第17話

☆☆☆


あたしは悲鳴を上げたのか、それとも意識を失ったのか、自分でもよくわからなかった。



ただ、吸って吐いて吸って吐いてを繰り返す誰かの呼吸に戦慄し、頭の中は真っ白になった。



スマホから3人の声が聞こえて来ても反応することができないまま、気がついたらエレベーターの扉は開いていたのだ。



エレベーターは3階に到着し、夕方の太陽光を招き入れていた。



「美知佳!!」



かけつけた充弘があたしの体を持ち上げ、箱の中から出す。



そのあたりの記憶がひどく曖昧になっていた。



「落ち着いた?」



一穂にそう声をかけられて我に返ると、あたしはB組の自分の席に座っていた。



きっと充弘がここまで運んでくれたのだろう。



「ごめんな。保健室に行こうと思ったんだけど、昨日のことがあるから……」



充弘はそう言って目を伏せた。



昨日怒られたばかりだから、行くことができなかったんだろう。



同じ説明をしたところで不審がられるだけだ。



「ううん。大丈夫」



あたしはまだ夢見心地でそう返事をした。



「今日も同じことが起こるなんてな……」



幸生がさすがに青ざめた顔で呟いた。



「そうだよね。今日は肝試しなんてする気はなかったのに、どうしてこんなことになったんだろう」



一穂もさっきから顔色が悪い。



あたしは大きく息を吸い込んだ。



「きっと、あたしが1人になっちゃったときから始まってたんだよ」



「どういう意味だ?」



充弘の問いかけに、あたしは自分の体を抱きしめた。



「忘れ物を取りに戻った日。あの時からなにかに狙われるようになったんだと思う」



そうとしか考えられなかった。



もしかしたらその後面白半分で肝試しをしてしまったことも関係あるのかもしれないが、怪奇現象そのものは最初から始まっていたのだ。



「狙われるって、幽霊にか?」



「わからない。でもエレベーターの中にいる、誰か」



あたしは幸生からの質問に早口で答えた。



エレベーターの中にいる誰か。



それが何者なのか全く見当はつかなかった。



なぜあたしばかりが何度も恐ろしい目に遭うのかもわからない。



「だけど、その誰かは美知佳を殺したりしてないよな」



充弘が真剣な表情で言った。



「確かにそうだよな。幽霊だとしても怖い目に遭うだけで、それ以上のことがない」



幸生が呟く。



それは一体どういう意味があるんだろう?



「それに、エレベーターの中から出れば現実世界に戻ってくることができてる。それって、美知佳に危害を加える気がないってことじゃないか?」



幸生の言葉にあたしは黙り込んでしまった。



あたしに危害を加える気がないのなら、エレベーターに引きずり込む必要だってないはずだ。



「もしかして、美知佳に伝えたいことがあるとか?」



「伝えたいこと?」



あたしは一穂の言葉に聞き返した。



「そう。伝えたいことがあるから美知佳を巻き込んでしまったって考えれば、殺されない理由にもなるよね?」



伝えたいこと……。



闇の中に現れる誰かは、なにを訴えかけているんだろう……。

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