第42話
影から逃げようと後退するものの、箱の中ではどこにも行き場がない。
あたしは真っ白な目を見開いた影を見つめていることしかできなかった。
この人が咲子さんなんだろうか?
このエレベーター内で亡くなり、今でもまだここにいる……。
「あ……あなたは殺されたの!?」
あたしは声を振り絞ってそう聞いていた。
情けないくらい震えた声で、聞き取れたかどうかわからない。
しかし次の瞬間エレベーター内の気温がスッと下がったのがわかった。
一瞬にして吐く息が白く変わり、まるで冷凍庫の中にいるかのように空気が冷たくなったのだ。
「な、なに……?」
箱の中を見回してみても、今までとなにも変化はなかった。
どうしてここまで冷気に包まれるのかわからない。
混乱と恐怖で強く目を閉じてしまいそうになった瞬間、影に色がついたのだ。
今まで影だった体は女子生徒の制服姿になり、影だった体は白い肌に変化する。
そして顔も……。
青白い女性の顔。
真っ青な唇に口の端からブクブクと泡を吐き出している。
目は飛びださんばかりに見開かれ、充血した瞳がこちらをキツク睨み付けている。
「あ……あ……」
あたしは左右に首を振り、イヤイヤと駄々をこねる子供のような仕草をしていた。
その顔は、間違いなく遺影で見た咲子さんだったのだ。
美しい顔は苦痛で歪み、誰かを怨むように鋭い目つきをしているが、それでも咲子さんだとわかった。
次の瞬間、頭に強い衝撃を覚えたあたしに、咲子さんの記憶がなだれ込んで来たのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます