第22話

3階まで作られていたのは、生徒の運動能力を戻す理由もあったようだ。



といっても、いつでも元気なわけじゃない。



あたしたちだって風邪を引けば階段を上がるのがしんどくなる。



そういうことまで考慮して、エレベーターも設置されていたのだろう。



「エレベーターを使っていた頃、なにか変ったことはなかったんですか? たとえば、エレベーターがひとりでに動き出したりとか……」



そう聞いてから、しまった、と顔をしかめた。



課題で話を聞きに来ているのに、突然オカルトじみた話をすると怪しまれるかもしれない。



そう思ったが、清田先生は笑い声を上げてくれた。



「そんなことは1度だってないよ。最近ではそういう噂が出てるみたいだけどね」



「そうですか……」



少しだけ落胆した気分だった。



当時はエレベーターでの怪奇現象は起こっていなかったのだ。



となると、使われなくなってから噂が流れ始めたのだろう。



使われないエレベーターは薄気味悪いから、どんな噂が立ってもおかしくなかった。



でもそれでは解決しないのだ。



現実になにか起こっていないかわからないと……。



「エレベーター事故なんかも、なかったんですか?」



充弘が思いついたようにそう聞いた。



「さぁねぇ。そういうもの聞いたことがないね」



清田先生は顎をさすって答える。



エレベーターで事故が起こっていれば、あの場所で怪奇現象が起こることも納得できると思ったのに……。



「でも、昔は特別校舎だったからね。体が不自由な子は沢山いてそれが原因で何人か亡くなったりもしたよ」



清田先生はそう言うと、当時を思い出したのか目じりに涙を浮かべた。



そこにはあたしたち健常者にはわからない大変さや、楽しさが隠されているように感じられたのだった。

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