第28話

~充弘サイド~


スマホ画面が大きくぶれたかと思うと、エレベーターの中を映し出していた。



「嘘だろ……」



走って学校へ向かいながら、思わず呟いた。



幸生があんなことになってもまだ続くなんて思っていなかった。



今度こそ、美知佳になにが起こるかわからない!



その思いで必死に走って学校へ向かう。



最近部活動をサボっていたからか、全力で走るとすぐに肺が痛み始めた。



それでも足を止めず、走り続ける。



ハァハァと苦しい息が口から洩れて汗が絶え間なく流れ出す。



ようやく校舎が見えてきた時、角から誰かが出て来るのが見えて、足に急ブレーキをかけた。



「充弘、どうしたの?」



それは一穂だった。



右手に紙袋を下げて目を丸くしている。



「美知佳から連絡があった」



俺はそう言い、一穂にスマホ画面を見せた。



画面には怯えきった様子で座り込む美知佳が映っている。



その姿を見ているだけでも、胸が苦しくなった。



どうして美知佳がこんな目にあわないといけないんだ。



彼女はなにもしてないのに!



そんなやるせなさが湧き上がって来た。



「あたしも一緒に行く!」



一穂が青ざめた顔で言った。



俺は頷き、一穂と共に学校へかけたのだった。


☆☆☆


学校内へ入ってみても、変わったことは見当たらなかった。



エレベーターはしっかりと閉ざされていて、しっかりとロープがはられている。



どうすれば美知佳を助けることができるんだろう。



自分の無力さに膝を折りそうになったとき、担任の先生が険しい表情で近づいて来た。



今日は休みの日だけど、先生は仕事があったみたいだ。



思わず、視線をそらせてしまう。



「お前ら、またこんなところでなにしてる!」



怒鳴られて一穂が一瞬萎縮した。



でも待てよ?



これは信じてもらえるチャンスじゃないか?



そう考えた俺はすぐにスマホ画面を先生に見せることにした。



このビデオ通話を見れば、嫌でもエレベーターでなにが起こっているのか理解するはずだ。



「これを見てください!」



「なんだ……?」



先生はスマホ画面を見て怪訝そうな表情を浮かべている。



こうしている間にも美知佳は怖い目にあっているはずだ。



一刻も早く先生を味方につけて助けだしたかった。



「なにも映ってないじゃないか」



その言葉に俺は「え?」と、眉を寄せてスマホ画面を確認した。



画面上では怯えた美知佳が悲鳴を上げている。



一穂にも、同じ映像が見えているようだ。



「なに言ってるんですか! ちゃんと見てください!」



もう1度先生にスマホ画面を見せる。



しかし、先生の反応は同じだった。



生徒が恐怖して悲鳴をあげているのだから、先生なら無視するはずがない。



それなのに、この反応はどういうことだ?



俺と一穂は一瞬目を見合わせた。



「先生、もしかして本当に見えてないんですか?」



一穂の言葉に先生は「さっきから何を言ってるんだ? 用事がないなら、もう帰りなさい」と呆れた声になった。



本当に、見えていないんだ……。



エレベーターの中にいる何者かが、俺たちの邪魔をしているに違いなかった。



「とにかく、3階へ向かおう」



俺は先生の横を通り過ぎて、一穂と共に階段を駆け上がったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る