第二十八話

 美玖みくさんはこれからどうするか、話し出した。どうやって『四神しじん』を倒すかだが私は、こちらから攻めようと思っている。玄庵げんあん工房こうぼう本郷翁ほんごうおうから聞いた。上野こうずけの国(現在の群馬県のあたり)の山奥だ。ここから明日の朝に出発すれば、私たちの脚力なら夜には着くだろう、と。


 そして僕たちの顔を見ながら、聞いた。

「それで良いか?」


 僕たちは、うなづいた。すると美玖さんは、話を続けた。

「それでなぜ、明日の朝かというと、それまでには『じゅう』と『おと』が直るはずだからだ」


 重助しげすけさんと市之進いちのしんさんは、驚いた表情になった。

「何? 『重』が直る?!」

「本当ですか、美玖さん?!」

「ああ、本郷翁の話だと二日くらいかかるそうだ。だから今日の夜か、明日の朝には直るそうだ……」


 重助さんと市之進さんは、喜んだ表情になった。

「ふん。『重』を使いこなせるのは、わししかいないだろうから、使ってやりますよ!」

「『音』か、なつかしいなあ……。それに『音』には愛着あいちゃくがあったから、うれしいなあ……」


 そして美玖さんは、説明を続けた。

「よし。それで今日は何をするかだが……。簡単に言うと私が、重助と誠兵衛に稽古けいこをつける。市之新には昨日、私が、みっちりと稽古をつけた!」


 市之新は、疲れた表情をした。相当そうとう、激しい稽古だったのだろう。


 なので重助さんと僕は、おそれおののいた。

「け、稽古って実戦稽古、千回ですか?!」

「ぼ、僕は仮にも美玖さんに勝ったので、もういいかなと思うんですが……」


 すると美玖さんは、は言い切った。

「いや、実戦稽古、千回は時間がかかる。今日は一人に付き一刻(およそ二時間)稽古を付けようと思う。どうだ、二人とも?」


 一刻の稽古……。それも相当きついな、と思ったが、もちろん美玖さんには逆らえず僕たちは頷いた。


 そして美玖さんは、気合が入った表情で告げた。

「よし。一人目は重助で二人目が誠兵衛だ。重助、竹刀しないを持て!」


 重助さんが竹刀を持つと、美玖さんも竹刀を持って重助さんと向かい合った。

「かかってこい、重助!」

「はい、お願いします!」


 重助さんは、間合まあいを一気につめるとめんを放った。


 面!


 すると美玖さんは、軽々と上段じょうだんで受けた。

「ふむ、速くなったな、重助。昔は力任ちからまかせに攻めることが多かったが、速くなった。それに力も強くなったな……」

「当たり前です! これでも毎日、自分で稽古をしているんですから!」

「うむ、そうか……。よし、それでは今度は私から行くぞ!」




 一刻後。重助は、ぼろぼろになった。


「あ、あ、あ、ありがとうございました。み。美玖さん……」

「うむ、ありがとうございました」


 すると美玖さんはすずしい顔で、僕に言い放った。

「さて、次は誠兵衛せいべえか……。と言いたいところだが、私も少し疲れたな……。よし、ちょっと休憩きゅうけいしよう。

 む、そうだ! 私は重助と市之進と誠兵衛が作った、いわしのつみれなべを食べたいぞ! もちろん市之新が作る、つみれ鍋も美味おいしいが出来れば三人で作った、つみれ鍋をまた食べたいなあ……」


 重助さんと僕は、答えた。

「やれやれ、しょうがない。作りますよ、美玖さんの頼みなら」

「僕も同じです。作らせていただきます!」


 そして市之新さんを加えた僕たち三人は、台所で調理を始めた。市之新さんが、仕切しきった。

「それでは重助さんは、野菜を切っていただきます。誠兵衛君は、つみれを作ってもらいます。僕が、いわしをすりつぶすので。では、お願いします」


 重助さんがぼやくと、僕は取りあえずなだめた。

「やれやれ。今になっても料理を作らにゃ、ならんとは……」

「ま、久しぶりなんで、逆に新鮮しんせんじゃないですか? 重助さん!」

「どんな逆だよ?! と愚痴ぐちってても、しょうがねえ……。野菜を切ろう……」

「ふふっ」と顔を見合わせた僕と市之進さんは、つみれを作り始めた。


 僕がふと台所の外を見ると、僕たちの様子を見ていた美玖さんが満足そうな表情で、台所から離れていった。


 そして、いわしのつみれ鍋が出来た。美玖は両手を合わせた。

「それでは、いただきます!」


 食堂に集まった全員も、続いた。

「いただきます!」

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