第38話
☆☆☆
~美知佳サイド~
「その後、学校から出た咲子は課題を忘れてきてしまったことに気が付いて、1人で教室へ戻ったの。その時にエレベーター内で発作を起こして、そのまま……」
咲子さんのお母さんはそう言い、目じりに浮かんだ涙をぬぐった。
「その話は誰から聞いたんですか?」
あたしがすぐにそう質問した。
「友達の英子ちゃんよ。あの子とは1番仲が良かったから」
「そうなんですね……」
あたしは遺影の中でほほ笑む咲子さんを思い出した。
たしかにパッと人目を引くような美人だった。
でも、それと今回の出来事には関係がなさそうだ。
ただすごくモテていたというだけで。
「さっきの人が、咲子のファン第一号だったの」
お母さんの言葉にあたしは「え?」と、聞き返していた。
「さっきのスーツの子よ。前原君って言って、何度か咲子に告白したこともあるみたい」
お母さんの言葉にあたしと光弘は顔を見合わせた。
「それに、咲子が倒れたのを発見して通報してくれたのも前原君だったわ。彼は本当に優しい人でね……」
お母さんの声がどこか遠くに聞こえ始めた。
届かなかったSOSボタン。
ファン第1号。
倒れた時の発見者……。
それらの単語が頭の中で結びつき、嫌な結末を導きだすのにそう時間はかからなかった。
あたしと光弘はハッと息を飲み、次の瞬間には男性が去って行った方向に視線を向ける。
男性はすでにどこかへ行ってしまい、痕跡を見つけることは難しそうだ。
「その、前原って人の住所を教えてもらえませんか?」
充弘がお母さんに頼み込む。
「でも、個人情報を勝手に流すわけにはいかないわよ」
「お願いします! なにか問題があったときには全部自分たちで責任をとりますから!」
どうにか前原という人と接触しなければならない。
そうすればきっと何かが見えて来るはずだ。
そう思い、あたしと光弘は深く頭を下げたのだった。
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