第17話 ゴールデンウィーク
4月28日
ゴールデンウィーク初日。実家へ帰る途中の駅で、中学の同級生だった宮田さんという女の子にばったり遭遇した。一緒にローカル線に乗って帰ってきた。宮田さんとは、中学3年の時同じクラスで、実は僕の方が好意を抱いていて、ビートルズのカセットテープを強引に貸したりしていた。
山崎が櫻川さんと見た、シティ・ヒートを僕も見たいと思っていたので、宮田さんを誘ってみた。次の日行くことを約束して、別れた。女にフラれた二日後に、別の女を映画に誘うなんてと思ったが、言い訳すると、落ち込んだ気分を少しでも紛らわせたいという気持ちと、中学を卒業して以来3年ぶりの偶然の再会は大切にしなければならない、という倫理観が働いたためだ。
4月29日
宮田さんとはローカル線の駅が一つ隣になるので、僕が先に乗って、次の駅で宮田さんが乗ってくるという手はずだった。予定どおりの電車に乗り、街へ出ると、映画の上映開始時刻までは大分時間があったので、大きな本屋での買い物に付き合ってもらった。僕は最近知った、高橋和巳の「非の器」を買った。
シティー・ヒートは山崎が言っていたとおり面白かった。同じ場面で僕と宮田さんが同時に吹き出したりすることもあった。映画の後、コーヒーを飲みながら、映画の感想や思い出話やお互いが知らない高校3年間の出来事を報告しあった。
彼女は高校を卒業して金融機関で働いていた。クリント・イーストウッドが好きだとか、高校時代に新体操部だったとか、僕が想像しえなかった事実を報告してくれた。僕は、高校では部活に入らず、勉強ばかりしていたことや、大学へ入って一人暮らしを楽しんでいることを報告した。二日前に女にフラれたことは黙っておいた。まだあまりにも生々し過ぎて、他人に話せるほど、僕の心の整理がついていなかったからだ。帰りの街中で、宮田さんの上司に遭遇したり、中学の同級生に行き会ったりした。どうも、僕は秘密のデートができない運命らしかった。
5月4日
ゴールデンウィークは、遠くの大学へ行った高校のクラスメイトが多く帰ってきた。石原がクラス会を企画し、20人ほどが集まった。僕と美沙さんも参加したが、席は遠く離れていた。飲んだり食べたりしながら、久しぶりに会うクラスメイトと近況報告をし合った。つい1か月前まで一緒に遊んでいたのに、妙に懐かしく感じたのは、服装や言葉遣いが洗練されてきたからだろうか。僕は、ちらちらと美沙さんの方に視線を送ったが、その視線が交わることはなかった。
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