第二十七話

 美玖みくさんは、いきさつを話した。その話を聞いた僕は、驚いた。

富士島ふじしま玄庵げんあんと『四神しじん』! まさか美玖さんの口から、その名前を聞くことになるとは……」

「うむ、出来れば協力して欲しい」

「もちろんです!」


   ●


 更に次の日の明け五(およそ朝の八時)。僕は、長屋ながやから出かけようとしていた。すると、おゆうさんは呼び止めた。

「待ってください、誠兵衛せいべえさん!」

「何でしょうか?」

「これから行くんですよね。また、戦いに……」

「はい。美玖さんの頼みとあれば、断る訳にもいきません」


 おゆうさんは、うつむいて告げた。

「でも、とても強そうな相手ですよね……」

「そうですね。本郷翁ほんごうおう一番弟子いちばんでしが作った、妖刀ようとうが相手ですからね」

「私、心配なんです……」

「大丈夫ですよ。美玖さんも、いますし」

「そうかも知れませんが……」


 おゆうさんは、意を決した表情になり背伸せのびをして僕に、接吻せっぷんをして告げた。

「必ず、帰ってきてください。ここに、必ず……」


 僕は真剣に、答えた。

「はい!」


   ●


 僕は、沖石おきいし道場の稽古場けいこばに着くと挨拶あいさつをした。「風早かぜはや誠兵衛、入ります!」

 稽古場にはすでに、美玖さん、重助しげすけさん、市之新いちのしんさんが、顔をそろえていた。


 重助さんは僕を確認すると、切り出した。

「何なんですか、こんな朝っぱらから! 一応、本郷翁の弟子に呼ばれたから、きたんですが?!」


 すると美玖さんは、話し出した。皆がそろったことだし、もう一度、話を整理しよう。きっかけは江戸で一番の刀工とうこう、本郷翁の一番弟子だった、富士島ふじしま玄庵げんあんという男だ。彼は本郷翁に、手紙を出した。本郷翁をえたことを証明するため、『四神しじん』という妖刀で『血啜ちすすり』と『きわみ』を倒したいそうだ。

 だが私は『四神』は、『白虎びゃっこ』、『玄武げんぶ』、『青龍せいりゅう』、『朱雀すざく』の四本の妖刀だと考えている。なので四刀を復活させて、『四神』を倒したいと思っている、と。


 すると重助さんは、そっぽを向いた。

「けっ、『血啜り』と『極み』がどうなろうが、わしの知ったこっちゃないですよ!」


 それを聞いて美玖さんは、重助さんをなだめた。

「そう言うな、重助。この仕事、ただではないぞ。ちゃんと本郷翁から報酬ほうしゅうが出る」


 すると重助さんの、目の色が変わった。

「ほ、報酬?!」

「うむ、一人に付き小判三枚だ。どうだ、やる気になったか? なんなら私の分も足して、重助には小判を六枚、渡しても良いが?」


 重助さんは再び、そっぽを向いてしまった。

「ふん、三枚で十分ですよ! それに美玖さんにそこまで言われたら、儂も協力しますよ!」


 すると美玖さんは、少し微笑ほほえんでうなづいた。

「よし、これで決まりだな。あ、そうだ。番付ばんづけは、どうしようか? 誠兵衛は私だけでなく、重助、市之新にも勝っている。一番刀いちばんがたなにしても良いと思うが?」


 僕はとんでもないと思い、ぶんぶんと頭を振って恐縮きょうしゅくした。

「いやいや! やはり四刀と言えば、美玖さんが一番刀、重助さんが二番刀にばんがたな、市之新さんが三番刀さんばんがたな、僕は四番刀よんばんがたなでしょう!」


 すると美玖さんは、重助さんと市之新さんに聞いた。

「ふむ。誠兵衛が良いなら私は、それで構わんが。重助、市之新はどうだ?」

「ふん、儂もそれで構いませんよ」

「はい、僕も同じ意見です」

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