第18話
気分が落ち着いてから4人で廊下へ出ると、下ろされていたシャッターはあげられていた。
3人が言うには校舎に戻った時すでにシャッターは上がっていたという。
やっぱり、何者かがあたしを学校内に拘束するために力を使っているんだ……!
そう考えると夜になってもなかなか眠ることができなかった。
ベッドの中で何度も寝返りを打ち、キツク目を閉じる。
しかし、瞼の裏にはエレベーター内の様子が蘇って来て、恐怖で目を開けると言う行為を繰り返した。
やがて窓から朝日が差し込み始めて、あたしは大きくため息を吐きだした。
結局ほとんど眠ることができなかった……。
頭はボーっとしているはずなのに、目だけは完全に覚めてしまっている。
午前6時になるのを待ってあたしはゆっくりと上半身を起こした。
寝不足が原因で少し頭がフラフラするのを感じる。
それでも、冷たい水で顔を洗うと幾分スッキリした気分になった。
☆☆☆
「美知佳、大丈夫?」
誰よりも早く教室に入って突っ伏していたあたしに、一穂が声をかけてきた。
顔をあげると一穂が驚いた表情を浮かべる。
「ちょっと美知佳、ひどい顔だよ!?」
「うん……昨日全然眠れなかったの」
そう言い、自分の頬を両手でかくした。
出かける前にコンシーラーで目の下のクマは隠したけれど、それだけでは疲れは隠しきれていなかったみたいだ。
「そっか。あんなことがあったんだもんね……」
一穂は心配そうに眉を下げている。
「でも、もうエレベーターには近づかないし、大丈夫だよ」
「うん……」
あたしの言葉にも、一穂は不安そうな表情を消さなかった。
「本当に、それだけでいいのかな?」
「え?」
あたしは首を傾げて一穂を見つめる。
「昨日だって、気が付いたら美知佳は教室に1人になってたんだよ?」
「あ……」
そういえばそうだった。
昨日は意識的にエレベーターに近づかないようにしていたのに、近づかざるを得なくなってしまったのだ。
もし、またあんなことが起こったらどう対処していいかわからなかった。
「ねぇ、もう1度真紀恵先輩に話が聞きに行かない?」
「真紀恵先輩に?」
あたしは頷いた。
今のところエレベーターの噂について詳しく知っていそうな人は真紀恵先輩しかいない。
真紀恵先輩がどこまで知っているか疑問が残るけれど、もう1度しっかりと話が聞きたかった。
「わかった。昼休憩に時間がもらえるか、連絡しておこうね」
一穂の言葉にあたしは頷いたのだった。
☆☆☆
それから昼休みになるまで、あたしはずっとエレベーターの怪奇現象について考えていた。
あたし以外に誰か同じような経験をした人はいないのだろうか?
なにかしらの出来事があったから、真紀恵先輩は噂を知っていたのだろうから、経験した人物と接触すればなにかわかるかもしれないんだけど……。
しかし、事態はそんなに簡単には運ばなかった。
昼休憩になるとあたし達4人は予定通り真紀恵先輩と合流した。
昼ご飯を食べながらということになったので、今日はみんなで食堂に集合した。
食堂の中は色んな生徒たちでごったがえしていて、カウンターの奥では白衣を着たおばちゃんが何人もせわしなく立ち動いている。
「で、今度も噂話を聞きに来たんでしょう?」
カレーが乗ったトレイを持って椅子に座り、真紀恵先輩が聞いて来た。
あたしたち4人はお弁当やコンビニのパンなので、なんとなく居心地が悪かった。
「そうです」
「残念だけど、エレベーターの噂は前に教えたことしか知らないよ?」
真紀恵先輩はそう言いながら具がほとんど入っていないカレーを口に運ぶ。
その光景と匂いで刺激されて、あたしは自分のお弁当に箸をつけた。
今朝はほとんどご飯も食べずに出てきたから、急にお腹が空いて来た。
「エレベーターの噂って誰から聞いたんですか?」
一穂があたしの代わりに質問してくれた。
「誰だっけなぁ……? 結構みんな話てるから、忘れちゃったよ」
それでもどうにか思い出してくれないかと頼んでみたけれど、難しかった。
代わりに食堂にいた真紀恵先輩の友人たちにエレベーターの噂について聞いてみると、もれなく全員が知っているという結果になった。
それほど有名な噂話だったのだ。
それなら1年生の間でもすでに知っている子は多そうだ。
そうなると出所を知ることは更に難しくなっていく。
「そんなに熱心に噂について聞きたがるなんて、なにかあった?」
カレーを食べ終えた真紀恵先輩にそう聞かれ、あたしは一瞬全部話してしまおうかと考えた。
しかし、寸前のところで思いとどまる。
仮に真紀恵先輩が信用してくれたとしても、それで巻き込んでしまうことになるかもしれないのだ。
大切な人をこれ以上巻き込むわけにはいかない。
「……いえ、なんでもないです」
あたしはそう言い、無理に笑顔を浮かべたのだった。
☆☆☆
それからあたしは急激な眠気に襲われ、早退することになった。
お腹が膨れたから、ようやく睡魔がやってきてくれたのだ。
タイミングは悪かったけれど、朝から青い顔をしていたため先生もすんなりと帰宅を許してくれた。
自分のベッドに入ってから眠りにつくまで、そう時間もかからなかったのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます