第三十五話

 重助しげすけは、重撃じゅうげきを放つことを決めた。ざんはらい、きはのぼる華麗かれいな刀さばきで、かわされたからだ。


 重助は、不器量ぶきりょうな顔だが真剣しんけんな表情で聞いた。

「やるな、おぬし。登とか、いったか……。どこぞの剣術道場の師範しはんと見たが……」


 登は、無表情で答えた。

「ああ、私は上野こうずけの国で一番と言われる道場で、師範代しはんだいをしている。今回は玄庵げんあん様に、金でやとわれた……」


 それを聞いて、重助は笑った。

「ごはははは、お主も金で雇われたか! ならば金で雇われた者同士、どっちが強いか決めようではないか!」

「望むところ……」


 そして重助は、上段から放った。


 重撃!



 すると登は、叫んだ。


 鋼体こうたい



 そして登は、『玄武げんぶ』で受けた。


 重助は『じゅう』を再び、上段に構えた。

「ごはははは! 『重』の神通力じんつうりき衝撃しょうげきで、脳震のうしんとうを起こして、動けまい! 喰らえ!」と『重』を振り下ろそうとした時、『玄武』に水平にられた。


 薙ぎ払い!


 斬られた重助の腹部から、血がにじんだ。

「な、なぜだ? なぜ、動ける? 脳震とうを起こさないのか?!」


 登は、冷静に語った。この最鋼さいこう妖刀ようとう『玄武』は、体をはがねのようにすることが出来る。鉄よりも強度きょうどねばり強さを持つ、鋼のようにな。これが『玄武』の神通力だ。だから衝撃など、吸収きゅうしゅうすることが出来る。玄庵げんあん様は『玄武』を作る時に、カメの甲羅こうらの一部を混ぜたと言っておられた、と。


 そして叫んだ。「だから、こんなことも出来る!」と登は、落ち着いた黒い刀身とうしんの『玄武』を振り下ろした。


 斬!


「くっ!」と重助は『重』を持ち上げ、上段で受けた。すると登は左手で、手刀しゅとうを放った。


 鋼手こうしゅ


 鋼のような手刀で重助は、右腕を斬られた。


「ぐっ!」と重助は一歩下がった。重助には信じられなかった。まさか重撃が効かないとは……。だから叫んだ。「くそっ! さっきのは、まぐれだ! もう一度、喰らえ!」


 重撃!



 登も叫んだ。


 鋼体!



 またもや登は、『玄武』で受けた。そして脳震とうを起こしていない。更に放った。


 鋼手!


 重助は今度は、左肩を斬られた。そのため左腕に、力が入らなくなってきた。くっ、これは不味まずい……。

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