第23話

昼休憩時間、あたしはぼんやりと窓の外を眺めていた。



「どうしたの美知佳?」



あたしの隣に立ち、一穂が声をかけて来る。



「今日もまた、1人になるのかな」



呟くような声でそう答えた。



窓の外には沢山の生徒たちがいて、楽しそうにおしゃべりをしたりふざけあったりしている。



教室内にだってクラスメートたちが沢山いる。



それなのに、放課後になると気が付けば全員いなくなっているのだ。



あたしはそれを、もう何度も経験した。



早退して家にいても無駄だったのだ。



今日だってきっと同じことが起こるだろう。



「それなら、俺が1人で残る」



そんな声がして振り向くと、幸生が立っていた。



「なに言ってるの幸生!」



一穂が驚いたように声を上げる。



あたしも一穂と同じくらい驚いていた。



「俺も、美知佳と同じことを経験してみたい。そして突き止めてみたいんだ。あのエレベーターで何があったのか」



幸生は真剣なまなざしで言い切った。



どうやら本気みたいだ。



「でも、ターゲットはあたしだよ? 幸生が残っていても、なにも起こらないかもしれない」



「そうだけど、やってみないとわからないだろ?」



幸生はあたしの言葉にも聞く耳を持たない様子だ。



「それならあたしが残る!」



一穂の言葉にあたしは目を見開いた。



この2人は本気でこんなことを言ってるんだろうか?



いくらビデオ通話で見ていても、自分自身が経験していないから実際の恐怖を知らないのだ。



「2人とも、これは遊びじゃないんだよ?」



あたしはついキツイ口調になって言った。



遊び半分でやるようなことじゃない。



「遊びだなんて思ってない。もしもエレベーター内になにかいるのなら、ソレは20年も昔からそこにいるってことだぞ? 早くどうにかしてやらないと、可哀想だ」



得体の知れないソレを可哀想と言う幸生の気持ちが信じられなかった。



そんな風に相手のことを考えたことは今まで1度もない。



あたしと一穂は目を見交わせた。



「それなら、あたしの時と同じようにずっとビデオ通話を繋げていて? 外から見た時どういう風に見えるのかも気になる」



そう言ってみたけれど、実際に幸生がエレベーターに入れるかどうか、疑問だけが残ったのだった。


☆☆☆


それから放課後になるまで、あたしたち4人はできるだけエレベーターの情報を集めることにした。



クラスメートたちにエレベーターの噂を何か知らないか聞き、昼休憩になると再び2年生の教室まで言った。



「どうしてそんなにエレベーターの話が聞きたいの?」



真紀恵先輩が飽きれた表情で聞いてくる。



「いえ、好奇心からです」



「本当に? もしかしてなにかに巻き込まれてたりする?」



真紀恵先輩の言葉にあたしは一瞬目を見開いた。



「なにかって、なんですか?」



「さぁ、あたしにはわかんないけど。そんな気がしただけ」



真紀恵先輩はそう言うと肩をすくめた。



結局今日も、有力な手掛かりはつかめないまま放課後が来ていた。



「これからどうするの?」



鞄を肩にかけ、あたしは幸生に聞いた。



「とりあえず、誰もいなくなるまで教室に残る」



「でも、その前にあたしが別の世界に飛ぶかもしれない」



毎回、そうだった。



見えない力が生じていることは確実だ。



「美知佳は早く学校から出るんだ。一穂と充弘も一緒に」



「嫌だよ。あたしは幸生と一緒にここにいる!」



一穂が幸生の腕を掴んでそう言った。



好きな人を危険な目にあわせたくないのだ。



「俺なら大丈夫だから。それに、美知佳が言っているとおり俺じゃダメかもしれない」



その可能性は高かった。



「そうだよ一穂。あたしは外へ出ていたって、きっと気が付けば別世界の教室に飛ばされる」



そう言いながら背筋が寒くなった。



今日はどんな恐怖を味わうことになるのか、想像しただけで心臓が壊れてしまいそうだ。



それでも、幸生はここまで言ってくれているのだ。



本気でエレベーターの怪奇現象を止めようとしてくれている。



「行こう、美知佳」



充弘があたしの手腕を掴んで歩き出した。



痛いくらいに捕まれた手腕は、絶対にあたしを離さないと言う強い意思を感じられた。



「一穂」



まだ幸生から離れられない一穂に声をかけ、あたしたち3人は教室を出たのだった。

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