第19話
☆☆☆
ふと、目が覚めた。
眠った時間は短かったみたいだけれど、深く眠れたことで頭は随分スッキリとしていた。
それなのに……目の前の光景にあたしは何度も瞬きを繰り返していた。
「なにこれ……」
そう呟いて上半身を起こす。
あたしは自分のベッドで眠っていたはずなのに、1年B組の教室で目が覚めていたのだ。
慌てて自分の服装を確認すると、制服になっている。
ベッドに入る前、ちゃんと着替えたはずなのに……。
「どうなってるの……?」
恐る恐る立ち上がり、教室内を確認する。
それはいつも見慣れている教室で間違いなさそうだった。
立ち上がるとスカートのポケットに重みを感じて手を入れた。
爪さきが硬い物に触れてそれを引っ張り出す。
やはり、自分がいつも使っているスマホだ。
でも、部屋で着替えをしたときに制服のポケットから出したはずだ……。
不穏な空気を感じながらスマホの画面を確認してみると、時刻は夕方の5時になっていた。
すでに放課後になっている時間だ。
《充弘:体調は大丈夫か? 今から、家に行っていいか?》
充弘から送られてきていたメッセージの時間を確認すると、10分ほど前のものだった。
あたしはすぐに充弘へ電話を入れた。
『美知佳か? 今家の近くまで来てるんだけど』
「今、教室にいる!」
あたしは充弘の言葉を最後まで聞く事なく、そう叫んでいた。
スマホを耳に当てたまま窓まで近づいて外を確認してみるが、人っ子一人いない。
それを確認した瞬間昨日の出来事を思い出してゴクリと唾を飲み込んだ。
まさか、全く同じ状況なんじゃ……?
背中に冷たい汗が流れて行くのを感じる。
『教室? どういうことだ?』
「わからない。家で寝てたはずなんだけど、起きたらここにいたの」
早口に説明すると、通話口の向こうが騒がしくなった。
一穂や幸生も一緒にいたのかもしれない。
『今から学校へ戻るから、動かずにじっとしてろ!』
充弘の怒鳴るような声が聞こえてきて、通話は途切れたのだった。
あたしはスマホを握りしめたままゆっくりと教室内を歩いた。
机や黒板に触れてこれが夢ではないことを確認する。
「まだ5時なのに誰もいないなんて……」
廊下へ出て他のクラスを覗いてみても、やはり誰もいなかった。
そして階段の手前に下ろされた重たいシャッター。
昨日と全く同じ状況だ。
愕然と立ち尽くしてしまったとき、充弘から電話が来た。
『今学校に付いた。教室にいるんだろ?』
「うん……」
頷きながらも、嫌な予感が加速する。
充弘はもうすぐあたしを助けに来てくれるだろう。
だけど、本当にここへたどり着く事ができるのだろうか?
もしもたどりつけなかったら……?
その考えを、強く頭をふってかき消した。
そんなわけがない。
ここはどこからどう見ても、普段の学校なのだ。
充弘はきっとすぐに来てくれる……!
『美知佳、お前今どこにいる?』
「教室だよ」
『嘘だろ? 俺たちは今教室にいるんだ』
充弘の言葉にあたしは周囲を見回した。
相変わらず誰の姿も見えなかった。
一気に全身の力が抜けて行ってしまいそうだった。
机に手を付き、その場にうずくまりそうになるのをかんとか踏ん張る。
『教室のどこら辺にいるの?』
声が変わった。
一穂の声だ。
「教卓の前だよ」
『教卓の前……?』
一穂が困惑している。
でも、それはあたしも同じだった。
3人がふざけてあたしを脅かそうとしているのだと思いたかった。
『美知佳、ビデオ通話に変えてくれ』
充弘の声がして、あたしはすぐにスマホを操作した。
画面上に充弘の顔が現れると少しだけ気持ちが楽になった。
しかし、充弘の後方に映っている景色に絶句してしまう。
そこに映っていたのは間違いなく1年B組の教室だったのだ。
あたしが今立っている教卓も写っている。
しかし、そこにあたしの姿はなかった。
『そこは一体どこなんだ……?』
姿は映っていないけれど、幸生の声が聞こえて来た。
「やっぱり、あたしが1人で違う世界に来ちゃったんだ……」
『大丈夫だよ美知佳。絶対に元の世界に戻れるから!』
一穂が青ざめた顔で、一生懸命声をかけてくれる。
「元の世界に戻る方法って……エレベーターに乗る事だよね?」
あたしの質問に、誰も返事をしてくれなかった。
今まで何度か経験したからもうわかっている。
あたしが1階からエレベーターに乗り、3階で降りれば現実世界に戻れるのだ。
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