第24話
☆☆☆
外から見上げる校舎は徐々にオレンジ色に染まりはじめていた。
グラウンドからは部活動をする声が聞こえて来るし、校舎内からも生徒たちの話声が聞こえてきている。
今のところ変化は見られなかった。
「充弘は部活に出なくていいの?」
グラウンドでは野球部の声も聞こえてきていた。
「あぁ。もともとそんなに上手くないしな。練習にでなくても起こられない」
充弘はそう言って苦笑いを浮かべた。
「あたしのせいで練習できてないんじゃないの?」
「関係ないよ。上手くないのに女子たちに騒がれて、部活仲間たちも迷惑がってたのを知ってたんだ」
充弘はそう言ってグラウンドへ視線を向けた。
部活動に励む生徒たちの熱い汗が、ここまで香ってきそうだった。
充弘がここにいるのに、部活に参加するよう声をかけてくる生徒がいないということは、最初からなにか問題を抱えていたのかもしれない。
そう考えたあたしはこの話を打ち切りにした。
「幸生、大丈夫かな……」
一穂が不安そうな声をあげた時だった。
一穂のスマホに幸生からの電話が入ったのだ。
「で、電話っ!」
慌てて電話に出る一穂。
「幸生大丈夫?」
ビデオ通話の向こうにいる幸生はなにか慌てているように見えて、あたしは眉を寄せた。
『今のところ大丈夫だ。でもちょっと……やばいかもしれない』
幸生の息は上がっている。
廊下を走ってるようで、壁のシミが映っていた。
「今どこにいるの? やばいってどうして?」
一穂の声も焦り始める。
『さっきからエレベーターのボタンを押したり、扉を開こうとしたりしてたんだけど、なにも反応はなかったんだ。やっぱり美知佳が選ばれた人で、俺じゃダメなんだって思ってた。でも……』
幸生が廊下の途中で立ちどまり、画面上にその様子を映しだした。
すぐに違和感に気が付いた。
校舎の中からは生徒の話声が聞こえてきているのに、画面の中には誰1人としていないのだ。
ゾクリと背中に虫唾が走った。
無数の虫たちがあたしの肌の上を縦横無尽に這い回っているような不快感。
『たぶん、俺はやりすぎたんだ。エレベーターの前で『出て来い!』って怒鳴ったり、扉を蹴とばしたりしたから』
「どうしてそんなことをしたの!?」
あたしは恐怖に震える声で怒鳴っていた。
エレベーターが本当に危険であることは、幸生だって理解していたはずだ。
それを、わざわざ怒らせるようなことするなんて……!!
『どうしても怪奇現象の正体を掴みたかったんだ! そしたら……突然、誰もいなくなった』
幸生の息がまた上がって来た。
今度は恐怖心からだろう。
「早く外へ逃げて!」
一穂が叫び、幸生が歩みを進める。
画面の奥に昇降口が見えていた。
すぐそばに幸生が来ている。
でも……そこから先に進めないことは、あたしが1番良く知っていた。
画面上から微かな機械音が聞こえてきて、チンッとエレベーターが到着した音が聞こえて来た。
その瞬間、あたしは咄嗟に画面から視線を逸らせていた。
幸生の悲鳴だけが聞こえてきて、一穂が息を飲んだ。
「嘘だろ、幸生が……」
充弘のささやきで、なにが起こったのかすべてを理解した。
「だ、大丈夫だよ。エレベーターの3階で停止すれば、幸生を助けられるから!」
あたしは声を振り絞ってそう言ったのだった。
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