどうかと提案した。昨日の稽古は、素早く突きを放つための稽古だったとも告げた。


 ことみは光の矢は妖刀で消滅しょうめつさせることが出来ることを思い出して、その提案ていあんを受け入れた。


 そして美玖は、鉄砲の玉よりも速い突きを三回、放った。ことみは、突きを相殺することに集中した。


 カカカ!


 ことみは見事に、鉄砲の玉よりも速い三回の突きを相殺した。


 ことみは少し、自信が付いた笑顔を見せた。

「や、やった……。で、出来ましたよ、美玖さん!」

「うむ」

「今の感じを忘れないために、もう一度お願いします!」

「うむ」


 カカカ!


 そして再びことみは、三回の突きを相殺した。


 しかし、ことみは清三せいぞうここのつの光の矢を放ったことを思い出した。だから今度は、九つの突きを放って欲しいと美玖に頼んだ。しかし美玖は、しぶった。清三が放つ光の矢が最大、九本とは限らないからだ。


 ことみは、納得した。

「な、なるほど。それもそうですね……」


 すると美玖は、三十回の突きを放つと言い出した。これらを相殺できれば、もう光の矢は怖くないだろうと。ことみは少し自信が無かったが、今度こそ誠兵衛せいべえ足手あしでまといになりたくない、清三を救いたい、と考えた。


 美玖は、言い放った。

「うむ、良い表情だ……。では、行くぞ!」


 ことみは大丈夫、腕の余計な力を抜いて相殺するというコツはつかんだ、後は自信を持つだけだ! と思い三十回の突きに立ち向かった。


 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!


 ことみは見事に、鉄砲の玉よりも速い三十回の突き相殺した。


 美玖は、目を細めた。

「やったな、ことみ……」

「はい! ありがとうございます!」


 そして妖刀の神通力は自分で稽古をして引き出すという話を聞いたことみは、それを行うために沖石道場を後にした。


 その後姿うしろすがたを見て美玖は、微笑びしょうを浮かべてつぶやいた。

「強くなれよ、ことみ……」

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