第21話
あたしが経験した一連の出来事は夢だったのだろうか?
夢だと思いたかった。
3階に到着すると充弘たちが待ってくれていたが、エレベーターの開閉を見ていた生徒は誰もいないと言う。
もちろん、下ろされていたシャッターもあたしが目撃しただけだった。
だからこそ、夢だと思いたかった。
悪夢なら誰かに相談して悩みを解決すれば見ることもなくなるから。
「夢なんかじゃない」
あたしの淡い期待を打ち砕くようにそう言ったのは幸生だった。
翌日、学校へ行く途中のことだった。
今日はあたしのことを心配した3人が、わざわざ家まで迎えにきてくれたのだ。
そこで、『夢だったらいいのに』と、口走った答えだった。
「俺たちもビデオ通話で全部見てるんだから」
幸生が真剣な表情で言った。
「ビデオ通話でも、影が見えてるの?」
その質問に、3人が同時に頷いた。
「あのエレベーターには絶対になにかがいる。人間じゃないなにかが」
幸生の言葉にあたしは自分の体を抱きしめた。
「もう1度、先生に聞いてみようか」
そう言ったのは一穂だった。
「先生に? でも、先生たちはなにも知らなかっただろ」
充弘が答える。
たしかに、以前先生に質問した時はなにも得られなかった。
ただ、エレベーターに近づかないように注意されただけだ。
「もっと昔からいる先生に聞くんだよ。事務の先生でいるだろ?」
そう言われて思い出したのは事務の清田先生だった。
60代目前の清田先生は20代のころから坪井高校で働いていると聞いたことがあった。
「清田先生が教えてくれるかな……」
あたしは不安を押し殺すことができなくてそう呟いた。
先生は生徒たちがエレベーターに近づかないようにするため、妙な話を口走ったりはしない。
まだ学校の七不思議の方が情報を得られそうな気がした。
「それなら、授業の課題だって嘘を付けばいい。学校の歴史をさかのぼって調べているんだって」
そう言ったのは幸生だった。
授業の一環なら、清田先生も手伝ってくれるかもしれない。
「わかった。それなら話を聞きに行ってみよう」
あたしは気を取り直すようにそう言ったのだった。
☆☆☆
事務の清田先生はパソコン作業を途中で止めて廊下まで出てきてくれた。
頭部は随分寂しくなってきていて、お腹もポッコリと出ている。
しかし眼鏡の奥のたれ目が可愛らしくて、女子生徒からは祖父のような存在として好かれていた。
「あのエレベーターはもう20年は使われてないよ」
清田先生にあたしたちは目を見交わせた。
それほど昔の話になるとは思っていなかった。
「ちょうど新校舎が建て増しされた時に使用禁止になったから、そのくらいだね」
そういえば入学してすぐの頃、新校舎設立20周年というイベントを全校生徒で開催していたっけ。
「昔は障害者の生徒さんたちが多くいたんですよね?」
充弘が清田先生にそう質問をした。
「そうだよ。元々そういう学校だったからね」
「それなのに、どうして3階建てにしたんですか?」
続いて幸生が聞く。
「障害者といっても程度があるからね。しっかり体を動かすことで日常生活を取り戻すことができる子もいた。そんな子たちは3階の教室で勉強をしていたんだよ」
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