第三十九話

 すると玄庵げんあんは両手で『朱雀すざく』のにぎると、自分の胸にした。『朱雀』の刀先は、玄庵の腰から突き出た。胸部に『朱雀』の刀身とうしんが見えた。


 玄庵は、高笑たかわらった。

「くはははは! これで僕と『朱雀』は一体になった! 今なら、どんな傷でも治せるはずだ! 刀治とうち!」


 すると玄庵の体に付いた二つの傷が、ふさがった。


 俺は、あせった。ま、まさか、こんな方法でつばめ返しの傷を治すとは……。これは相当やっかいなことになった……。そしてこれからどうするべきか考えていると、玄庵の体に変化が起こった。


 まず玄庵の全身が、血のように赤くなった。そして背中から一対いっついつばさが生えた。目が黄色く『ぎょろり』となり、黄色い口ばしも生え、腕と胴と脚の太さが2倍になった。


 これはまずい! 取りあえず逃げるしかねえ! と俺が後ろを向くと、玄庵が翼を『ばさっばさっ』っと羽ばたかせて飛んできて着陸ちゃくりくして、逃げ道をふさいだ。


 そして言い放った。

「さあ、さっきの技をもう一度、放ってみろ! 今度は、すぐに治して見せる!」


 俺は、放つしかなかった。すぐには傷を、治せないことを期待して。そしてそのスキに、逃げるために。


 光速こうそく軌跡きせき、つばめがえし!


 しかし玄庵の体に付いた二つの傷は、あっという間にふさがった。


 玄庵は再び、高笑った。

「くはははは! 素晴すばらしい! これが『朱雀』の真の神通力じんつうりきか?! もはや僕は、人間をえた! 僕は史上最強しじょうさいきょうだ! くはははは!」


 すると俺の体に、『血啜ちすすり』に宿やどっているアナグマの意識が流れ込んできた。……あれは、もうニンゲンではない……。あやめてやれ、それがせめてもの救いだ……。


 俺は、迷った。できればもう。人は殺めたくない。だが殺めるくらいの覚悟かくごが無ければ、玄庵は倒せないかもしれない……。すると、ひらめいた。そうかこの方法なら、いけるかも知れない!


 光速の軌跡、つばめ返し!


 俺はまず、光速の軌跡を玄庵の腹部に見える『朱雀』の刀身に放った。

「何?!」と驚く玄庵をよそに、『朱雀』に再びり上げた。『朱雀』は二回、打撃を喰らった。すると玄庵の体にさっている『朱雀』に、『ぴきっ』っとひびが入った。


 玄庵は興奮こうふんした表情になって、逆上ぎゃくじょうした。

「おのれ! たかが人間の分際ぶんざいで!」


 玄庵は右腕で、きを放った。


 朱碗しゅわん


「ぐはっ!」

 俺は突きの威力いりょくで、吹き飛ばされた。そして翼で飛んできた玄庵は、更に右脚で俺の腹部をけった。


 朱脚しゅきゃく


 その威力で今度は俺は、空中にった。『どしゃあ』と落下した俺は、考えた。くそっ、玄庵じゃなく、『朱雀』を攻撃するっていうのは、良い考えだと思ったんだが……。駄目だめだ。光速の軌跡、つばめ返しの放ち過ぎで体力がもう、ねえ……。


 すると再び、『血啜り』のアナグマの意識が流れ込んできた。……なるほど、妖刀ようとうを攻撃するのか……。面白おもしろい考えだ……。体力なら私が、最後の力で回復させてやろう……。『血啜り』で自分の左腕を斬ってみろ……。


 ためらいながらも俺は、『血啜り』で自分の左腕を斬った。すると俺の血を啜った『血啜り』が赤い光に包まれ、更にその光が俺をつつみ込んだ。

「な、何だ、この光は? うん? 体力が回復している?! どういうことだ、『血啜り』?!」


 だが『血啜り』からは、何の反応も無かった。


 だから俺は、気持ちを切り替えた。今は、『血啜り』のことを気にしている場合じゃねえ! 『朱雀』に攻撃することに、全力をかたむける!


 光速の軌跡、つばめ返し!


『ぴきっ』っと音がして、攻撃を受けた『朱雀』のひびが大きくなった。


 すると玄庵は、動揺どうようした表情になった。

「な、何?!」

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