第11話

古い校舎へ入るときにはわざと廊下の継ぎ目や、壁のシミを写してみた。



『なんだか本当に怖いね……』



一穂が固唾を飲む音がここまで聞こえてきそうだった。



そして、エレベーターの前に到着した。



「今日も特に変わったところはないかも」



エレベーターは相変わらず沈黙を貫いている。



ほとんどの生徒がここにエレベーターがあることなんて、認識外に置いて生活をしているだろう。



『扉を開けてみて』



幸生に言われてあたしは扉に手をかけた。



しかし、それはビクともしない。



先生が言っていた通り開かないように溶接されているのだろう。



試に今日もボタンを押してみたけれど、やはり反応はなかった。



「やっぱり、変化はないね」



あたしはホッと胸をなで下ろしてそう言った。



『次は2階に降りてみてよ』



今度は一穂からの指示だ。



「わかった」



3階のエレベーターは昨日となんら変わりはなかった。



その事に安堵したあたしは、足早に2階へと向かったのだった。


☆☆☆


その後、2階でも同じような確認作業をしてみたが、結果は全く同じだった。



扉は開かないし、ボタンも無反応。



残っているのは1階のエレベーターだけだった。



『結局なにも起こらないのかなぁ』



残念そうに言ったのは幸生だった。



怪奇現象の大半は少人数の時や1人きりの時に起こる。



とすれば、今日なにかが起こらなければ、もうなにも起こらないということだ。



「そんなに残念そうにしないでよ。こっちは結構怖いんだから」



あたしは幸生へ向けてそう言い、1階のエレベーターの前で立ちどまった。



途端に、雷雨が鳴った時の光景を思い出して足がすくんだ。



あの日は今日よりもずっと天気が悪くてジメジメしていて、古い校舎へ入った瞬間嫌な空気がまとわりついてきた。



それは湿度のせいだと思っていたけれど、今ここにきて、あの時と同じような不快感が体にまとわりついていることに気が付いた。



自然と呼吸が浅くなり、背中に汗が流れて行く。



実況することもわすれて立ち尽くしていると『おい、大丈夫か?』と、充弘の声が聞こえてきて我に返った。



「だ、大丈夫だよ。1階のエレベーターも、特に異常はないみたい」



そう伝えた瞬間だった。



グィーン……。



微かにあの音が聞こえて来たのだ。



その瞬間、体からスッと血の気がひいていくのを感じた。



嘘だ。



なにかの勘違いだ。



だって今日は不活動で近くの教室が使用されている。



だからきっと、他の機械音が聞こえて来たんだ。



自分自身にそう言い聞かせながら、部活の教室へと振り向いていた。



瞬間、呼吸が止まった。



徐々に目を口が開いて行き、言葉が出てこなかった。



『美知佳、どうかしたのか?』



充弘が心配そうに声をかけて来る。



「なんで……」



あたしはそう呟いて、スマホカメラを部室教室へと向けた。


そこにあったのは真っ暗な教室だった。



部活動が休みの曜日以外は必ず明かりがともっていて、中から生徒たちの声が聞こえてきているはずの教室。



『部室に誰もいないの?』



その声は一穂だった。



あたしはカメラに自分の姿が映っていないことも忘れて、何度もうなずいた。



徐々に口の中がカラカラに乾いていくのを感じる。



その瞬間、また聞こえた。

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