第十一話

 すると再び美玖みくさんは『きわみ』を、左から右へ水平にはらった。


   断死だんし


 何かいやな予感がした俺は、『血啜ちすすり』を立てて防御ぼうぎょの形を取った。すると『がきぃん』と、目には見えない圧力をらった。俺は何とかしのぐと、考えた。今の攻撃は一体?……。


 すると美玖さんは、説明した。

「今のは衝撃波しょうげきはだ。市之進いちのしん居合術いあいじゅつを使った時に、出せたらしいな……。だが私は居合術など使わなくても衝撃波を出せる! 体の『ため』を使ってな。本郷翁ほんごうおうは『極み』を作る時、クマの爪を混ぜたと言っておられた。これが『極み』の神通力じんつうりきだ!」


 そして再び『ため』を作ると、美玖さんの目がするどく光った。

「これで終わりだ!」と美玖さんは、上段、中段、下段の、左、真ん中、右と、九回、きを放った。九つの衝撃波が、俺を襲った。


   絶対死ぜったいし


 それは、逃げ場がない面のような攻撃だった。やはり俺は『血啜り』を立てて防御の形を取ったが、両腕、両脚に衝撃波を喰らった。


「今の攻撃は、防御しきれない面の衝撃波の攻撃だ!」


 とどめとばかりに美玖は、再び放った。


   絶対死!


 俺は『血啜り』を立てたがやはり、両腕、両脚に衝撃波を喰らった。そして仰向あおむけに倒れた。


 くそっ、何だよこの、でたらめな攻撃。こんな攻撃もはや人間業にんげんわざじゃねーよ! あ、そうか、美玖さんはメデューサだったんだ。怪物だったんだ……。つーか、技の名前が怖すぎんだよ、断死とか絶対死とか! これはあれですか、相手を殺すことを前提ぜんていに技を考えていますか?


 多分そうだろう、美玖さんはそういう人だ。剣術となると鬼になるからな……。

 やはり駄目だめだ、戦う相手と戦う時が悪すぎる。せめて疲れの無い万全ばんぜんの状態だったら、もう少し互角ごかくに戦えたのかも……。


 俺はここで死ぬのか? まあ、いいや。沖石おきいし道場を出てから、用心棒ようじんぼうみたいなことをして金をかせいで、やりたいことをやってきたからなあ……。美味うまいものも食ったし、うまい酒も飲んだし、色んな所に旅をして絶景ぜっけいもたくさん観たもんなあ……。まあ、いいか。ここで死んでも、いはないかあ……。


 と、そこまで考えていると、ある思いが浮かんだ。結局、一番強い妖刀ようとうは『血啜り』じゃなかったってことかあ……。それに、おゆうはどうしてっかなあ……。おゆうが作った飯をもう一回食いたかったなあ……。市之進は怪我けがをしていたけど大丈夫かなあ。また酒を飲みたかったなあ……。……ちっくしょう、まだあるじゃねえか、心残りが。なら死ねるか! 今ここで死んでたまるか!

 俺はふらつきながらも、立ち上がった。


 すると美玖さんは、無表情で告げた。

「ほう、まだ立てるか? さっきの攻撃で勝負はついたと思ったが……」

「うるせえよ、メデューサ。俺はまだ、死ねねえんだよ!」

「メデュー……? 何だそれは?」

 

 俺は、言い放った。

「うるせえ、こっちの話だ! とにかく俺は『血啜り』が一番つええ妖刀だってことを証明してえんだよ! 市之進とまた酒が飲みてえんだよ! もう一回でもいいから、おゆうが作った飯を食いてえんだよ!」


 すると美玖さんのこめかみに、青筋あおすじが立った。

「おゆう? 女か?」

「それがどうした?!」

「いや、構わん。しかし残念だったな、お前はもう、おゆうとやらが作った飯は食えない……。なぜならこれで最後だからだ!」


   絶対死!


 すると俺も、一,二,三,四,五,六,七,八,九と、突きを九回、上段、中段、下段の、左、真ん中、右に放った。


 美玖さんは、おどろきを隠せなかったようだ。

「何? 絶対死を相殺そうさいしただと?!」


 俺は、説明した。

「あんたの絶対死は、面の攻撃じゃあねえ。そんなことは誰にもできねえ。九回の突きで面らしきものを作っているだけだ……。だったらこっちも突きを九回、放てばいいんじゃねえかと思ったんだが、予想通りだったな……」

「なるほど、ならばこれはどうだ!」


   断死!


 俺は、音波おとはを放った。


   音波!


 そして再び美玖さんの技を、相殺した。


「ほう、やるな。居合術も使えるのか……。しかし私の技を相殺するだけでは、私には勝てないぞ!」

「その辺も、ちゃんと考えている!」


 俺は一気に距離を詰めるため、美玖さんに突きを放った。


   突き!


 美玖さんは、それを楽々とかわしながら告げた。

「私にそんな、基本的な技が通用すると思ったか!」

「まさか。思ってねーよ」と俺は全身を左にひねり、『ため』を作った。


 美玖さんは、おどろきの表情になった。

「これは?!」

「喰らえ!」


   光速こうそく軌跡きせき


 さやから放たれた『血啜り』が光速で、まばゆい光を放ちながら美玖さんにおそい掛かった。


   断死!


 美玖さんが放った断死は、美玖さんと俺の真ん中で光速の『血啜り』を止めた。

『ぎりぎりぎり』と嫌な音を立てて、『極み』と『血啜り』がり合った。


「光速の軌跡か……。なかなか良い技だ。だが当たらなければ意味はないぞ。喰らえ!」


   絶対死!


 俺は九回の突きの衝撃波を全て喰らい、吹き飛ばされた。そして仰向けに倒れた。

 くっ、駄目だめだ。今度こそ駄目だ。光速の軌跡がやぶられた。


 そんな気が弱くなった俺を、容赦ようしゃなく絶対死の衝撃波による痛みが襲った。

 駄目だ。痛すぎて気が遠くなりそうだ……。いや、その方がいいかも。いっそ気を失った方が楽かも。そうすりゃ美玖さんが『血啜り』を折って、めでたく一番強い妖刀は『極み』に決まる。俺はその内にちて死ぬ……。


 そう考えた時に右手ににぎっている『血啜り』から、意識が流れ込んできた。

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