第14話

極度の恐怖で意識を失ってしまいそうだ。



それでも意識を保てていたのは、一穂たちからの声が聞こえて来るからだった。



『美知佳、聞こえてるか!?』



充弘の声にあたしはゴクリと唾を飲み込む。



次の瞬間……目の前の扉が開いていたのだ。



いつの間に太陽が出たのだろう。



オレンジ色の光が箱の中にまで降り注ぎ、隅の闇を溶かして消して行った。



「美知佳!?」



そんな声が聞こえてきたかと思うと、扉の向こうから一穂の顔が見えた。



その顔を見た瞬間、あたしは意識を失っていたのだった。


☆☆☆


あたしたちはもう2度とエレベーターには近づかない。



保健室で目覚めてから家に帰るまでに、あたしたち4人はそう決めた。



一穂たちはエレベーターが動いているのを目撃しているし、あたし自身はあの中に引きずり込まれたのだ。



あれは夢なんかじゃない。



現実で起こった出来事だ。



残念ながら、先生たちにいくら説明しても信じてもらえなかった。



実際にエレベーターの前まで行ってみたけれど、エレベーターはピクリとも動かずもちろん扉だって開かなかった。



結局、あたしたち4人が放課後の校舎で悪ふざけをして遊んでいたことが原因で気絶した。



という結論にされてしまった。



でも、それに反論する気はもうなかった。



とにかくエレベーターから生きて出て来られただけで十分だった。



《一穂:ごめんね、あたしが変なこと言ったせいで……》



家に戻ってから一穂からもらったメッセージにも、あたしは返事をしなかった。



悪いのは一穂だけじゃない。



あたしだって最初は調子の乗っていたのだから。



今はとにかく、ゆっくりと休みたかったのだった。


☆☆☆


「美知佳、休まなくて大丈夫なのか?」



翌日、1年B組の教室へ入ると真っ先に充弘が駆けつけてくれた。



それはとても嬉しかったけれど、昨日ことを思い出すと複雑な気分だった。



「うん。もう体調は悪くないから」



そう言ってほほ笑んで見せても、自分の頬がひきつっているのがわかった。



「無理はしない方がいいぞ?」



「ありがとう充弘」



あたしは何度も頷いた。



そうすることで自分自身も安心できる。



「先輩が言っていた噂は本物だったんだな」



幸生が深刻そうな表情で言った。



「もうエレベーターには絶対に近づかない方がいい」



それところか、あたしはもう古い校舎へ向かうもの嫌だった。



昇降口までの距離が少し遠くなっても、あたしは新しい校舎を歩いて行くだろう。



「それより、もっと他の話がしたい」



あたしはそう言い、半ば強引に話を終わらせたのだった。


☆☆☆


あたしたちはもうエレベーターには近づかない。



古い校舎にも立ち入らない。



そう、決めたはずだった……。



「え?」



ふと気が付くと、あたしは1人で1年B組の教室にいた。



さっきまでみんなと一緒に最後のホームルームをしていたはずなのに、誰1人として教室に残っている生徒はいなかった。



あたしは慌てて立ち上がり廊下へ出た。



そこにも生徒たちは残っていなかった。



「なんで? あたし、いつの間にか寝ちゃったのかな?」



そう呟き、鞄に教科書やノートを詰めていく。



それにしてもおかしい。



一穂たちがあたしに声もかけずに帰るとは思えなかった。



眠っていたとしたら、なおのことだ。



一穂たちならきっとあたしを揺さぶり起こして『なに寝てるのぉ?』とからかってくるだろう。

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