第三部 四刀

第二十六話

 本郷源吉ほんごうげんきち工房こうぼう。夜四つ(およそ午後十時)。美玖みくは、『四刀しとうを復活させる』と言い放った。それを聞いて本郷は、疑問を聞いた。確かに江戸で最強の剣客集団けんきゃくしゅうだんと言われた四刀を復活させれば、そりゃあ心強こころづよいが、そこまでする必要があるのか。それにまた、四人が一つになれるのか、と。


 すると美玖は、真剣な表情で答えた。

「はい。まず私は、『四神しじん』が一本の妖刀ようとうだとは考えていません」

「どういうことだ?」

「はい。おそらく『白虎びゃっこ』、『玄武げんぶ』、『青龍せいりゅう』、『朱雀すざく』の四本の妖刀だと考えています」


 本郷は、右手でひたいたたいた。

「そうか、四神か! 俺としたことが、気づかなかったぜ!」

「はい。なので重助しげすけを、さがし出して欲しいのです」

「なるほど……、分かったぜ! だが重助が協力してくれるか、どうか……」

「おずかしい話ですが、重助は金で動くところがあります。なので報酬ほうしゅうを与えれば、協力してくれると思います」


 すると本郷は、提案ていあんした。

「報酬か……。なら俺から出させてくれ。一人につき小判を三枚(約百万円)、出させてくれ」

「良いんですか?!」

「ああ、元々は俺の頼みだからな。その方がすじが通っている」

「ありがとうございます」


 そして少し考えてから本郷は、また提案した。

「なあ、美玖の嬢ちゃん。『四神』と戦うのは、ちょっと待ってくれねえかな」

「どういうことですか?」

「ああ」と答え、本郷は折れた二本の妖刀を見せた。


「これは?」

「これは折れた、『じゅう』と『おと』だ」


 美玖は、驚いた表情になった。

「なぜ『重』と『音』が、ここに?!」

「ああ、これらは俺の弟子でしたちに回収かいしゅうさせたんだ。守護刀しゅごとうにならなかったとはいえ、放っておくのはしのびねえ。俺が作った妖刀だからな……」

「そうでしたか……」

「そして玄庵げんあんが作った妖刀は、おそらく四本。なら、こっちも妖刀は四本、必要だと思うんだがな」


 すると美玖は、納得なっとくした表情になった。

「なるほど、その通りですね」

「だから少し、そうだな、二日くらい待ってくれねかな。急いで直すからよ」

「え? 直せるんですか?」

「もちろんだ。俺が作った妖刀だし俺は、なかなか腕がある刀工とうこうなんだぜ。それに折れたと言っても、ちゃんと本体と折れた部分があるからな」と、江戸で一番と言われる刀工は答えた。


 美玖は、その提案に乗った。

「それでは二日ほど待たせていただきます」

「ああ、頼んだぜ。そして『血啜ちすすり』と『きわみ』を守ってくれ」

「はい。おまかせください」


 そして美玖は本郷の工房を出て、沖石おきいし道場へ戻った。


   ●


 次の日の朝。美玖は早速さっそく誠兵衛せいべえと、おゆうが住む長屋ながやに向かった。『すぱあん!』と扉を開け、言い放った。

「誠兵衛、誠兵衛はいるか?!」


 すると、おゆうが対応した。

「これは美玖さん、お久しぶりです」

「うむ、おゆう殿、久しぶり。早速だが誠兵衛は、いるか?」

「はい、ちょっと待ってください」と、おゆうは長屋の中に戻った。少しすると誠兵衛が出てきた。

「これは美玖さん、お久しぶりです。今日はどのような、ご用件で?」

「うむ、それは……」


 すると、おゆうが告げた。

「とにかく玄関で立ち話も何ですから、中へどうぞ」


 それを聞いた美玖は、頭を下げた。

「うむ、失礼する」


 誠兵衛と美玖が居間いまで向かい合っていると、おゆうがお茶を出した。お茶を一口啜ひとくちすすり、美玖は切り出した。

単刀直入たんとうちょくにゅうに言おう。誠兵衛、力を貸して欲しい」

「どういうことですか?」 

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