第32話

3人で学校を出るとすでに周囲は薄暗くなりはじめていた。



「これからどうするつもりだ?」



「もちろん、この咲子さんの家に行ってみるつもりだよ」



住所を確認して、一駅先の街だということがわかっていた。



バスで行っても大した時間はかからない。



「一穂、足止めしてごめんね」



もうすぐ面会時間が終ってしまうと思ってそう声をかけたけれど、一穂は決意を固めたように「あたしも咲子さんの家についていくよ」と、言った。



「いいの?」



「うん。ここまで来たんだもん。ちゃんと最後まで確認したいじゃん」



「そうだよな。俺も同意見だ」



充弘も頷いている。



「2人とも、あたしに付き合ってくれるの?」



驚いてそう訊ねると、2人は同時に頷いてくれたのだった。



☆☆☆


バスに揺られること20分。



あたしたちは咲子さんの家の最寄り駅で下車していた。



周囲はどんどん暗くなってきているけれど、明日になればまた同じことが繰り返されるのだ。



そうなる前に、少しでも前進しておきたかった。



「住所によるとこの辺だな」



光弘が地図アプリを確認しながら先頭を行く。



その後ろについていくと、木製の表札が出してある大きな家が見えた。



そこには『末永』と書かれている。



「ここだ!」



あたしは充弘の前に立ち、呼び鈴に手を伸ばす。



突然訪問してちゃんと話を聞いてくれるだろうかと不安を感じた後、ボタンを押した。



しばらくすると「はぁい」という声が家の中から聞こえてきて、玄関が開かれた。



出て来たのは60代前半くらいの女性だ。



白髪交じりの痩せ型で、この年齢にしては随分とキレイな人だった。



きっと咲子さんの母親だろう。



その姿を見た瞬間、あたしは何と言えばいいものかわからなくなってしまった。



死んだ咲子さんについて聞きたいことがあるなんて言って、すんなり教えてくれるだろうか。



「あなた、坪井高校の生徒さん?」



あたしの制服姿を見て、女性がそう声をかけて来た。



「そ、そうです。あたしたち3人とも坪井高校の生徒です」



「あらそうなの。制服は昔からあまり変わってないのね」



女性はそう言うと懐かしそうにほほ笑んだ。



その笑みにひとまず安堵する。



「坪井高校の生徒さんたちが、うちになにか用事?」



「あ、あの……実は先生から咲子さんのことを聞いたんです。それで、昔同じ学校の生徒さんでそんなことがあったんだと思ったら、いてもたってもいられなくて……」



あたしはそこまで言って口をつぐんだ。



女性が今にも泣きだしてしまいそうな顔になったからだ。



「じゃあ、今日はわざわざ咲子のために来てくれたの?」



その質問に充弘が頷いた。



罪悪感が胸を疼かせる。



でも、この調子でいけば咲子さんのことをもっと色々聞き出せそうだった。



「そう……。よかったら上がってちょうだい。咲子もきっと喜ぶから」



目じりに涙を滲ませて、女性はそう言ったのだった。

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