第四十話  第三部 完結

 構わず、俺は放った。

「まだまだ!」


 光速こうそく軌跡きせき、つばめがえし!


朱雀すざく』のひびが、更に大きくなった。


 玄庵げんあんは、あせった表情で右腕できを放った。

「こ、これ以上、させるかああああ!」


 朱碗しゅわん


 朱碗を、かわしながら俺は放った。

「まだまだまだ、まだまだまだああああ!」


 光速の軌跡、つばめ返し!


 すると『朱雀』は『ぱきぃ』と二つに折れた。そして少しすると玄庵の体も、元に戻った。


 俺は、この勝負はついたなと思い告げた。

「お前にも、弟子でしがいるだろう? 医者を呼んでもらえ。今ならまだ、助かるだろう……」


 玄庵は、苦もんの表情で告げた。

「くっ、『朱雀』が、僕が負けるとは……。僕はもう、本郷ほんごう様をえているはずなのに!」


 俺は、さとすように告げた。

「お前、本郷のじいさんの何を見てきた?……」

「何?」

「本郷の爺さんは、いつも守ることを考えていた。自分が作った刀を、江戸の町を守ってくれそうなやつに渡してきた……。妖刀ようとうだって、そうだ。守護刀しゅごとうを選ぶために、作ったんだ。その気持ちが分からなけりゃ、お前はいつまでっても本郷の爺さんを超えられねえぜ……」


 すると玄庵は、言い放った。

「それがどうした?! 僕は僕のやり方で、本郷様を超えて見せる!」


 俺はもうこれ以上、言ってもムダだなと思い、「そうか、なら勝手かってにしろ……」と言い残して玄庵の工房こうぼうから離れた。


 ……見事みごとだ、良くやった。……もう私の助言じょげんは、必要ないのかも知れないな……、とその時、『血啜ちすすり』がささやいた様な気がした。


 少し歩くと美玖みくさんと重助しげすけ市之進いちのしんが、やってきた。


 美玖さんは、心配そうな表情で聞いてきた。

「どうだった、誠兵衛せいべえ?! 『朱雀』は、玄庵は、どうなった?!」

「ああ、どっちもたおしたぜ、美玖さん……」

「どっちも?! 一体、どういうことだ?! まあ、いい。とにかく道場へ帰ろう。

 話は美味うまい酒を飲みながら聞こう」

「ああ……」


 すると美玖さんは、提案した。

「よし。こんなに、めでたいことはない。私たちだけでは、もったいない。うむ、おゆう殿も呼ぼう!」


 俺は先日せんじつの、おゆうとの接吻せっぷんを思い出して動揺どうようしてしまった。

「え? おゆうもですか? それはちょっと……」


 美玖さんは、真顔で聞いてきた。

「うん? どうした誠兵衛? 顔が赤いぞ。おゆう殿がくると何か、まずいのか?」

「いや、まずくはないけど……」


 俺の気持ちも知らずに美玖さんは、満面のみで言い放った。

「それなら決まりだな! よーし、まずは今から道場へ帰ろう。道場に着くのは朝になるだろうが、かまわん! おゆう殿も呼んで朝から、どんちゃんさわぎだ!」



 第三部 完結

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