第25話

☆☆☆


ビデオ通話を繋げたまま、あたしたちは校舎内へとかけた。



案の定沢山の生徒たちが残っていて、エレベーターの前教室は部活動で賑わっている。



けれど、幸生が見ていた世界は全く違ったはずだ。



誰1人いない廊下、誰1人いない教室、静まり返った校舎内。



そして、シャッターの下りた廊下。



それらは脳裏に焼き付いていたため、安易に思い出すことができた。



「エレベーター動いてないんだ……」



エレベーターの前までやってきて、あたしはそう呟いた。



ボタンを押しても反応はなく、扉も頑丈に閉まったままだ。



だけど幸生は間違いなくこの中にいる。



『助けてくれ!』



スマホから悲鳴が聞こえてきて確認してみると、エレベーターの箱の中で幸生の体がフワリと浮いていた。



一体どういうことだろう?



疑問に感じて目を凝らしてみると、エレベーターが急上昇と急下降を繰り返しているのがわかった。



時折映る回数表示が激しく点滅している。



幸生の体は壁、天井、床に次々と打ちつけられている。



「幸生!!」



画面へ向けて一穂が叫ぶ。



実際のエレベーターを確認してみても、なにも変化は見られず、音も聞こえてこない。



「3階へ行こう!」



あたしはそう叫び、倒れてしまいそうになる一穂を支えて階段を上がって行ったのだった。


☆☆☆


大急ぎで3階へ向かったあたしたちだが、やはりエレベーターには変化がなかった。



画面上ではいまだにエレベーターが上下運動を繰り返し、その度に幸生は体中を打ちつけた。



「嫌……止まってよ!」



画面へ向けて叫ぶ一穂は、ボロボロと涙をこぼしている。



さっきまで悲鳴を上げていた幸生だけど、今は意識を失ってしまったのか完全に黙り込んでいた。



重力に逆らうこともできず、まるで人形のようにエレベーターに弄ばれている。



やがてその体には血が滲み始めていた。



最初は鼻をぶつけたらしく、顔が血まみれになった。



次第に切り傷が増えてあちこちが赤く染まる。



強くぶつけたせいで骨折したのか、手があらぬ方向へ向いていた。



「このままじゃ死んじゃうよ……!」



一穂があたしにすがりつく。



だけど、今のあたしにできることなんてなにもなかった。



目の前のエレベーターは動いていないのだから。



「どうしてこんなことに? あたしのときにはこんな風にはならなかったのに……」



あたしと幸生とで、どうしてここまで差ができてしまったんだろう?



やっぱり、幸生が相手を怒らせてしまったんだろうか?



考えてみても全くわからなかった。



ただ画面上に見えているエレベーターは上下運動を繰り返し、やがてゆっくりと3階へあがって来るのがわかった。



「もしかして、終わったのか!?」



それを見た充弘が声を上げる。



あたしはハッとしてエレベーターへ視線を向けた。



チンッと小さく音がして、エレベーターの扉が左右に開かれる。



そこにいたのは……血まみれで倒れている、幸生だった……。

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