第15話
「なにか……変だ……」
鞄を肩にかけた瞬間、強烈な違和感があってあたしは動きを止めていた。
胸騒ぎがして早足で教室を出ると新しい校舎から階段を下ろうとする。
しかし……そこには大きな壁が立ちはだかっていたのだ。
廊下と階段を隔てるように下ろされた防犯シャッターにあたしは足を止めていた。
「なにこれ、どうしてシャッターが下りてるの?」
混乱しながら周囲を確認する。
火事などが起こった形跡はない。
そんなことがあれば火災ベルが鳴り響き、あたしだって目を覚ましていただろう。
わけがわからないままシャッターに手をかける。
しかし、それは頑丈に固定されていてビクとも動かない。
あたしは両手を使って思いっきりシャッターを押し上げようとする。
しかし、それは無駄な努力に終わってしまった。
「なんで……?」
どこか、シャッターを固定しているものでもあるのだろうかと思って調べてみても、そのようなものは見つけることができなかった。
1人で途方に暮れそうになっていた時だった。
不意にポケットの中のスマホが震え、それは一穂からの着信だった。
『美知佳、今どこにいるの?』
「どこって、校舎の中だよ。一穂はどこにいるの?」
『あたしは充弘と幸生の2人と一緒に外にいる。でも、なんか変なの』
「変って?」
あたしは返事をしながらB組以外の教室を覗き込んだ。
どこの教室にも生徒の姿はない。
『あたしたち、気がついたら学校の外に立ってたの。今、昇降口の前にいる』
「え……?」
『みんなとホームルームをしていたはずなのに、急に記憶が飛んでるの』
その説明にあたしは眉を寄せた。
それじゃまるで、あたしと同じだ。
ただ、あたしの場合は校舎内に残されてしまった。
あたしは自分の状況を簡潔に説明し、B組に戻ると窓へと近づいた。
この窓からはグラウンドも昇降口も確認できる。
一穂が言う事が本当なら、ここから3人の姿を確認することができるはずだった。
「一穂、どこにいるの?」
窓の外を確認してみても、それらしい姿は見えない。
それ所かグラウンドにも道路にも、人の姿が見えなかった。
『昇降口の前だよ。今B組を見上げてる』
そう言われてもう1度確認してみたが、やはり3人の姿は見えなかった。
次第に焦りを感じ始めて何度も教室内を見回した。
なんの変哲もない教室のはずが、今はあたしを取り囲む牢獄のように見えた。
「一穂たちの姿はどこにも見えないよ? 本当にいるの?」
『いるよ! B組から覗いて見てよ!』
その言葉にあたしは一瞬にして凍り付いた。
あたしはさきからずっと、B組の教室から下を覗いているのだから。
「あたし、ずっとB組の窓辺にいるよ?」
『嘘……どこ?』
「教卓に一番近い窓だよ」
『どこ? 全然見えないよ!?』
一穂の声が焦り始めている。
あたしも背中に冷たい汗が流れて行くのを感じた。
あたしと一穂たちは同じ空間にいるはずだ。
それなのに姿が見えないなんて……。
『美知佳、とにかく外へ出ろ!』
それは充弘の声だった。
「でも、シャッターが下りてて出られないの」
『古い校舎へ向かうんだ』
スッと体温が下がって行くのを感じた。
自分自身それはもう理解していることだった。
新しい校舎から出られないのなら、古い校舎を使うしかない。
そうすればあたしは外へ出ることができるのだから。
あたしはゆっくりとした足取りで廊下へ出るとつぎはぎになっている校舎を見つめた。
古い校舎はいつ見ても薄暗く、ジットリとしている雰囲気だ。
あたしはゴクリと唾を飲み込んで一歩足を前に踏み出した。
もう使わないと心に決めていたのに関わらず、こんなに早く古い校舎を歩く事になるなんて……。
『美知佳、ビデオ通話に切り替えて』
その声は幸生だった。
「え?」
『なにかあったときにすぐ駆けつけられるように』
なにかってなに? そう聞きたいのをグッと我慢した。
できれば何事もなく外へ出たい。
でも……エレベーターの中の出来事が思い出されてあたしは強く身震いをした。
幸生の言う通り、すぐにビデオ通話に変えた。
『本当に誰もいないんだな……』
2階へ降りて来ても生徒の姿は見られなかった。
先輩たちも、もう帰ってしまったのか。
それともやっぱり、あたし1人が別世界に飛んでしまったのか……。
そんなことを考えながらあたしは2階の新しい校舎へと足を急がせた。
2階ならシャッターが下ろされていないかもしれないと考えたのだ。
しかし、その淡い期待はすぐにかき消されてしまった。
「2階にもシャッターが下りてる……」
3階と同様に階段の手前にあるシャッターが完全に下がっていて、自力で上げようとしてもビクともしない状態だ。
これじゃ外へ出ることはできない。
あたしは諦めて古い校舎へと引き返す。
エレベーターの前を通るときは小走りになり、視線をそむけるようにして通過した。
そして1階までたどり着いた。
ここまでくると少し安堵してため息が出た。
ひどく緊張していたようで、心臓も早鐘をうっていることに気が付いた。
昇降口まではあと少しだ。
『気を付けろよ』
充弘の声にあたしは歩みを緩めた。
そうだった。
昇降口へ行く前にの廊下にはエレベーターがある。
外へ出るためにはそこを必ず通らなければならないのだ。
そう気が付くと、途端に足が重たくなった。
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