第30話
「また君たちか。まだ学校について調べてるのかい?」
清田先生は細い目を更に細めてそう聞いて来た。
「はい。以前この学校は障害者の子のために建てられたと聞きましたが、そのことでもう少し聞きたいことがあるんです」
あたしは早口に説明をした。
「なんだい?」
「ここに通っていた子たちの中で、学校内で不幸な事故や事件に巻き込まれた生徒さんはいらっしゃいますか?」
これはかなり確信を付いた質問だった。
清田先生は細い目を見開いてあたしたちを見つめた。
「そんなことまで調べて、どうするんだ?」
さすがに不審そうな表情になっている。
学校の名誉にかかわることなんて簡単には話せないだろう。
「どうしても必要な情報なんです。今入院中の友人にとっても、大切なことなんです」
充弘がそう言うと、清田先生はまた目を細めた。
「エレベーターの近くで血まみれになった倒れてたんだって? なにがあったんだ?」
「それを知るために必要なんです!」
一穂が強い視線を清田先生へ向けている。
「今起きたことと、過去の出来事と、どう関係があるんだ?」
「それは……」
そこまで言って、口をつぐんでしまった。
どう説明すればいいだろう。
清田先生が信用してくれるような嘘が思いつかない。
「君たち本当は課題なんてないんじゃないか?」
清田先生の言葉にあたしは一瞬息を飲み、そしてあからさまに視線を逸らせてしまった。
こんなんじゃ、嘘をついていたと肯定しているようなものだった。
「やっぱりそうか。一体なにがあった?」
こうなったら、もう素直に全部話すしかない。
どうせ、信じてもらえないだろうけれど。
あたしは覚悟を決めて口を開いたのだった。
☆☆☆
すべてを話し終えた頃には1時間ほど経過していた。
話せば話すほど現実離れした内容に自分でも時折沈黙してしまうことがあった。
それに、思い出すという行為のせいで恐怖心が湧き上がり、言葉につっかえてしまった。
随分を時間をかけてしまったが、清田先生は決して途中で止めたり急かしたりすることなく、あたしの話を最後まで聞いてくれた。
「そういう事情だったのか……」
「信じてくれるんですか?」
充弘の言葉に清田先生は左右に首をふった。
「そんな話をそのまま真に受けることはできないだろう」
最もな意見に、落胆してしまいそうになる。
結局担任の先生と同じで自分たちのことは信用されないだろうか。
誰にも助けてもらうことができないのから、あたしたちはこの先どうすればいいのか……。
絶望のどん底に突き落とされた気分だった。
「でも、真剣に悩んでいるのはわかった」
清田先生はそう言うと事務室のドアを開けた。
あたし達に背を向けたまま棒立ちになる。
入れ、ということだろうか?
あたしたちは互いに目を見交わせあい、事務室の中へと入って行った。
清田先生はパソコンや本棚に囲まれた事務室を奥へと進んでいくと、無言で一冊の資料をあたしに渡して来た。
ファイル名を読んでみると、そこには障害者用の学校が設立された当初からの、学校撫での出来事を記録したものだった。
開いてみると起こったことの詳細と該当する生徒名、住所などが記載されている。
「先生、これって!」
パッと顔を上げてそう言うが、清田先生はあたしを無視してコーヒーを飲んでいる。
「見て見ぬフリをしてくれてるんだ。早く、エレベーターに関する事故や事件がなかったか調べよう」
充弘は早口でそう言い、資料を手にしたのだった。
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