第2章
第12話 一人暮らしの始まり
4月8日
僕も、名古屋のアパートへ引っ越した。部屋は、玄関のドアを開けるとすぐ3畳ほどのキッチンがあり、玄関から見て右側に風呂とトイレが別々にあった。キッチン奥のガラスの引き戸を挟んで4畳半の和室と押入れ。和室の奥のふすまを開けると6畳の和室が直線的に並んでいた。僕は、4畳半にテレビとテーブルを置いて、居間として使い、6畳にセミダブルのベッドと箪笥を入れて寝室とした。
建物は古く、壁や天井は長年使ってきた様子が伺える表情だったが、田舎育ちで、大きな家に住んでいた僕にとっては、空間が広いのが何よりだった。僕の隣は、同じ間取りに、大人二人子供二人の家族が暮らしていた。
高校のクラスメイトで名古屋へ来たのは、4人。僕、山崎、石原と櫻川さん。僕と山崎は同じ大学の別々の学科で、石原は別の大学の法学部。櫻川さんは女子大の文学部だった。男3人の住まいは、互いに自転車で数分の距離だったが、櫻川さんは、山崎の情報によると、地下鉄とバスを乗り継いで1時間くらいかかるところにあった。早速、男3人が僕のアパートに集まった。僕以外の二人は部屋にお風呂がなかったので、僕のアパートに入りに来た。そして、そのまま朝まで泊っていった。おかげで、僕の一人暮らし初日は、一人ではなかった。
4月9日
山崎の家に3人がに集まり、焼肉パーティー。山崎のアパートは僕たちが通う大学のすぐ近くにあった。僕は自転車で5分ほどかかるから、授業の合間に彼のアパートで暇つぶしできそうだった。
4月10日
目が覚めたら9時40分。入学式に間に合わない。急いで支度し、大学の講堂へ着いた時には、式はすでに始まっていた。自分の席につくと、学長の話の途中で眠ってしまった。
4月11日
大学のオリエンテーションが3時に終わったので、山崎のアパートで暇つぶしをしていた。
「櫻川さんが、もうこっちに来てるはずなんだよ。電話してみるか?」
山崎はそう言って、手帳を見ながら電話をかけた。
「あっ、もしもし。山崎だけど。今日はもう大学終わった?」
「〇〇」
「高広が、今から櫻川さんのアパートに行きたいって言ってるんだけど、行ってもいい?」
「〇〇」
「俺、言ってないだろ」と、僕。
「たぶん1時間ちょっとで着くと思う。うん、じゃね」
「〇〇」
地下鉄とバスを乗り継ぎ、5時頃櫻川さんのアパートへ到着した。2階建ての鉄筋コンクリート造り。櫻川さんの部屋は、階段を上がってすぐの2階の隅。山崎がドアホンを鳴らすと、すぐにドアが開き、櫻川さんが顔を出した。櫻川さんは、注意して見ないと分からないくらいの薄い化粧をし、高校時代とは少し違う大人びた雰囲気に変わっていた。
「どうぞ、散らかってるけど」
「お邪魔します」
壁や天井が白ベースの明るいワンルームだった。家具は薄いベージュの木目で統一され、品の良い、ナチュラルな感じの部屋だった。テレビの前にテーブルが置かれ、二つあった座椅子の片方にはクマのぬいぐるみが座っていた。意外と少女趣味なのかもと思った。
会話はほとんど山崎の独断場。二人がデートで見た映画の話も出た。クリント・イーストウッドとバート・レイノルズが共演したシティ・ヒートという映画。
「我慢していたイーストウッドが切れるシーンとか、面白かったよね~」
と、山崎は妙に僕に向かって強調した。夜9時過ぎに櫻川さんのアパートを出た
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます