第14話 疑念
4月14日
僕は昨日感じた不安を確認するために、公衆電話から美沙さんに電話した。
「もしもし、僕。昨日はごめんね」
「うん、うん」
「しんみりとした話です」
「は?」
「しんみりとした話です。昨日帰りの新幹線で、僕とても不安になったことがあって。気が小さいから。だから、はっきりと真面目に答えてください。・・・・・・僕のこと好きになれる?」
しばらくの沈黙の後、
「分からない。全く分かりません!」
彼女は、はっきりした口調で答えた。
「はい、じゃまあとりあえず今日はここまでで失礼します。バイバイ」
「バイバイ」
「好きになれそうもない」とまでは言われなかった。
彼女が僕の実家へ来た日から、まだ10日も経っていない。大学生活が始まったばかりだ。なのに、この時の彼女の気持ちは、僕が告白する以前の状態に戻っていたようだった。彼女の実家の前で「いいですよ」と言った時の彼女ではなかった。新しく真っ白な状態から大学生活をスタートさせるために、春休みの間に付けてしまった汚点を取り除く必要が、彼女にはあったのではないか。元の関係、つまりただのクラスメイトに戻したかったのではないだろうか。最悪、昨日部屋へ行ったことで嫌気がさし、クラスメイト以下にまで落としたいと思っているのかも。彼女の気持ちを推測できて、少しは落ち着けたが、感情的にはとてもつらい状況に追い込まれた。
4月15日
今日僕の部屋に電話がついた。いつものメンバーが集まって、夜遅くまで過ごしていた。美沙さんに電話した。今日部屋に電話が付いたことを報告し、電話番号を伝えた。しばらくすると山崎に変わってくれと言われた。山崎がしばらく話してから石原に変わった。石原の話が終わると、電話は僕に戻ることなく切られた。電話が切られた後、僕は腕を組み、大きく溜息を吐いた。人に聞かせる溜息だった。二人は僕の気持ちを察し、この後少ししてから帰った。
地元でデートしたとき、「いいなと思っていた」というのは、現在進行形ではなく、やはり過去形だったのか? 春休み中は、僕に気があるそぶりをしていただけなのか? 僕は、その気にさせられて、ひとりで踊っていたのか? だとしたら、とんだピエロだ。この日、もうだめかもしれない思った。でも、どこかで「そんなことないよな。そんなことあって欲しくない」と、すがる気持ちもあり、かすかな望みを捨て去るだけの勇気もなかった。
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