第8話

今日は雨が降ることもなく無事に家に帰ることができた。



朝は少し肌寒いと感じていたが、体調も良くなっている。



今日の分の宿題を終わらせて漫画を読んでいた時、一穂からメッセージが届いた。



《一穂:ちょっと美知佳! 今日のはすごかったじゃん!》



一瞬一穂が何を言っているのかわからなかったけれど、すぐに放課後の出来事を思い出した。



あたしは思いっきり充弘に抱きしめられたのだ。



思い出した途端頬が熱くなる。



《美知佳:あ、あれはわざとじゃないし!》



《一穂:もしかして天然でやったの!? それこそすごいじゃん!》



そんなところで褒められたって嬉しくない。



《美知佳:一穂だって、頑張ってたね!》



これ以上自分のことに触れられたくなくて、すぐに話題を変更した。



《一穂:あたしは全然ダメだよ~! どれだけ近づいても、幸生はオカルトのことで頭が一杯なんだもん!》



不満そうな絵文字が一緒に添えられていて、プッと噴き出した。



確かに幸生は一番オカルトに食いついていたっけ。



でも、それもきっと一時のことだろう。



別の本にハマれば、それが例えば恋愛小説とかなら、今度は恋愛に興味を持ち始めるだろう。



そうなれば、幸生の近くにいる一穂はとてもいい位置にいるように思えた。



《一穂:でも、美知佳は本当にもうひと押しって感じじゃん!》



あたしはそのメッセージに首を傾げた。



《美知佳:どこが?》



《一穂:だって、階段から落ちそうになった後も、ずっと手を握ってくれてたじゃん》



《美知佳:それは、単純に心配だったんだと思うけど……》



あたしがあまりにボーっとしていたことが原因だ。



理解しているだけに、期待は少なかった。



《一穂:あれを見ててちょっと面白いこと考えたんだけど!》



《美知佳:面白いこと?》



なんだろうと思いながらも、なんとなく嫌な予感が胸をよぎる。



また肝試しとかの話だろうか?



幸生ならすぐに食いつくだろうけれど、あたしはそれほど得意じゃなかった。



《一穂:今度は美知佳が1人で放課後残ってさ、充弘に実況中継すればいいんだよ!》



そのメッセージにあたしは目を丸くした。



やっぱり肝試しの話だったかと落胆しつつも、『実況中継』という文字に目が奪われた。



《美知佳:実況中継ってどういうこと?》



《一穂:スマホでビデオ通話をしながら肝試しをするってことだよ! 今回なにも起こらなかったのは放課後1人になってなかったからかもしれないじゃん? だから今度こそ、美知佳1人でやってみるんだよ!》



一穂からのメッセージにあたしは深く嘆息した。



確かに今回は4人で残っていたからなにも起こらなかったのかもしれない。



けれど、あたし1人で肝試しをしたところでなにも変わらない気がした。



なにより、そんなことで充弘があたしを見てくれるようになるとも思えない。



《美知佳:そんなことしても、充弘があたしと付き合ってくれるとは思えないけど》



あたしは感じたままをメッセージで送った。



《一穂:それはそうだけど、でも充弘もそういうの興味あると思うなぁ。怪奇現象が起こっても起こらなくても、途中で充弘の名前を読んでみるんだよ。そしたらきっとすぐにかけつけて美知佳を助けてくれるよ!》



本当にそんな簡単にいくだろうか?



今回は階段から落ちそうになったから助けてくれたけど、自分から進んで肝試しをしておいて助けて欲しいなんて、無視が良すぎる気がする。



しかし、スマホの向こうにいる一穂はすでにやる気満々のようで《一穂:じゃ、今日の放課後楽しみにしてる!》と、送られてきたのだった。

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