第三話
それから僕たちは江戸の商店街を、ぶらぶら歩いた。僕にはそれらは、
蕎麦を食べながら、おゆうさんは聞いてきた。
「あの、
「はい、何でしょうか? 僕に答えられることなら、何でも答えますよ」
「あの、今の誠兵衛さんと昨夜の誠兵衛とは、別人に見えるんですが。表情とか話し方とか。どうしてですか?」
僕は『
「ああ、そのことですか。その理由はこれです」
おゆうさんは、困惑した表情になった。
「あの、それが一体どうしたんですか?」
この『血啜り』は、
そして四本の妖刀を、作った。しかし必要な守護刀は、一本だけ。そのため本郷翁は、四本の妖刀を四人の侍に
おゆうさんは、更に聞いてきた。
「なるほど、そういうことだったんですか。で、どうなんですか? 他の妖刀と戦ったりしたんですか?」
「いえ、まだです。それよりもこの『血啜り』自身が
●
僕は本郷翁から『血啜り』を託された時のことを、話し出した。
本郷はまず、妖刀を作ることになった、いきさつを話した。三カ月前、
そして『血啜り』についても話した。『血啜り』で人を
更に本郷はこんなことも話した。本郷がこの間、山に入って妖刀に混ぜる材料になりそうな物を探していたら、びっくりするものを見た。それは、クマと戦っていたアナグマだった。犬ぐらいの大きさしかないアナグマが、自分の何倍もの大きさと力を持つクマと戦っていた。
本郷はその戦いに、思わず
結局そのアナグマは、クマと引き分けた。本郷は思わず、そのアナグマを
刀を作る時、
こうして『繰り返し鍛錬』という過程で色々な材料をわざと混ぜて刀を作り、工房の
そこまで話を聞いた誠兵衛は、本郷に聞いてみた。
「なるほど……。それはよく分かりました。で、僕は本郷翁のお
「まあ、俺くれえ弟子がいると、色んなことができるんだよ。
「な、なるほど……」
●
アナグマには凶暴な種類もいる。サバンナにいるラーテルだ。別名ミツアナグマ。イタチ科の体長八十センチメートル程度の動物で、白と黒の体色を持っている。実はこのラーテルは、サバンナで最も
ラーテルの攻撃的でしつこい性格が、サバンナの
更に、非常に分厚く、たるんだ毛皮をしている。これがラーテルの強さの一つの
そして例えばライオンがその気になればラーテルを殺すことは可能だが、毛皮のたるみのせいで、かみついてもうまくラーテルを無抵抗にすることができないとなれば、手痛い反撃にあう可能性がある。そして仮に一匹のラーテルを殺すことができたとしても、ライオン側も無傷ではすまないし、スカンク同様、
ゾウも同様だ。ゾウの長く強力な鼻で一撃を喰らわせれば、ラーテルは吹っ飛んでいくだろうが、一つ間違えるとかみつかれて痛い目にあう。
ラーテルは自分たちが恐れられていることを、よく理解している。そのため、自分の存在を隠そうともしない。一般に野生動物は極力、音を立てずに移動する。肉食獣であれば、
ところがラーテルだけはそうではない。どこにいても自信満々に肩を揺らしながら、『ざっざっざっ』と大きな音をたてて歩く。その態度は、実にふてぶてしい。更に高い知能と器用さも持ち合わせている。ラーテルは雑食性なので、季節に応じて柔軟に餌を調達できる。ミツアナグマの名の通り、
ラーテルについて、南部アフリカでは数々の
そして水の無い場所、水の無い季節でも餌のみから必要な水分の全てを得ることができるので、砂漠地帯も含めアフリカ大陸にかなり
●
蕎麦屋を出た俺たちは、
夕日を見つめながら、俺は聞いた。
「
突然、嬢ちゃん、と呼ばれたことに
「はい、夕方のことですよね。ちょうど今のような」
「その通り、昼と夜が移り変わる時刻だ。そして『
俺の場合は『血啜り』の意思が、俺の中に流れ込んでくる。おそらく『血啜り』の中にいるであろう、アナグマのな。そしてそいつの『外道の血を啜りてえ!』っていう意思が俺の全身に
そう言っておゆうに振り返った俺の表情は、凶暴的だっただろう。
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