第9話

☆☆☆


いつも通り学校へ到着すると、1年B組の教室内ですでに一穂が肝試しの話をしていた。



「あ、美知佳来た!」



教室に入ってきたあたしに気が付き、元気いっぱいに手を振って見せている。



話を聞いていた充弘と幸生もこちらへ視線を向ける。



あたしはかすかにひきつった笑みを浮かべて3人に近づいた。



「おはよう3人とも」



あたしが挨拶をするや否や「ってことで、今日は美知佳が1人で肝試しをすることになったから!」と、一穂が言った。



あたしはギョッとして一穂を見つめる。



本当にあたし1人がやらないといけないんだろうか?



そんなあたしの気持ちには気が付いてもらえないようで、一穂はあたしへ向けてウインクをして見せている。



あたしは仕方なくゆるゆると息を吐きだして、苦笑いを浮かべた。



「本当に1人で平気なのか?」



充弘は早くも心配してくれていて、あたしの心臓はドクンッと大きく跳ねた。



まさか本当に心配してくれるなんて思っていなかった。



「う、うん……」



充弘があたしの心配をしてくれることが嬉しくて、否定することもできなくなってしまう。



あたしはぎこちなく頷いて、ほほ笑んだ。



「怪奇現象を見たのは美知佳だもんな。それに昨日は4人で残っちゃったからなにも起きなかったんだ。今日は絶対になにか起こるぞ!」



幸生はすでに目を輝かせはじめている。



本当にオカルトにドはまりしているのだろう。



そんな幸生を見ている一穂も嬉しそうだ。



今更引き返すことはできなさそうな雰囲気だ。



「ただし、なにかあったらすぐに助けに来てよ?」



あたしは発案者である一穂へ、念を入れるようにそう言ったのだった。


☆☆☆


それから放課後まではあっという間だった。



幸生からしてみれば放課後までの時間が長すぎて、ずっと落ち着かない様子だった。



放課後のホームルームが終り、担任の先生が教室を出ると同時に幸生があたしの机へと駆け寄って来た。



「ついに放課後だ!」



分かり切ったことを口走り、今にも跳ね上がりそうなほど興奮している。



「まだだよ。せめて帰宅部の生徒たちがいなくなってからだよ」



あたしは幸生をなだめるようにそう言った。



「わかってるって! あぁ、楽しみだなぁ!」



幸生はスマホを取り出し、ビデオ通話の調子を確認し始めた。



「ちょっと、美知佳と通話をするのは充弘だからね?」



そんな様子を見ていた一穂が鞄を片手に近づいてきてそう言った。



「え、なんで?」



「当たり前でしょ」



一穂はそう言うが、幸生は理解できていないようでしきりに首をかしげている。



この4人の中では幸生が1番オカルト好きだから、当然自分がビデオ通話できるものと思い込んでいたようだ。



今回の趣旨は全く別のところにあるのだけれど、理解していない。



「美知佳、本当にやるのか?」



充弘にそう声をかけられて、一瞬にして背筋が伸びた。



「う、うん……」



「気を付けろよ? お前、昨日もボーっとしてたんだし」



「昨日は充弘のお蔭で怪我をしなかったよ。ありがとう」



思い出すだけでも全身がカッと熱くなる。



一方の充弘はなんでもないことのように、表情ひとつ変えていないけれど。



「今日は俺は一緒にいないんだからな?」



「わかってる。十分に気を付けるよ」



そう答えながら充弘からの心配を噛みしめる。



なんとも思っていない子のことなら、ここまで心配しないかもしれない。



でも、表情を変えないということは、そこまで特別な意味も持っていないのかもしれない。



嬉しい半面、悲しい気分になって複雑な気分だ。



しかし、一穂は1人ニヤついた表情をあたしへ向けているのだった。

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