第40話
☆☆☆
帰宅後、あたしはすぐに光弘に連絡を入れた。
《美知佳:どうしよう……》
《充弘:どうした?》
《美知佳:もしかしたら、咲子さんはエレベーターの中だけじゃなくて、外でも襲ってくるのかもしれない》
そう送り、あたしは帰りの出来事を説明した。
メッセージにはすぐに既読が付いたが、充弘からの返事はなかなか来ない。
充弘も考え込んでいるのかもしれない。
あたしはベッドの上で膝を抱えて座り、自分の両足をギュッと抱きしめた。
もしも咲子さんが外へ出てきているとしたら、あたしに安らぎの場はどこにもないということになる。
こうして自分の部屋にいる間でさえ、咲子さんはどこから出て来るかわからないのだ。
もしかしたら、眠っている間に闇へと引きずり込まれてしまうかもしれない。
色々な嫌な予感が胸をよぎっては消えて行く。
咲子さんの事件の真相に近づいてもいいものかどうか、わからなくなる。
《充弘:明日は俺が家まで迎えに行く。絶対に美知佳を1人にはしないから安心しろ》
充弘からのメッセージを確認したあたしは、少しだけ安堵したのだった。
☆☆☆
翌日。
充弘は言っていた通りあたしを家まで迎えに来てくれた。
学校までの道のりを一緒に歩いていると、少しだけ気分が晴れて来るのを感じる。
ただ、今日の放課後にもきっとあたしはエレベーター内に引きずり込まれてしまうのだろう。
そう考えると心の奥がズッシリと重たくなっていった。
「そんなに暗い顔するなよ」
「うん……」
充弘にしっかり手を握りしめられても、心は晴れない。
「前原さんと接触ができれば、きっと変わるから」
そうだろうか?
昨日あたしはついに殺されかけたのだ。
そのことをおもい出すと、今更どうすることもできないような気がしていた。
咲子さんはあたしに何か伝えたがっていたが、あたしはそれを理解できなかった。
咲子さんは激怒し、もうあたしを生かして置こうとは思っていないのではないか……?
昨日からずっと、そんなことばかりを考えているのだ。
重たい足を引きずるようにしてどうにか学校へ到着し、昇降口へと向かった。
後一歩でガラス戸をくぐると言った瞬間だった。
ヒュンッと風が鳴り、あたしの眼前を上から下へと何かが通り過ぎた。
それは鼻先をかすめ、すぐにガシャンッと大きな音を立てていた。
音に驚いて足元を確認すると、そこには粉々に砕けた植木鉢があった。
「え……?」
見た瞬間、スッと血の気が引いていくのを感じる。
咄嗟に上を確認してみたが、人影は見えなかった。
今、あたしを狙って落とされたよね……?
指先で鼻に触れてみるとネットリとした感触があった。
それをぬぐって確認してみると血がこびりついているのがわかった。
さっき植木鉢が鼻先をこすって行ったときに傷ついたのだ。
そう理解した瞬間、倒れてしまいそうになった。
昨日の信号と言い、今日の植木鉢といい、咲子さんは確実にあたしを殺しに来ているとしか思えなかった。
「誰だよ、クソ!」
そう呟き、充弘は校舎へと駆けて行った。
植木鉢を落とした犯人を捕まえようとしたのだろう。
でも……その犯人はすでにいないだろうということを、あたしは理解していたのだった。
☆☆☆
充弘が追いかけてくれたが、やはり犯人の姿はどこにもなかったらしい。
相手は幽霊なのだから当然のことだった。
「美知佳、怪我はなかったか?」
「少し血が出ただけ」
「念のため保健室に行こう」
ほっておいても大丈夫だと思ったが、充弘はあたしの手を握りしめると先を歩き出した。
廊下を歩く時も、保健室へ入る時も先に立って安全を確認してくれている。
「あら、鼻の頭から血がでるなんて珍しいわね? なにがあったの?」
白衣を着た保険の先生はあたしを見て不思議そうな顔をしている。
あたしは適当にごまかして手当てをしてもらった。
「少し顔色も悪いみたいだけど、授業出られそう?」
「これくらい大丈夫です」
そう声をかけて立ち上がった瞬間、思いがけず立ちくらみを覚えてまた座り込んでしまった。
「美知佳、無理はするなよ」
隣に立っている充弘が怒った声を出している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます