第13話

「キャアアアアアア!!」



自分の悲鳴が廊下一杯に響き渡るのを聞いた次の瞬間、目の前でエレベーターの扉が閉められた。



『美知佳、美知佳大丈夫!?』



スマホから聞こえて来る一穂の声にすがりつくように、あたしはスマホを握りしめた。



そのままエレベーターの隅まで移動し、膝立をしてできるだけ小さくなった。



そうすることでなんらかの危害から逃れられるような気がした。



「一穂助けて!!」



『今どこにいるの!?』



「エレベーターの中!」



そう返事をし、すぐにスマホでエレベーター内を映し出した。



『これ、まじかよ……』



幸生の愕然とした声が聞こえて来る。



『どうやって入ったんだよ!?』



続いて充弘の声。



「知らないよ! いきなり足を掴まれて引きずり込まれたの!」



『足を掴まれたって、誰に?』



あたしは一穂からの質問に左右に首をふった。



誰かなんてわからない。



あたしにはなにも見えなかったのだから。



『とにかく開くボタンを押すんだ!』



充弘からの指示にハッと顔を上げてボタンを確認した。



3階までの回数ボタンと、開閉ボタン。



それに、エレベーターが停止したときの緊急ボタンがある。



あたしはしゃがみ込んだまま壁に手を伸ばした。



ここエレベーターは障害者生徒のために作られたものだから、低い位置にも同じボタンが設置されている。



あたしは開くボタンを何度も何度も連打した。



「開いて……お願いだから開いて……!」



しかし、扉が開く気配はない。



「なんで開かないの!? さっきは開いたじゃん!」



悲鳴に近い声をあげると、箱の中にこだまして自分の耳に戻って来る。



それはまるで、あたしをあざ笑っているかのように感じられた。



『落ち着いて美知佳。外からもボタンを押してみてるけど、なんの反応もないみたい』



一穂の声だ。



なんの反応もないなんて、そんなわけない。



それじゃどうやってこのエレベーターは1階までやってきて、扉が開いたのか説明がつかない。



「お願い、誰か助けて……!」



壁に拳を打ちつけた時だった。



グィーン……。



あの音が箱の中で聞こえ、かと思うとエレベーターが動き始めたのだ。



あたしは息を飲んで壁に背中を張り付けた。



エレベーターは微かな機械音と共に上昇しているのがわかった。



数字のボタンなんて押してないのに……。



それとも、外から誰かが操作してくれたのだろうか。



エレベーターに乗ってしまったあたしのために、3人が先生に報告したのかもしれない。



そんな淡い期待が膨らんで来た時だった。



不意に電気が点滅し始めたのだ。



「え、なに!?」



元々薄暗い箱の中は何度も何度も点滅を繰り返し、闇を深めて行っているかのように感じられた。



あたしは恐怖で声がひきつり、喉がヒリヒリと痛んだ。



でも、そんなことも気にならない。



突然始まった点滅の合間に一瞬だけ人影を見た気がしたのだ。



あたしは悲鳴さえ上げられずに狭い箱の中を凝視した。



あたし以外の誰かがここにいる……?



じっとりとした汗が滲み出てきて、途端に箱の中の湿度が上昇した気がした。



次の瞬間、上部に設置されている回数表示が3のところで停止し、チンッと小さく音が鳴った。



そのタイミングを見計らっていたかのように点滅は途絶え、蛍光灯の明りが箱の中に降り注ぎ始めた。



あたしは、はっはっとまるで犬のような呼吸を何度も繰り返した。

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