第三十七話

 美玖みくは少し、あせった。くっ、斬死ざんしの大きな衝撃波しょうげきはまで相殺そうさいされるとは……。平志郎へいしろうは筋力もあるようだな……。すじも良い……。


 すると平志郎は、えた。

「ふふふ、勝てる! 勝てるぞ、あの沖石おきいし美玖に! そうすれば俺の名が上がる! 上野こうずけの国どころか、江戸にまで俺の名が知れ渡る! 喰らえ!」


 ざん


 しかし美玖は、『きわみ』で上段で受けた。


 すると平志郎は、おどろいた表情になった。

「何? 俺の攻撃を受けた? くそっ、ならば、これはどうだ?!」


 はらい!


 またもや美玖は、『極み』を右に寄せて受けた。


 平志郎は、あせった。

「く、くそっ!」


 き!


 美玖は突きが届く前に、『極み』で『白虎びゃっこ』の刀先の向きをそらした。


 平志郎は、がくぜんとした。

「ば、馬鹿ばかな……。一体、どうなっている?……」


 美玖は、説明した。簡単なことだ。神通力じんつうりきが無くても、お前がどんな攻撃をしてくるかぐらい、分かる。お前の視線しせんと肩の動きと、足運あしはこびを見ればな、と。


 平志郎は、信じられないという表情になった。

「な、何だと?……」


 すると美玖は、告げた。

「さて、私も本気を出すか。いつまでも、お前の相手をしている場合ではない。他の三人が気になるからな」


 そして腰を左にひねり『ため』を作った後、『極み』を左から右へるい、頭上に突き上げた。『極み』から『ごおおおお』と、うなる音があたりに響いた。


 美玖は、気合きあいが入った表情でえた。

「今、『極み』は、衝撃波をまとっている……。さあ、喰らってもらおう! どんな動きをするのかが分かっていても防げない攻撃を! うなれ、衝撃波!」


 美玖は頭上から『極み』を、一気いっきに振り下ろした。


 衝撃死しょうげきし


 美玖の動きが分かっていた平志郎は、『白虎』で斬を放ち相殺そうさいしようとした。だが衝撃死を受けた『白虎』は、真っ二つに折れた。


 平志郎は、ぼうぜんとした。

「ば、馬鹿な……。俺が負けた? 『白虎』を持っている、この俺が負けた? そんな馬鹿な……。くっ、やはり四刀しとう一番刀いちばんがたな、沖石美玖は強かったということか……」


 美玖は『極み』を、さやに納めて告げた。

「いや、私が強いのでない。お前が弱かったのだ」

「な、俺が弱いだと?! 一体、どういうことだ?!」

「お前は筋が良い。それは戦ってみて分かった。だがお前は稽古不足けいこぶそくだ。お前にだけ出来るであろう、技が無かった。誰にでも出来る、斬、薙ぎ払い、突きしか無かった。おそらく『白虎』の神通力に頼りきった結果だろう……」


 平志郎は、思わず聞いた。

「ならば俺は強くなれるのか? 稽古を積めば強くなれるのか?!」

「ああ、お前は筋が良い。稽古を積めば妖刀ようとうが無くても、今よりも確実に強くなるだろう……」


 すると平志郎は、必死の表情で宣言した。

「だったら稽古をしてやる! 死ぬほど稽古をしてやる! そしていつか、お前を倒す!」


 その宣言を聞いた美玖は、さわやかな笑顔で答えた。

「うむ。その日を楽しみにしているぞ!」


   ●


 俺が一人で山道を進んでいると、平べったい建物が見えてきた。あれが玄庵げんあん工房こうぼうだな……、と思い近づくと一人の男が立っていた。


 すると男は、聞いてきた。

「お前が『血啜ちすすり』を持つ、風早かぜはや誠兵衛せいべえか?」

「ああ、そうだ! っていうことは、お前が『朱雀すざく』を持つさむらいか?!」

「いや、僕は侍ではない……」

「どういうことだ?!」

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