第37話

☆☆☆


それから1時間、咲子さんのお母さんは時折驚いた声をあげながらもすべての話を聞いてくれた。



「あのエレベーターが動くだなんて、そんな……」



口に手を当てて唖然としている。



「嘘じゃないんです。あたしは何度もエレベーター内に引きずり込まれました。友達の1人はそれが原因で今入院しています」



信じてもらえるわけがないと思っていた。



咲子さんの霊がいまだにさまよい続けているだなんて、母親からしたら信じたくもない事実だろう。



でも、咲子さんのお母さんはゆっくりとほほ笑んでくれたのだ。



「簡単には信用できる話じゃないけど、何度もここへ足を運んでくれているし、ひとまずはあなたたちの話を鵜呑みにすることにするわ」



そうして、咲子さんのお母さんは、咲子さんの生前の話をしてくれたのだった……。



☆☆☆


~咲子サイド~


坪井高校へ入学したものの、出席する頻度はそれほど多くなかった。



しかし専用の学校だったこともあり家や病院で課題をすることで出席日数の心配はなかった。



「おはよう咲子ちゃん。今日は調子がいいんだね?」



登校して真っ先に声をかけてくれたのは学校内で1番中の良い英子(エイコ)だった。



英子はあたしと同様に片足がなく、入学した当初からなんとなく親近感のある生徒で、よく会話するようになった。



「おはよう。うん、心配かけてごめんね」



そんな英子と会話するのも、まだ数えるくらいだった。



五体満足じゃないだけでなく体の弱いあたしには毎日学校へ通うという当たり前のことも一苦労だ。



「咲子ちゃんがいない間、また沢山先輩たちが教室へ見に来たよ」



英子の言葉にあたしは首を傾げた。



「先輩たち?」



さっきから言っている通り、あたしはあまり学校に来ていない。



そんな中先輩の知り合いなんてできるわけもなかった。



「知らないの? 咲子ちゃんのファンクラブの人たちだよ」



なんでもないようにそう言った英子にあたしは目を見開き、それこそ発作を起こしそうになってしまった。



「ファンクラブ……?」



初耳だった。



しかも、あたしのファンクラブとはいったいなんのことだろう?



瞬きを繰り返していたとき、ちょうど廊下に数人の男子の先輩がやってきたところだった。



話し声に視線を向けると、バチリと音が聞こえてくるほど視線がぶつかる。



その瞬間、相手は真っ赤な顔になってしまったのだ。



「ほら、あの人たちが咲子ちゃんのファンクラブの人だよ。会員はもっとたくさんいる」



英子は先輩の反応を見て楽し気な笑い声を上げて言った。



「そのファンクラブってなに?」



「咲子ちゃんが学校に来てない間にできたんだよ。病弱ではかなげな美人がいるぞーって!」



英子の言葉にあたしはメマイを起こしてしまいそうだった。



まさかそんなことになっているなんて思っていなかった。



あたしなんてただ病気がちな女子高生というだけなのに……。



久しぶりの登校ということで、ファンクラブを名乗る人たちにもその噂が広まり、旧家時間の度に沢山の生徒たちがあたしを見に来た。



「なんか疲れちゃった」



放課後になると同時にあたしは英子へ向けてそう言い、深くため息を吐きだした。



「大丈夫? 先輩たちは熱狂的だからねぇ」



学校内に他に娯楽がないからに決まっている。



あたしはそう決めつけ、仏頂面で立ち上がった。



あたしは見世物ではないし、あれだけの男子たちに好奇の目を向けられたら、多少なり不愉快さを感じずにはいられない。



「英子、帰るよ」



あたしは友人に声をかけ、廊下で待っているファンクラブの男子たちの間をすり抜けて歩き出したのだった。

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