第六話
俺は、昔のことを思い出した。
●
その日も
「はいはい、皆、起きろ、もう明け六つだぞ! 日は昇ったぞ!
すると僕たちから、不満が
「えー、まだ眠いよう、美玖さん……」
「もう、ちょっとだけ……」
「まだ
すると美玖さんは、三人のかけ布団を全て回収して言い放った。
「何を言っているんだ?! 朝ご飯を食べたら
不満ながらも僕たちは、いやいや起きだした。そして顔を洗い道場の食堂に向かった。
食堂にある大きな
「それでは、いただきます!」
僕たちと二人の住み込みの
「いただきます!」
だが朝ごはんは味噌汁がしょっぱく、卵焼きが甘くなく、焼き
僕たちは、相談した。
「今日もきっと、美玖さんが作ったんだぜ」
「あー、これなら僕たちの方が、よっぽど上手いよ、きっと。明日から僕たちで、ご飯の用意をしないかい?」
「いいなあ、それ賛成!」
朝ご飯を食べ食器を洗うと僕たちは美玖さんに、明日からは僕たちがご飯を作りたいと
すると美玖さんは、はち切れんばかりの笑顔で答えた。
「ほう、
僕たちは、皆は美味しそうに食べているとは思えないんだけど、美玖さんに『美味しいか?』と聞かれたら『はい。美味しいです』と答えるしかないよな、という表情になった。
だが皆、ここは
そして僕が、切り込んだ。
「いえいえ、住み込みでしかもタダで、
重助と市之進は、激しく頷いた。
沖石道場の
美玖さんは、僕たちの
「そうかお前たち、お前たちはそこまで考えるようになったのか……。私は
それじゃあ早速、今日のお昼に食べるご飯から、作ってもらおうか」
僕たちは心の底から喜んだ。これで美味しいご飯が食べられると。
すると美玖さんは、言い放った。
「さ、それでは午前の稽古を始めるぞ。道場に集合しろ!」
●
「よし、皆そろったな! それじゃあ、いつもの通りにやってくれ。中段の構えからの面打ち、胴打ち、小手打ちを千回ずつだ。
これは基本中の基本だ。これらを練習すれば基本の技が覚えられる。
早速、僕が不満を漏らした。千回ずつって多すぎる、半分の五百回でも良くないですか? どうせ美玖さんは言うだけだから、どれだけきついか分からないと思うんですが、と。
すると美玖さんは、
「うん? 私は言うだけ? いやいやまさか。私もちゃんと稽古をしているぞ。朝早く、お前たちが寝ている間に。面打ち、胴打ち、小手打ちを二千回ずつな」
僕たちは
●
午前の稽古が終わり僕たちは、昼に食べるご飯を作り始めた。何でも器用にこなす市之進さんが中心となって、作った。ご飯を炊いて、イワシのつみれが入った鍋を作った。それらを食べ始めると僕たちは感動した。ここへきて、初めてこんなに美味しいものを食べたような表情になった。
美玖さんも、満足した表情になった。
「美味しいじゃないか、お前たち! こりゃあ、もしかすると料理の腕だけは、私より上かもな! はーはっはっはっ!」
僕たちは、いや、もう、比べほどにならないほど僕たちの方が腕は上です、とはまさか言えるはずがないな、という表情になった。
●
昼のご飯が終わり少し休んだ後、僕たちは道場に集まった。
美玖さんはすでに、待っていた。
「よし、それじゃあ、午後の稽古を始めるぞ。と言っても、いつも通りの
今日は、
●
道場破りは、美玖さんが自分を
美玖さんは、考えていた。
「うーむ、我々の
む、竹刀は竹の刀と書くか……。うん、これだな! 我々は今日から四刀だ!
私が
●
竹刀を持った僕たち四人は、猪熊川道場の扉の前にいた。美玖さんが扉を開けて叫んだ。
「
猪熊川道場に、
「沖石道場の四刀だってよ……」
「このへんの道場を、ほとんど
「
猪熊川道場の
「ここでの稽古は
美玖さんは、きっぱりと答えた。
「もちろん、望むところ!」
「それでは行けえ、
美玖さんは、
「そうこなくてはな! 行くぞ、お前たち!」
相手は、三十人程いた。しかし美玖さんが切り込み、突き、斬、薙ぎ払いで次々と倒していく。美玖のあとに重助さん、市之進さんが続き、竹刀を
●
道場破りという午後の稽古が終わると、沖石道場の道場で反省会が開かれた。
美玖さんが
「私が倒したのは十五人というところか……。まずまずか……。重助はどうだった?」
「はい、七人程でした」
「うむ、市之進は?」
「はい、六人程でした」
「うむ、誠兵衛は?」
「え、えーと僕は……、二、三人です……」
美玖は無表情のまま、全身から
「二、三人だと……。ふざけるな! 四番刀とはいえ、それでよく四刀が名乗れるな?!」
僕は、
「いや、僕はそもそも、四刀になんて、なりたくないのに……」
美玖さんは鬼のような表情で、竹刀を
「いや、お前には
さあ、稽古をつけてやる、お前の素質を引き出すためのな! 本気を出せ! 私から一本取るまでは稽古は終わらぬぞ! さあ、かかってこい!」
沖石道場では稽古も真剣勝負だという考え方で、面も胴も小手も着けなかった。
美玖さんと僕の稽古は、半刻(およそ一時間)続いた。いつも通り僕は、美玖さんから一本は取れなかったが、もうすぐ夕飯なので稽古は終わった。
●
夕飯が終わると僕たちは、住み込みの門下生が眠る寝室で布団を
僕は、
「あーあ、今日も僕だけ怒られたよ。本当に僕には、素質があるのかなあ……」
すると市之進さんが、答えた。
「あるんじゃないかな? あの美玖さんが、言っているんだから」
それを聞いた重助さんが、口を
「お前は美玖さんを
「いや、惚れてはいないよ。ただ美玖さんのあの
「それが惚れているってことじゃ、ねえのかよ!」
「うーん、そうかなあ……」
重助さんは、言い切った。
「俺はやだね、あんな強い女は。やっぱり女は優しくて、おしとやかな方がいいなあ」
「うーん、美玖さんは取りあえず優しいと思うけど……」
「どこが?! あれは鬼だよ、鬼! 剣術の鬼だよ!」
すると僕は、思わず
「あのう僕の悩みは
次の瞬間、寝室のふすまが『すぱあん』と
美玖さんが顔を出して、言い放った。
「明日も早いぞ! 皆もう、寝なさい!」
それだけ言うと美玖さんは、自分の部屋に戻った。
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